ガレリア・イスカ通信

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2017年 11月 12日

永井一正ポスター展のチラシ「Himeji City Museum of Art」(2017)

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今日は少し冷たい風が妙に心地よく感じる秋晴れの一日となった。久し振りに文化施設に出向いた後、付設の茶室を訪れ、抹茶を頂いた。目的は本日11月12日に開催初日を迎える日本を代表するグラフィック・デザイナーのひとり、永井一正(Kazumasa Nagai, 1929-)氏の初期から最新作までのポスター500点を展観する展覧会『永井一正 ポスター展』のチラシだ。会場は永井氏が青春時代を過ごした兵庫県姫路市にある姫路市立美術館(Himeji City Museum of Art, Himeji)。《国宝》姫路城近くに建つこの美術館には永井氏から既に200点のポスターが寄贈されており、それに300点を加えた500点が一堂に会するとのこと。チラシとともに、ポスター、チケット、図録のデザインを永井氏本人が出掛けている。永井氏がライフワークとする“生命(Life)シリーズ”の流れに沿って、姫路市を象徴する“姫路城”、別名“白鷺城”を図案化したもので、究極にまで簡素化した中に日本的な美意識とデザインの力強さを感じる美しい作品となっている。しかし、ただ美しいだけではないように思われる。白鷺と小さな鯱(シャチホコ)の対比は、自然の大きさを強調しているようであり、死と生が表裏一体である自然界の摂理を表しているようにも見える。また刷りに関しても、通常のオフセットではなく、シルクスクリーンを思わせるインパクトのある仕上がりとなっており、是非手に入れたいと思い、出掛けた次第。

以前、姫路城近くに住んでいる方とコンサート待ちのために立ち寄った喫茶店で偶然お会いしたことがあるが、国宝と言えども、日常の中に溶け込んでしまうと、何の意識もしなくなり、感動もない、とのことであった。人間はその肥大化した脳が故に、繰り返される日々の暮らしに飽き足らず、非日常的な世界や空間を演出したりせねば、目の前にある美に気付かず、果ては生きていることの意味さえも見失ってしまう。それは動物のように生き延びるための厳しい日常の営みとはかけ離れてしまってた人間の、命の根源に対する意識の希薄さに他ならない。永井氏はそうした人間の肥大し暴走する欲望の在り方を省み、地球が生命の星であることの奇跡、そして美とは命の輝きそのものであるということを改めて問い直そうとしているのかもしれない。

●作家:Kazumasa Nagai(1929-)
●種類:Flyer
●サイズ:297x210mm
●技法:Silkscreen(?)
●発行:Himeji City Museum of Art, Himeji
●印刷:Yamada Photo Process Co., Ltd, Toyama
●制作年:2017
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フォロンのカレンダー、1994年制作。チラシを見ているうちに、直接的な関係はないと思うのだが、ベルギー出身の画家で彫刻家のジャン=ミシェル・フォロン(Jean-Michel Folon, 1934-2005)がイタリアの天然ガス供給公社スナム(Snam)と鷺をシンボルマークとするローカル航空会社エアー・ワン(Air One)のためにデザインした1995年のカレンダーの表紙絵を思い出した。四角四面の都市よりも自然と共存できる田園を好むフォロンの場合も、鷺の全身を描かず、その特徴的な嘴を強調するデザインを行っており、両者の間に何かしらシンパシーのようなものが感じられる。
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# by galleria-iska | 2017-11-12 18:56 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)
2017年 11月 02日

横尾忠則のリトグラフ「Yasue」(1982)

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明日11月3日は“文化の日”である。とは言え、何処にも出掛ける当てがないので、何か面白そうな美術特番はないかとテレビの番組欄を探してみたが、豊富な資金力を背景に美術展の企画にまで乗り出しているNHKのプロジェクトのひとつとして、現在開催中の「ゴッホ展-巡り行く日本の夢」に関連させたNHKの旅(?)番組が載っているだけで、民放は皆無。週刊誌的ゴシップ報道に明け暮れる民放テレビ局においては、花より団子、美術などは飯の種にならない、つまりスポンサーが付かない(?)ということなのだろうか。

