ガレリア・イスカ通信

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2011年 07月 22日

イアン・ハミルトン・フィンレイ展招待状「Ian Hamilton Finlay Pastorales」(1991)

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「Pastorales(田園詩/画)」と題して、1991年10月6日から11月3日まで北ドイツの代表都市、リューベックのオーヴァーベック協会(Overbeck-Gesellschaft, Lübeck)で開催された、イアン・ハミルトン・フィンレイ(Ian Hamilton Finlay、1925-2006)の展覧会のオープニングへの招待状。詩人、作家、版画家、園芸家と多彩な顔を持つフィンレイは1925年、スコットランド人の両親のもと、クリスファー・コロンブスの新大陸発見の足がかりとなった、フロリダ半島の南に位置するバハマ諸島のナッソウに生まれる。

フィンレイはここでは古典絵画を思わせるような描法で、生い茂る野草や木立を背景に、ごつごつとした地肌の大地に突き立てられた、ガーデニングや農業の道具である鋤(シャベルの一種)を描いており、鋤の刃の部分には“Ventose(ヴァントーズ=風月)”という言葉を書き入れている。このヴァントーズとは、フィンレイが好んで取り上げるフランス革命(1)に関わるフランス共和暦の第6月(2月20日(21日)から3月19日(20日)までを指す)のことを指しており、それはまた、「革命の大天使」の異名をとるサン・ジュスト(Louis-Antoine de Saint-Just,1767-1794)が提案したヴェントーズ法(風月法)という、反革命容疑者(革命に協力的でない貴族、上級ブルジョワジー、金融業者、大地主などの財産を没収し、それを貧民に無償で分配、貧農に土地を与えることによって、彼らを生産者にし、「圧政も搾取もない(サン・ジュスト)」平等な世界を作ろうとした法令の暗喩として提示されている。しかし「「テルミドールの反動」」によって、サン・ジェスト、ロベスピエールともに断頭台の露と消えるとと、革命も終焉を向え、この法令も理想を求める精神が生み出した仇花として消え去った。その意味では、フランス革命に散った理想精神の墓標として捉えることも出来る。この鋤は、描かれた大地の形状や背景の木々の様子から判断すると、フィンレイが投げかける幾つもの意味を含んだコンクリートポエム(具体詩)(2)として、大地に突き立てられることを想定して描かれたのであろう。而してフィンレイは同年、柄の握りの形状を変えた彫刻作「Ventose 1991」を制作しており、2006年にテートギャラリーが購入している。

面白いことに、案内状に使われた作品に描かれた鋤の握りの部分は、「社会彫刻」という概念を生み出したヨーゼフ・ボイスが1983年に制作した限定35部のマルティプル「Para(1982年の「7,000本の樫の木」プロジェクトを象徴するショベル)」(3)同じ形状をしているのだが、彫刻では、1915年にマルセル・デュシャンが発表した最初の意識的なレディメイド「折れた腕の前に(In Advance of the Broken Arm)」(4)に使われた雪かき用のショベルの握りと同じ形状に変更されている。この変更が意味するものは何であろうか。

●作家:Ian Hamilton Finlay(1925-2006)
●種類:Invitation
●サイズ:211x101mm
●技法:Offset
●発行:Overbeck-Gesellschaft, Lübeck
●制作年:1991

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図版:イギリスのテートギャラリーが2006年に購入した彫刻「Ventose 1991」 Sculpture:Bronze and stone、1095 x 390 x 250 mm, 31.4 kg

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図版:マルセル・デュシャンのレディメイド(左)とボイスのマルティプル(右)


註:
1.フィンレイの言葉「私はフランス革命を崇拝し、ロペスピエールやサン・ジェストを敬愛しています。彼らには美徳というヴィジョンがありましたから」「Special Interview to Ian Hamilton Finlay 美徳のポエト・ライフ 戦後民主主義を超えて、真のリアリティへ」 インタビュー:海藤 和 訳:杉山説子 『美術手帖 1989年10月号』より

2."「文化はオブジェを光輝かせるものであり、オブジェそのものはたんなる不動の物体ではなく、ある環境の中に設置されると特別な意味をもつものである、ということがしだいに理解されるようになってきました。すなわち環境芸術というものが認識されるようになったということです。アートは現在、物質的環境と文化的環境というふたつの環境のなかに同時に棲息しています。しかし、私たちは往々にして文化的環境のほうを軽視しがちなんですね。古典的な造園術は、自然環境の改善を目指すと同時に、文化的環境の改善にも努め、庭そのものをすべてのものの関連のなかに、じつに整然と成立させているんです。こうしてはじめて人は文化とはなんであるかを理解できるんじゃないでしょうか。」同掲

3.Joseph Beuys(1921-1986) "Pala"from 7000 Oaks, 1983, metal and wood. 135x30cm, Ed.35. Punlished by Edizioni Lucrezia de Domizio, Pescara(Cat.Schellmann#366)

4.Marcel Duchamp(1887-1968) "In Advance of the Broken Arm"1919/1964:Readymade: wood,galvanized iron snow shovel,132cm, Ed.8. Published by Arturo Schwarz, Milan
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by galleria-iska | 2011-07-22 18:43 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)


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