ガレリア・イスカ通信

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2011年 07月 30日

ホルスト・ヤンセンのポスター「Drucken(2)」(1968)

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「Drucken」は、ホルスト・ヤンセンが1968年にハンブルクのクリスティアンズを始めとする図版印刷業組合の広告のために制作した二色刷りの亜鉛版エッチングであるが、これはその色版。亜鉛版エッチングは、オーブリー・ビアズリーの例を挙げるまでもなく、白と黒の対比を生かした印刷方法であり、通常黒一色で印刷されることが多いが、ヤンセンは多色刷りを試みており、この作品では赤の色版の上に黒の主版を重ね刷りしている。まだ確証はないが、ヤンセンはこの技法に多色刷りを持ち込んだ最初の作家ではないかと思われる。

描かれているのはヌード姿の妻ヴェレーナとヤンセン本人で、広告用に制作されたにも拘わらず、印刷のあれこれを説明するものではなく、「Drucken(印刷する)」という言葉が、ヤンセンの言葉遊びによって、同じ動作を示す言葉に置き換えられることで、それとはまったく関係ないような場面に転じさせられている。ヤンセンの遊び心とそれを愉しむユーモアの精神は、普段は気にも留めないその言葉の語源や意味の成り立ちを気付かせてくれる糸口ともなっていて、それは硬直した創作行為から自由な発想を取り戻し、デュシャンや、マン・レイの作品制作に見られる、地口、洒落、もじりなどの言葉遊びとも通底する、既成の概念を打ち破る豊かな創造力とも結びついている。と言っても、見る側にはヌードの妻と戯れるヤンセン自身にしか見えないのだが。

ヤンセンは、元々同じ動作を言い表す、“印刷する”という意味の「Drucken(ドルッケン)」と、“圧する”、“押しつける”という意味の「Drücken(ドリュッケン)」を、無造作のように見えて周到に考えられた仕掛け、描線ではなく、紙に押し付けられた赤いインクによって転換させている。それはヴェレーナの乳首に人指し指を押しつけ悦に入る自画像によって示されており、ヤンセンが手にしたタバコの煙が昇っていく先にある文字を見ると、赤のインクでウムラウトが加えられ、「Drucken」が「Drücken」へと変わっていることに気付くように仕向けられている。

●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Plakate(Poster:Color separation)
●題名:Drucken
●サイズ:430x278mm
●技法:Strichätzung(Zinkätzung)
●発行:Christians, Hamburg
●制作年:1968

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色版と完成段階
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by galleria-iska | 2011-07-30 18:54 | ホルスト・ヤンセン関係 | Comments(0)


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