齢80才を超えてなお創作活動に余念のない“画家”横尾忠則(Tadanori Yokoo, 1936-)氏の全版画作品による展覧会「横尾忠則 HANGA JUNGLE」(註1)が、今年の4月22日から6月18日にかけて東京都の町田市にある町田市立国際版画美術館で開催された。1960年から現在までの版画作品約230点とポスター約20点の計約250点からなるこの展覧会、ポスター制作によって培われてきた独自のグラフィズムによって版画とグラフィックアートの領域を絶えず横断・拡張し続けてきた横尾氏の版画作品の全貌を明らかにするとのことで、開催前から注目を集めていた。展覧会に合わせて、1960年代の最初期の作品から最新作までの約260点を収録した版画の総目録『横尾忠則全版画 HANGA JUNGLE』が国書刊行会から刊行されている。開催前から気になっていたのだが、当てにしていた“もの”が入らず、結局行かずじまいになってしまった。町田市立国際版画美術館での会期は既に終了しているが、展覧会は兵庫県神戸市にある横尾忠則現代美術館に巡回し、現在会期中である。ただし台風による雨漏り修理のため臨時休館となっており、11月中旬に再開とある。会期は12月24日まで。

今回取り上げるのは、四点組みの連作版画「Yasue」のひとつ。横尾氏が“画家宣言”を行った1982年に“夫人”をモデルに制作したリトグラフ作品で、画家横尾忠則の最初期の版画作品である。総天然色とも言える原色を特徴とする横尾氏の作品の中では特異な存在と言えよう。画家の創造活動の根幹を成すデッサンを強く意識させる一方で、版表現における下絵(エスキース)を思わせるところもあって、常にポスターという媒体を通して表現を行ってきたグラフィック・デザイナーとしての有様を相互浸透させたような作品となっている。物々交換だったか頂いたかはっきりしないが、20年以上前に手に入れたもので、今手元にある唯一の版画作品である。傑作の誉れ高い、劇団状況劇場の演劇『腰巻お仙』(1966年)や映画『新宿泥棒日記』(1968年)の告知用ポスターなど、以前持っていたシルクスクリーンのポスターと比べると見劣りしてしまうのは仕方ないが、その分、物欲に対する妙な優越感を抱かせない、という屈折した理由を付けて持ち続けている。

●作家:Tadanori Yokoo(1936-)
●種類:Print
●題名:Yasue
●サイズ:765x570mm
●技法:Color lithograph
●限定:48
●発行:Unknown
●制作年:1982
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註:

1.
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                           図版:町田市立国際版画美術館の展覧会チラシ
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# by galleria-iska | 2017-11-02 19:58 | その他 | Comments(0)
2017年 10月 24日

バスキア、クレメンテ、ウォーホル展図録「Collaborations」(1984)

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日本国内では新興実業家が高額で落札したことでしかマスコミに取り上げられない夭折の画家ジャン=ミシェル・バスキア(Jean-Michel Basquiat, 1960-1988)であるが、日本中が沸騰していた時期には街にポスターが溢れて(?)いた。それより少し前の1983年に限定24部で出版された巨大なシルクスクリーンの版画作品「Back of the neck」(128x259cm)も未だ100万円台で購入可能であった。何かインパクトのある作品を探して欲しいという知り合いの依頼で、作品を取り扱っていたニューヨーク市の出版社に注文したのだが、版元が買主を選んで注文を受ける、というような嘘かホントか分からない条件を付けていて、結局購入することが出来なかった。その後すぐに400万円に跳ね上り、1000万円を超える頃には関心も無くなってしまった。この記事を書くに当たって、最近の価格動向を調べてみると、恐ろしいことになっていた。2011年2月11日のロンドンのクリスティーズ(Christie's London)のオークションに出品されたものは、評価額10万~15万ポンドを遥かに超え、手数料込みで約3500万円(£277250)で落札されたのだが、その後も上がり続け、2016年11月18日にニューヨークのサザビーズ(Sotheby's New York)のオークションに出品されたものは、評価額30万~40万ドルのところ、手数料込みで約6340万円($576500)で落札されているのだ。もっとも、これぐらいにならないと大金持ちは関心を示さないのかもしれないが...。

