ガレリア・イスカ通信

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2010年 08月 09日

ホルスト・ヤンセンの絵草子「Lichtenberger Bilderbogen」(1967)

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1967年にハンブルクの書肆ヘルマン・ラーツェン(Hermann Laatzen, Hamburg)から“リヒテンベルク絵草子”と銘打って刊行された亜鉛版エッチングによる作品。画面下の書き込みによると、この絵草子は二ヶ月毎に一点刊行され、計六点のシリーズになるとあるが、確認できたは三点のみである。描かれているのは、格言家、また画家ホガースの版画研究でも有名な18世紀の物理学者、ゲオルク・クリストフ・リヒテンベルク(Georg Christoph Lichtenberg, 1742-1799)で、ヤンセンはこの肖像画を描くに当たり、リヒテンブルクの唱えた感情表出学をアイデアの源泉として用いている。

リヒテンベルクは、18世紀ヨーロッパで大流行した観相学を大成したスイスの牧師、ラファーター(Johann Kasper Lavater)の『観相学断片』に対する反論として著した著書『観相学について、観相学者への反論』の中で、観相学に対抗して感情表出学を提唱している。それは観相学や骨相学が人体の頭部に現われた特徴からその内部にある固有の性格や才能を分析的に見極めようとしたのに対し、感情表出学は、刻々と変化する人間の顔の表情や身振り、衣装や態度といったものから、直感的に人格を判断しようとするものであった。観相学者にとっては、次々と移り変わる顔面の生き生きとした表情は判断を誤らせる元でしかないが、感情表出学者には、それがすべての判断の基準となるのである。

リヒテンブルクのこの考え方を人間観察の範としたヤンセンは、当時描かれたリヒテンブルクの横顔の肖像画をもとに、ラファーターの云う《きわめて理性的な頭蓋骨側面と理性的な影》とはかけ離れた、粗野で猥雑で、どこか滑稽にも見える、様々な表情をした人物の顔を隙間無く描き入れ、そこに現実の人間の姿とその本質を暴き出そうとしており、。それはまた、アルチンボルトにおける寓意的な肖像画にも通ずる、象徴性を帯びた肖像画として、我々の現前に提示されている。画面右下の小枠に版上のサイン。

●作家:Horst Janssen, 1929-1995
●題名:Laatzen's bilderbogen: 2 Folge 1 bogen
●サイズ:645x446mm
●技法:Strichätzung(Zinkätzung)
●限定:1000
●発行:Hermann Laatzen, Hamburg
●刷り:Hans Christians, Hamburg
●制作年:1967
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ヤンセンが作品制作の下敷きに使ったと思われる銅版画によるリヒテンベルクの肖像画
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by galleria-iska | 2010-08-09 16:52 | ホルスト・ヤンセン関係 | Comments(0)


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