ガレリア・イスカ通信

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2011年 06月 15日

第9回「時代の証人・画家展」招待状他「Les Peintres Témoins de leur temps:La Jeunesse」(1960)

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フランスを代表するサロンのひとつ、「時代の証人・画家展(Les Peintres Témoins de leur temps)」は戦後間もない1946年に設立され、1951年に第1回展がパリ市立近代美術館(Musée d'Art Moderne dfe la Ville de Paris)で開催された。展覧会では毎回テーマが決められていて、出品作家はそのテーマに沿った作品を制作・出品するのだが、第1回展のテーマは、「労働(Le Travail)」で、当時建設現場で働く労働者をモチーフにした作品を制作していたフェルナン・レジェ(Fernand Leger, 1881-1955)がポスターと図録用の原画を提供している。

開会式の案内にあるように、1960年にガリエラ美術館(Musée Galliera, Paris)で開催された第9回展のテーマは、「青春(La Jeunesse)」。青春というと何か青臭く聞こえなくもないが、1960年代は、それまでのいわゆる大人社会=既成社会に対抗する若者文化(Counter Culture)が台頭する時代で、急速な産業化の中で、若者たちは、ロック、ヒッピー、ドラックと、身体性を伴う行為によって連帯を訴え、社会の転覆を図るのではなく、その社会に従属させられている閉塞的な現状からの自己解放を目指すムーブメントを起こそうとした。それは1968年に頂点に達し、やがて燃え尽きる。1950年代末から1960年代初頭のヨーロッパや日本は未だ戦後の復興時機にあり、アメリカの後塵を拝していた訳だが、フランスでは1959年に、ジャン=リュック・ゴダール(Jean-Luc Godard, 1930-) の「勝手にしやがれ(À bout de souffle)」-主演ジャン=ポール・ベルモンドとジーン・セバーグ-や、フランソワ・トリュフォー(François Roland Truffaut、1932- 1984)の「おとなは判ってくれない(Les Quatre cents coups)」といった新しい視点と手法を用いたヌーヴェル・ヴァーグと呼ばれる新しい世代の代表的映画が製作されている。美術分野でも世界中を席巻した抽象表現主義の嵐の中から、アメリカの「ネオダダ」とも通底する、大量生産・消費社会の中でのリアリテを追求する新しい潮流、ヌーヴォー・レアリスム(Nouveau Réalisme)が生まれた年でもあるが、そんな中、「時代の証人・画家展」は、サロンという言葉に象徴されるように、官展に近い性質を持ち、正統的な絵画表現を継承する画家たちによる展覧会であった。

それは開会の案内状やヴェルニサージュへの招待状のデザインにも現われており、その根底にはフランスの独立と文化を守るという強い意識があることを理解しなければならない。毎回使用されるデザインとフォーマットは統一されており、後援者に送られるものは、展覧会の設立メンバーのひとりで事務総長を務めていた画家のイジス・キシュカ(Isis Kischka,1908-1974)(1)の謝辞の入ったネームカード、公開に先立って行なわれる開会式典の案内およびヴェルニサージュへの招待状と展覧会の公式図録である。また展覧会には告知用のポスターが付き物であるが、この展覧会のポスターは、サロン・ド・メなどの展覧会と同様、エコール・ド・パリを代表する作家、マチス、デュフィー、ヴィヨン、シャガール、ブラック、ピカソ、ビュッフェ、藤田らによるデザインや作品を用いたリトポスターであったことから、早くからコレクションの対象となっている。1953年の第2回展は「日曜日(Le Dimanche)」をテーマに開催されたが、ポスターと図録の表紙を晩年のアンリ・マチス(Henri Matisse, 1869-1954)が切り絵でデザインしており、告知用ポスター800枚がムルロー工房で刷られた。今の感覚から言えば少ないように思われるが、当時の社会状況からすれば、このポスターを身銭を切って買おうとする人がどれほどいたであろうか。
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このポスターには通常のポスターの他に、出品作家向けに版画用紙に刷られたものがある。画像のポスターは、ある作家の元にあったもので、マチスは病床にあったため出席していないが、二十人以上の出品作家が記念のサインを書き入れており、マチスの版上サインの左下あたりに藤田嗣治(Foujita, 1888-1968)のペンサインも見える。

●種類:Inviation
●サイズ:ca.105x140mm
●発行:Les Peintres Témoins de leur temps(P.T.T)
●制作年:1960
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招待状を入れた封筒。


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1960年3月から5月にかけてパリのガリエラ美術館にて開催された第9回「時代の証人・画家展」の図録の特装版《Les Peintres Témoins de leur temps. Tome IX: La Jeunesse》。特装版は、販売用の普及版とは異なり、160部限定の非売品で、後援者の名前が記載されている(nominatif)。第9回展は「青春」をテーマにしており、出品作家のひとり、藤田嗣治が、ポスターと図録用の作品を依頼され、出品作の「花の洗礼」をもとにリトグラフで「三美神」を制作している。刷りはムルロー工房で行なわれ、普及版では表紙に貼られ、特装版では口絵として綴じ込みになっている。

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註:
1.イジス・キシュカは1908年にポーランド系ユダヤ人の移民の子としてパリに生まれる。批評家のジャン・カッソウに認められ、画家として注目を浴び初めていたが、第二次世界大戦におけるドイツ軍のパリ侵攻後にゲシュタポに捕らえられ、フランス国内の収容所に送られる。その際にそれまでに描いた200枚ほどの作品を破壊されてしまう。1944年に解放され、1945年にパリに戻る。1946年、作家で詩人で美術評論家のジャン・カスー(Jean Cassou)や学芸員のイヴォン・ビザルデル(Yvon Bizardel)らと美術展覧会《時代の証人・画家展》の設立に加わり、画家でありながら自らは出品せず、展覧会の裏方に徹した。
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by galleria-iska | 2011-06-15 21:54 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)


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