話を本題に戻そう。小さい頃から骨董好きで収集していた画商のブルーノ・ビショフベルガー(Bruno Bischofberger, 1940-)が1963年、スイスのチューリッヒに開いたブルーノ・ビショフベルガー画廊(Gallery Bruno Bischofberger, Zürich)は1965年、アメリカで大きな潮流となっていたポップ・アートの作家(Andy Warhol, Roy Lichtenstein, Robert Rauschenberg, Jasper Johns, Tom Wesselmann and Claes Oldenburg)の作品による展覧会を開催、その翌年には早くも旧東ドイツのドレスデン出身で、ポップ・アートの影響を受けつつも多種多様な画風を展開するゲルハルト・リヒター(Gerhard Richter, 1932-)の個展を開催している。そして1968年にはアンディ・ウォーホルと1987年まで続く優先的購入契約を結んでいる。

現代美術を扱う画商としては当然のことかもしれないが、常に時代の潮流を敏感に取り込むビショフベルガーは1980年代に入ると、ニュー・ペインティングとも呼ばれる「新表現主義(Neo-Expressionism)」の作家(Jean-Michel Basquiat, Julian Schnabel, David Salle, Francesco Clemente, Enzo Cucchi)らの個展を開催している。中でも早くからバスキアの才能を認め作品を収集していたビショフベルガーは1983年、彼をアンディー・ウォーホルとフランチェスコ・クレメンティに引きあわせ、共同制作(Collaborations)を提案、1984年にその展覧会を開催している。これはその展覧会の図録として、チューリッヒ郊外の風光明媚な町、キュスナハト(Küsnacht)に置かれたブルーノ・ビショフベルガー画廊の出版部門(Edition Gallery Bruno Bischofberger, Küsnacht/Zürich)から刊行されたもの。布装丁で、三人がサインを入れたものもあるようだが、今手元にあるものにはサインは入っていない。27歳で夭折したバスキアとウォーホルの生前に刊行されたものであるということで、欧米の古書店ではかなりの値(5万~8万円)を付けている。この展覧会の翌年にビショフベルガーはバスキアの個展を開催、1000部限定でバスキアのサイン入りの図録を刊行している。こちらは先の理由に加え、サインそのものが稀少価値と見なされており、現在数千ドルの値が付いている。まだそれほど高くない時に入手したのだが、田舎暮らしが故に売却の時期が読めず、値上がりの気配が見え始めた頃に手放してしまった。

●作家:Jean-Michel Basquiat(1960-1988), Francesco Clemente(1952-), Andy Warhol(1928-1987)
●種類:Exhibition catalogue
●題名:Collaborations
●サイズ:303x218mm
●技法:Offset
●印刷:Schudeldruck AG, Riehen
●発行:Edition Gallery Bruno Bischofberger, Küsnacht/Zürich
●制作年:1984
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                           裏表紙に使われているのは《Alba's Breakfast, 1984》の部分
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# by galleria-iska | 2017-10-24 13:12 | 図録類 | Comments(0)
2017年 10月 03日

キース・ヘリングのポスター総目録「Keith Haring - Posters」(2017)

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キース・ヘリング(Keith Haring, 1958-1990)のポスター愛好家待望(?)の総目録(カタログ・レゾネ)が刊行された。ヘリングが1982年から1990年までにデザインしたオリジナルポスター100点を収録したもので、全作品がカラー図版で紹介されている。最近ようやく知ったのだが、キース・ヘリング(Keith Haring, 1958-1990)が生存中にデザインしたオリジナルポスターによる展覧会「Keith Haring :Posters」が、1877年に設立された美術(版画やポスターを含む)、工芸、デザイン、写真に関する広範囲のコレクションを持つハンブルク美術工芸博物館(MK&G-Hamburg/Museum für Kunst und Gewerbe Hamburg)で11月5日まで開催されており、この総目録「Keith Haring - Posters」は、その展覧会に合わせて美術書の出版を得意とするドイツのプレステル出版(Prestel Verlag, München)から刊行されたものである。編著者はハンブルク美術工芸博物館の版画およびポスター部門の部長を務めるユルゲン・デリング博士(Dr. Jürgen Döring)で、これらのポスターを博物館に寄贈したハンブルクの収集家クラウス・フォン・デア・オステン(Claus von der Osten)氏も編集に加わっている。内容は同じだが、博物館で販売されている同名の図録(註1)とは装丁が若干異なっている。展示公開されている100点のポスターの内訳は、23点が社会政治的な事柄に関するもの、26点が文化的行事に関するもの、そして19点が自身の展覧会の告知用となっている。ほぼ同時進行で、同じくクラウス・フォン・デア・オステン氏から寄贈されたロバート・ラウシェンバーグ(Robert Rauschenberg, 1925-2008)のポスター160点のうち120点を展示公開する「Robert Rauschenberg: Posters」も10月8日まで開催されているが、こちらの図録は出ていないようだ。

