ガレリア・イスカ通信

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2011年 06月 10日

金子國義の絵本「Alice's adventures in Wonderland」(1974)

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2010年に公開されたディズニー映画「アリス・イン・ワンダーランド(Alice In Wonderland)」により再び関心が高まった金子國義(Kaneko Kuniyoshi,1936-2015)氏初の挿絵本「不思議の国のアリス」は、1971年のミラノのナビリオ画廊での個展がきっかけとなって誕生した。この絵本は、イタリアの事務機器メーカー、オリベッティ社が、顧客や配給会社へのクリスマスシーズンの贈り物第三弾(1)として1972年より始めた絵本シリーズの1974年度版贈呈本で、イタリア語の翻訳版(Alice nel paese delle meraviglie)とオリジナル版(Alice's Adventures in Wonderland)がある。このシリーズは当時オリベッティ社の文化部にいた作家のジョルジオ・ソアヴィ(Girogio Soavi, 1923-2008)のアイデアによるもので、当初年二作品の発行を予定していたが、後に年一作品となる。金子氏の年譜によると、オリベッティ社から挿絵を依頼されたのは1972年のことで、完成までに二年の月日を要したようである。1972年に完成していたなら、金子氏と同様、強烈な個性の持ち主であるポーランド出身のローラン・トポール(Roland Topor,1938-1997)の「ピノキオの冒険(Le avventure di Pinocchio)」とともにシリーズ第一弾となった筈である。それには理由があったようで、この二つの絵本のタイトルにはどちらも“冒険”という言葉がついており、世界中に知られている冒険物語の主人公「アリス」とイタリアを代表する「ピノッキオ」を同時に発行することで、ピノキオの知名度を更に高めようとする意図があったようなのである。

金子氏のこの「不思議の国のアリス」とトポールの「ピノキオの冒険(Le avventure di Pinocchio)」、そして1973年に発行されたジャン=ミシェル・フォロン(Jean-Michel Folon,1934-2005)の「変身(La metamorfosi)」(1973年度版)の三作は、それぞれ作家の代表作とも言えることから、人気もあり、プレミアム価格で取引されている。金子氏は本文中の挿絵13点と前後の見開きを鉛筆で描いており、表紙には、物語の冒頭部分-静かな川の野原で、アリスはお姉さんと一緒に歴史の本を読んでいたが、アリスはすっかり退屈になった-を描いた扉絵用の彩色作品と同じものが、楕円状に切り抜かれて貼られている。金子氏はそれまでどちらかと言えば反社会的で退廃的、また道徳や倫理に背を向けるような挑発的な作品を描いており、一部の熱狂的な支持者以外にはあまり馴染みがなかったが、一般向けの絵本の挿絵を手掛けることにより、広く知られることとなり、金子氏自身も「アリス」というキャラクターに新しい主題を発見し、その後さまざまな手法を用いてこの主題を発展させていくこととなる。
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●作家:金子國義(Kaneko Kuniyoshi, 1936-2015)
●種類:Illustrated book
●サイズ:348x283mm
●技法:Offset
●発行:Olivetti, Milano
●制作年:1974
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註:
1.第一弾は1951年から始められた美術史に残る巨匠の作品を用いたカレンダー。第二弾は卓上カレンダーで、第一作の1969年度版には、フォロンの挿絵12点(1968年制作)が使われている。詳しいことは(www.storiaolivetti.it)を見ていただきたい。イタリアのオリベッティ社の、“企業は社会に対する物質的な貢献と同時に、道徳的、文化的な貢献をすべきだ”という創業以来の理念にもとづき、同社が幅広く世界各国の作家に依頼することによって生まれたこれら挿絵の原画を集めた「世界の現代画家50人展」が、イタリア・オリベッティ社と日本オリベッティ株式会社の協賛で、1978年7月25日から8月31日にかけて東京国立近代美術館で開催されている。


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画像の追加(2014年11月14日)

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この絵本が贈呈本であるとの証左となるものが見つかった。「日本オリベッティ株式会社」の当時の社長ルティアーノ・コーヘンが社員に贈ったものに付けられていた挨拶文である。書き写したものがあるので、紹介したい(以下原文のまま):

社員のみなさまへ

私は、ことし、みなさまのご家庭に、特別すばらしいプレゼントをさし
あげることにいたします。

それは、イタリア・オリベッティ社発行の童話本『ふしぎの国のアリス』
(監修:イタリア・オリベッティ社文化担当ディレクター、ドクター・ソアビ/挿絵:
日本人画家、金子国義)です。

かねてよりオリベッティ社では、文化事業の一環として画集や写真集や
童話などを出版、世界中の重だった文化人や文化団体に贈呈してきており
ますが、今回、私は特に日本オリベッティ社員のご家庭にも、その一つ
をお贈りしようと思いつきました。

それは、このような童話に秘められた人の心の不変の美しさ、あたた
かさと、オリベッティ社の存在の源泉ともなっている人間や文化を大
切にする心のあたたかさを、社員はじめ、ご家族のみなさまにも肌身
を通しておわかりいただきたいと思ったからです。

この本の監修をした、ソアビ氏は、詩人であり画家でありますが、1971年、
ミラノで個展を開いた日本人画家、金子国義氏(ご存知の通り、氏はこの頃
から婦人公論を表紙を描いています。)の画風に魅かれ、かねてより
心にあたためていた『ふしぎの国のアリス』の挿絵を描いてもらう人は
彼をおいて他にいないと思い、翌年あらためて彼を招き、正式に依頼し
たのでした。金子氏は、大きな喜びと怖れをもってこれに応じました。
一年後、絵はソアビ氏の想像通り、ふしぎな美と愛らしさを秘めて、
現前しました。そしてまた一年、ソアビ氏と金子氏、つまりイタリアと
日本の信頼と愛の交感は、世に類をみない『ふしぎの国のアリス』として
実を結んだのです。

ではみなさま、どうぞこの貴重な美しい果実をうけとってください。
そして、国境を時代を超えてかよいあうことのできる馥郁たる人の心
の豊かさあたたかさを、ご家族そろって味わってくださるよう、私は
心から願っております。

  1974年12月
             
            日本オリベッティ株式会社
            代表取締役社長 ルチアーノ・コーヘン



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by galleria-iska | 2011-06-10 12:46 | その他 | Comments(0)


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