2011年 05月 28日
その時々の世相を、ブラック・ユーモアのフィルターを通して見た似顔絵によって映し出す絵師、山藤章二(Yamafuji Shoji,1937-)氏は、ひとつ年上で20世紀を代表するポスター作家である横尾忠則(Yokoo Tadanori, 1936-)氏と同様、ポスター制作が創作活動の原点となっている。同じ時代に生き、同じ方向を目指していたはずの二人は、ポスターをスプリングボードにして、各々独自の制作スタイルを築き上げた、と言える。横尾氏は1958年、当時デザイナーの登竜門であった「日宣美展」出品した「ふしぎなふえふき」で奨励賞を受賞し、1959年に当時大阪にあった(株)ナショナル宣伝研究所に入社する。翌年研究所の東京移転に伴い上京。ところが、一月で研究所を退社し、日本デザインセンター(NDC)に移ってしまう。一方、山藤氏は武蔵野美術大学デザイン科に在学中の1957年に「日宣美展」に出品。「地熱」で特選を受賞し、二年連続入賞を狙った1958年は落選するも、1960年には大阪国際フェスティバルで海外向けポスター・コンテストで特賞を受賞し、この二つの勲章を胸に(株)ナショナル宣伝研究所に入社。短い期間ではあるが横尾氏と机を並べる。山藤氏によれば(1)、横尾氏が在職中に一度、自作のポスターに対する意見を拝聴すべく、夕飯に招く。食事は固辞されるが、作品を見た横尾氏曰く「絵は達者やけど、レイアウトが問題やね。見る人の神経を落ちつかせないようにデザインした方が、おもろいんと違う?」と言われ、納まりのいい、かっちりしたデザインを目指していたことに気付かされ、ショックを受ける。とは言え、山藤氏はその年、広告電通賞(ポスター部門)制作者賞を受賞しており、横尾氏と比べれば受賞歴は遥かに多い。 その山藤氏も、1964年に研究所を退社し、フリーのデザイナーとなる。 このポスターのイラストは、山藤氏が無名時代の1968年に、紀伊国屋ホールでの《劇団NLT》(2)の旗揚げ公演ともいえる喜劇「マカロニ金融-信用の哲学的考察」のチラシ用に描いたもので、1970年の紀伊国屋ホールでの再演に際しポスターに構成し直したもの。当時劇団(特にアングラ劇団)の公演ポスターの主流であったシルクスクリーンで刷られている。このポスターを見ると、横尾氏の言っていることが分からなくもない。山藤氏は1970年、講談社出版文化賞(第1回)さしえ賞を受賞し、デザイナーからイラストレーターに活路を見い出していくこととなる。 ●作家:山藤章二(Yamafuji Shoji, 1937-) ●種類:Poster ●題名:マカロニ金融(Le Système Fabrizzi) ●サイズ:728x513mm ●技法:Silkscreen ●発行:劇団NLT(Neo Litterature Theatre) ●制作年:1970 註: 1:「横尾忠則グラフィック大全」(1989年、講談社刊)所収の『1959 横尾忠則に関する〈怨念〉と〈尊敬〉 山藤章二』より。 2:1964年,文学座を脱退した俳優、賀原夏子、丹阿弥谷津子、中村伸朗、南美江らと、文芸演出部員、矢代静一、松浦竹夫らが顧問に岩田豊雄(獅子文六)、三島由紀夫を迎え、グループNLTとして発足。主に三島由紀夫作品を中心に公演活動を開始する。NLTは、「新文学座」を意味するラテン語「Neo Litterature Theatre」の頭文字からとったもので、岩田豊雄(獅子文六)が名付け親である。1968年に,三島、中村、南らが賀原らとの路線対立から「グループNLT」を脱退、「浪曼劇場」を結成したことにより、現在の「劇団NLT」に名称を変更、賀原を中心に、主にヴールヴァール劇(フランス語の風俗コメディ)を上演する『劇団NLT』として再発足。賀原の死後も、この路線は踏襲されている。第1回公演は演出に飯沢匡、客演に黒柳徹子を迎え、喜劇『マカロニ金融』(原作:アルベール・ユッソン「(Albert Husson (1912-1978):Le Système Fabrizzi,1963」を上演。この旗揚げ公演ともいえる作品で、芸術祭賞を受賞しており、1970年の再演でも、芸術祭奨励賞受賞している。 参考文献: 横尾忠則著「横尾忠則グラフィック大全」(All about Tadanori Yokoo and His Graphic Works)講談社、1989年1月16日発
by galleria-iska
| 2011-05-28 17:05
| ポスター/メイラー
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