ハンブルクの収集家クラウス・フォン・デア・オステン氏のコレクションをもとにした展覧会「Haring Posters Short Messages」は既に2002年から2003年にかけてドイツ国内を巡回するかたちで開催されており、ハイルブロン市立美術館(Städtischen Museen Heilbronn)の学芸員であるマルク・グンデル博士(Dr. Marc Gundel)編の図録が、同じくプレステル出版から 2002年に図録(註2)が刊行されている。また2003年にはその改訂版が刊行されている。内容はヘリングが1982年から1990年かけてデザインしたオリジナルポスターの総目録となっており、ほぼ同じ内容といえる。

●作家:Keith Haring(1958-1990)
●種類:Catalogue raisonné
●編者:Dr. Jürgen Döring & Claus von der Osten
●サイズ:300x240mm
●発行:Prestel Verlag, München
●制作年:2017
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ポスターの寄贈の話が、美術館や出版社を巻き込み、その成果が市民に還元されるという一連の動きに何かしらの希望を感じる。日本でも相続税の軽減という理由であったにせよ、個人コレクションを積極的に受け入れようという動きがないではない。ただしポスターやエフェメラといったものへの評価は欧米ほど高いとは言い難く、前にも書いたと思うが、20世紀のスペインを代表する画家ジョアン・ミロ(Joan Miró, 1893-1983)のオリジナルデザインのポスターを百点以上を収集されていた方が公立美術館に寄贈を申し出たところ、ポスターなんかいらない、と取り合ってくれなかったことがあった。公開の方向性だけでも示してくれても良かったのではないかと思うが、残念ながら、篤志家と呼んでもよいその方のミロのポスター収集に注がれた情熱や時間は一切顧みられることはなかったのである。実りのない話ばかりしていても暗くなるばかりなので、他に目を向けてみるのも手かもしれない。最近、美術系の大学に次々と付属の美術資料館が併設されており、ポスターの収集にも力を入れているところもあるので、そちらに話を持っていった方が良かったかもしれない。なんとも残念な話である。

註:

1.
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図版:展覧会に合わせてハンブルク美術工芸博物館で販売されている図録。Jürgen Döring, Claus von der Osten, 128 pages, 300x240mm, 120 color illustrations published by Verlag Prestel in 2017.

2.
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図版:2003年に刊行された図録「Haring Posters Short Messages」の改訂版(ハードカバー)。Marc Gundel and Claus von der Osten, Revised edition of "Haring Posters Short Messages " published by Prestel Verlag, München in 2002. 300x240mm, 96 pages, text in German and English. 84 color and 16 black & white illustrations. Catalogue raisonné of Haring posters from 1982-1990. Published in conjunction with the expositions at the Versicherungskammer Bayern(November 2002 - January 2003), Kunsthaus Kaufbeuren, Kaufbeuren(August - September 2003), etc.
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# by galleria-iska | 2017-10-03 18:00 | キース・へリング関係 | Comments(0)
2017年 09月 28日

キース・ヘリングのビニールバッグ(3)「Pop Shop Plastic Bag」(1985)

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アメリカの1980年代を代表する美術家キース・ヘリング(Keith Haring, 1958-1990)が1986年にニューヨーク市にオープンしたポップ・ショップ(Pop Shop New York)用にデザインし制作したビニールバッグ(Pop Shop Plastic bag)5種類が揃った。どういう訳か、天が与えた小さな試練(?)かもしれない、一番気に入っている黄色を基調とするものが最後になってしまった。これらのものをグッズと見るかアートと見るかによってその評価は異なってくるのだが、大手のオークション会社がヘリングのマルティプルとして取り扱うようになったことで、何かと後追いの日本はともかく、海外では随分と高額な値を付ける売り手が増えてきて、グッズとアートの間でせめぎ合いが起こっている。

●作家:Keith Haring(1958-1990)
●題名:Pop Shop Plastic bag
●サイズ:483x427mm
●技法:Silkscreen
●製造:PAK 2000, New Hampshire
●発行:Keith Haring, New York
●制作年:1985
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# by galleria-iska | 2017-09-28 20:15 | キース・へリング関係 | Comments(0)