ガレリア・イスカ通信

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2010年 10月 14日

キース・ヘリングのステッカー「Radiant Baby」(1982)

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1982年にニューヨークのトニー・シャフラジ画廊(Tony Shafrazi Gallery)で行なわれたキース・ヘリング初の個展の際に無料配布された二種類のステッカーの内の「Radiant Baby(光輝く赤ん坊)」。もうひとつは、「3 eyed Face」。ヘリングが地下鉄構内の掲示板を使って作品を制作して頃から使っていたモチーフで、へリングはそれを自己証明としての“タグ(名札)”もしくは“署名”として使っており、へリングのキリスト教的信仰心の発現と見て取れなくもない。

その辺の経緯を紹介しているブログがあったので、幾つか要点を挙げてみる。まずその呼び名であるが、へリングの"Radiant Baby"は、"Radiant Child" や"Radiant Christ"とも呼ばれ、ヘリングはそれを「人類のもっとも純粋で実在の体験」と述べている。子供の体から発せられる光線は、中世やルネサンス時代の宗教画には馴染みの、聖人を示す“後光”と同じものとして描き入れている。

ヘリングと宗教との関係についてはあまり言及されることはないが、彼の社会貢献活動はよく知られている。それは突発的に思い付いたことではなく、そのルーツは十代の頃に遡る。プロテスタントの家に生まれたへリングは、1970年代に起こった“Jesus Movement"に遭遇し、その活動にボランティアで参加している。この運動の信奉者は、“Jesus People(キリストの民)”呼ばれたが、世間一般では“Jesus Freaks(熱狂的キリスト教支持者)"と言われていた。運動は福音主義的なもので、彼らの目的は、純粋にキリストの言葉を広めることにあった。そのため、反教会、反キリスト教根本主義を掲げ、反物質主義であり、貧困に対する極端とも言える憐みを特徴としていた。この権威や地位、形式に囚われない姿勢は、ヘリングの表現手段にも影響を与えていると思われる。ヘリングは、功利主義的な時代の中で、人間の本質的な幸福とは、強いもの弱いもの、貧富のわけ隔てなく、ともに生かされていることにあり、生きていること自体に無償の喜びを見い出せる「光」や「言葉」をアートで指し示す使命感のようなものを感じていたのかもしれない。

ヘリングは、「赤ん坊の体から発せられるこれらの光線は、赤ん坊があたかも宗教画に描かれた聖人であるかのように、その肉体の内部から輝く精神的な光なのである」と述べているが、ヘリングは“光輝く赤ん坊”を単に聖人ではなく、直接キリストと結び付けて描いている。それはヘリングが“光輝く赤ん坊”を、地下鉄の構内で作られた多くの作品に、かいば桶、羊飼い、そして東方の三博士によって構成されるキリストの降誕の場面に置いて描いていることからも判る。

このことから、へリング自身を、またその絵画を云うときにみられる、ニューヨークのストリートカルチャ-の中から生まれ出た、歴史や文化、また宗教とは縁の無い“今様”の若者が作り出した、落書き風の絵画というステレオタイプ的な見方は、その実像からはかけ離れた、人間の心の深奥に潜む本能的な欲望が生み出す偶像化されたヘリング像であり、多くの人間は、そういった社会から逸脱した偶像(=ヒーロー)に自己の願望や欲望を照射することで、現実に生きる自己と暗い穴倉に押し込められている本当の自己との均衡を計っているのではないかと思われる。

●作家:Keith Haring(1958-1990)
●種類:Sticker
●フォーマット:62x80mm(イメージ:57Φ)
●技法:Silkscreen
●発行:Keith Haring
●制作年:1982
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by galleria-iska | 2010-10-14 23:28 | キース・へリング関係 | Comments(0)


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