ガレリア・イスカ通信

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2011年 07月 26日

サルバドール・ダリ展冊子「ギャラリー・オリエント《不死の十法》展」(1975)

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もう36年も前の話であるが、その頃は画廊の扉を開けるということは、かなり勇気のいることであった。まして作品を購入する金子を持たぬ者にとっては尚のこと。画廊は、作品を提供する画廊主とその作品の価値感を共有する顧客が作り出す、この世の喧騒とはかけ離れた理想郷がごとき時空間を形成しており、何の定見も持たず、いたずらに図像に惹かれ舞い込む輩は、単なる闖入者に他ならなかった。人生初の画廊体験が、天才にして奇人、誇大妄想のナルシスト、そして金とセックスの亡者と化したサルバドール・ダリの《不死の十法》なる11点のドライ・ポイントによる銅版画の展覧会であった。その版画とテキストを収めたスーツケースが特注ものとかで、中日新聞社、愛知県教育委員会、名古屋市教育委員会が後援する展覧会を紹介する新聞記事に惹かれ、東区の葵町にあるというギャラリー・オリエントなる画廊へ、恐ろしい経験が待ち受けているとは露知らず、いそいそと向った次第。不慣れな場所を行ったり来たりしながらようやくたどり着いた画廊は、さほど広いとは言えない空間であったように思えたが、緊張し過ぎて細かなところまで見る余裕など全くなかった。早速、拝見と思った途端、「ブルトンとダリの関係についてどう思うか」とか「シュルレアリスムにおける夢と現実との関係とは如何なるものか」とか、矢継ぎ早に質問を浴びせられ、ああ、これが画廊入門の洗礼というやつか、と思いつつも、もぞもぞしていると、「何だ、君は滝口修造も読んでいないの?」と言われ、ダリの作品を見に来て、滝口修造も読んでないの、と言われてみても、滝口修造を通してシュルレアリスムを知った訳でも無く、さりとて「作品だけ見せていただきたいのですが...」とも言えず、失礼になるといけないので、ここは退散するのが一番と、帰ろうとしたところ、「折角来たのだから、これをもって行きなさい」と渡されたのが、この冊子。作品の解説をしてくれるのかとばかり思っていたのだが、どんだ見当違いであった。それ以来画廊に近づくのを止めた。これとよく似たような体験をジャズ喫茶でも体験したような気がする。当時はそういう風潮だったのかもしれないが、対人恐怖症気味の私にはつらい洗礼であった。

ダリという奇妙な絵を描く画家のことは、小学校の帰りにいつも立ち寄る駅前の本屋で知ったのだが、裸電球が一つ二つあるだけのほの暗い店の奥の、男女の交合四十八手なる珍妙なる本が置いてある棚の下、手前にダンボール箱が無造作に置かれた隙間から垣間見える帯の文字に惹かれ取り出して見たのが最初の体験であった。見ている内に地面と天井が揺らめき出すような眩暈のようなものを感じた。その隣りには確か、マックス・エルンストの画集もあって、シュルレアリスムなどまだ学校では習っていなっかたが、自分たちが日頃想像する未来社会やロケットの飛ぶ宇宙の姿などとは発想の源の違う、こんな絵が何処から生まれてくるのだろうかと不思議に思った。男女交合四十八手もなんのことやらさっぱり見当もつかなったが、シュルレアリスムの二人の作家の絵も、描かれている内容は分からなかったが、人を摩訶不思議な気持ちにさせる作用があるので、店の奥の人知れぬ場所にそっと置いてあるのだと、ひとり合点した。それからは、現実世界からはあまり遠く離れず、「007ゴールドフィンガー」(1964年公開)の黄金の裸体が掲載された輸入版のプレイボーイなどを見たりして時間を潰すようにしたが、英語は読めないものの、まぁこんな美しい裸体にわざわざ金粉を塗ってもったいない、どうも大人のすることは常識がはずれていると、小学生ながら、頭から湯気がでそうなほど憤慨した。
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図版:まともに作品を見ていないが、興味を覚えたのはこの二点。第一章「リスのホログラフィーによって復活する人間」(左)と第二章「ダリアヌス・ガラエの不死」(右)。

●作家:Salvador Dali(1904-1989)
●種類:Leaflet
●サイズ:257x183mm
●技法:Offset
●発行:Gallery Orient, Nagoya
●制作年:1975

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中山公男(1927-2008)が序文を執筆、ダリと交流のあった滝口修造(1903-1979)と草月流の創始者、勅使河原蒼風(1900-1979)が推薦文を寄せている。





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2016年7月16日追記:

何を入れたのかも忘れてしまっていたダンボールの箱の中から、1975年に名古屋のギャラリーオリエントで開催されたサルバドール・ダリの「不死の十法」展の小冊子が入っていた紙袋が出てきたので、画像をアップしておく。サイズ:301x215mm。

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by galleria-iska | 2011-07-26 16:58 | 図録類 | Comments(0)


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