ガレリア・イスカ通信

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2011年 05月 04日

ピカソのポスター「Exposition Poteries Fleurs Parfums」(1948)

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子供の笑顔を見ると、一瞬ではあるが自分が本来いた場所を思い出させてくれる。彼らの有りのままの生を謳歌する姿、身体からほとばしる命の鼓動が、硬直化した肉体と精神に新しい精気を呼び覚ましてくれるからかもしれない。

ピカソは1948年に「陶器、花、香水」で有名な南仏の小さな町ヴァロリスの市のために三種類のポスターを描いている。ピカソのリトグラフ(1)によるポスターとしては最初の作品で、これは二番目に描いたもの。ピカソの陶器との出会いは、1946年にフランソワーズ・ジローと観光でヴァロリスの陶器市を訪れた際に、マドウラで陶器の製造をしているジョルジュ・ラミエとその妻のシュザンヌ(1961年にピカソと結婚することになるジャクリーヌ・ロックの従妹)と出会い、粘土で数点の像を作ったことに始まる。翌年再び訪れると夫妻がそれらを焼いていてくれたことに感激し、陶器作りを始める。1948年にはヴァロリスの近くの丘の上に一軒の家を購入、フランソワーズ・ジローと一歳になった息子のクロードを連れて移り住み、たった一年で2000点を超える陶器を制作し、ヴァロリスを離れる1955年までの7年間に4000点もの陶器を作り上げている。その間、自身の陶芸展やヴァロリスで開催された闘牛のためポスターをリノカットで制作しており、ピカソのポスターの中でも特異な作品群となっている。

神話を主題とする作品はピカソが得意とするところであるが、ヴァロリスでの陶器制作にも神話に登場する生き物をモチーフとして使っており、このポスターでも、山羊の足と角と持ち、フルートに似た楽器の名手であるフォーン(牧神)をモチーフとして描いている。文字もピカソの手書きである。ピカソは1945年12月5日から翌年1月17日にかけて「雄牛」をリトグラフ制作、その姿を11のステート(段階)で変容させているが-この雄牛を後にポップ・アーティストのロイ・リキテンスタインが引用している-このポスターでもフォーンの顔の変容を見ることができる。最初のポスターでは、陶器の皿にフォーンの顔を描き入れているのだが、その顔は、笑顔というよりは、むしろ不安げな表情といった方がいいかもしれない。二番目は、フォーンの顔の中に正面の顔と横顔を同時に盛り込むというピカソらしいアイデアが加わり、その不安が取り除かれ、茶目っ気のある笑顔が見て取れる。三番目になると、顔の周囲に力強い筆の筆触が加わり、目も大きく見開かれ、高潮した顔には生き生きとした喜びの表情が浮かび上がっている。また周りに線枠が描かれ、ポスターとしての体裁も整う。

これは勝手な思い込みかもしれないが、ピカソが描いたフォーンの顔の表情は、どこか岡本太郎の代表作である『太陽の塔』の「過去を表す顔」と「現在を表す顔」に似ていなくも無い。塔の裏側に描かれた過去を表す黒い顔は、最初のポスターのそれと、塔の正面の胴体に付けられた現在を表す顔は、二番目と三番目のポスターとそれぞれ共通する要素が見受けられる。このポスターは市場に滅多に登場しなかったことから、かつて幻のポスターと呼ばれたことがあった。現在でも珍しいポスターのひとつには変わりはないが、それほどの憧れを抱かせる存在ではなくなってしまったような気がする。

●作家:Pablo Picasso(1881-1973)
●種類:Poster
●サイズ:607x400mm
●技法:Lithograph
●限定:300
●紙質:Arches
●印刷:Mourlot, Paris
●制作年:1948

註:
1.ピカソがリトグラフを始めたのはパリ開放直後の1945年の秋ことで、当時シャブロル街にあったムルローの印刷工場に通い、リトグラフによる表現の可能性を引き出そうと様々な技術を試みている。ピカソの最初のリトグラフ作品は、1945年11月2日に制作した三点の女性の頭部を描いた肖像で、最初の一点は、描線を用いず切り絵のように面によって表したもので、ピカソと言えど、どこかぎごちない作品となっている。しかし一月後の12月には「雄牛」を題材に、様々な実験を繰り返し、この技法をすっかりにものにしてみせた。


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by galleria-iska | 2011-05-04 22:26 | ポスター/メイラー | Comments(2)
Commented by 渡邉と申します。 at 2014-10-03 22:14 x
このポスター市販されているんですか?
Commented by galleria-iska at 2014-10-04 19:18
こんばんは。渡邉様、コメントありがとうございます。ご質問の件ですが、国内の画廊かアートポスター専門店で手に入るかと思います。価格ですが、当方はムルロー工房のポスターが人気のあった頃に15万円ぐらいで購入しておりますが、今ならもっと安く手に入るのではないでしょうか。取り急ぎお返事まで。


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