ガレリア・イスカ通信

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2011年 09月 14日

森万里子のマルティプル「Star Doll」(1998)

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1967年、経済学者の森敬とペーター・ブリューゲルの研究で知られる美術史家の森洋子夫妻-父方の祖父は森ビル創業者、森泰吉郎-の子として生まれた写真・映像作家の森万里子(Mori Mariko, 1967-)氏は、1988年に文化服装学院スタイリスト科卒業後、渡英、バイアム・ショウ美術学校(Byam Shaw School of Drawing and Painting)とチェルシー美術大学(Chelsea college of art and design)で美術専門教育を受けた後、アメリカに渡り、「ホイットニー・インディペンデント・スタディー・プログラム」を経て、アーティストとして活動を始める。初個展は1995年。ゲルハルト・リヒターが金獅子賞を受賞した1997年の第47回ヴェネツィア・ビエンナーレでは日本館ではなく北欧館に出品し、3Dのヴィデオ・インスタレーション「ニルヴァーナ(Nirvana)」で優秀賞(Menzioni d'onore)を受賞し、話題となった。

彼女の初期の写真作品「プレイ・ウィズ・ミー(Play with me)」(1994年)、「ティー・セレモニー(Tea Ceremony)」(1994年)、「サブウェイ(Subway)」(1994年)、「スター誕生(Birth of a star)」(1995年) は、アニメやコスプレ、オタク文化といった日本的サブカルチャーをテーマとして取り上げ、自身が被写体として、ヒーロー物や戦隊物のドラマのように日常的な都市のある場面に突如出現する非現実的な登場人物に扮したもので、それが映像化されることで、ただ通り過ぎていくだけで記憶に残らない日常的光景が炙り出される。森氏の作品は、自己のアイデンティティの模索といった内省的な動機によって創られているものではなく、現実世界よりも非現実的なものの方がリアリティーを生み出す力を持っていることを実証しつつ、同時にその背後に横たわる無作為の現実の意味を問いかけているようにみえる。

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その1995年の「スター誕生」を逆にフィギュアに落とし込んだ作品「Star Doll」は、村上隆やヤノベケンジ(矢延 憲司、1965年‐)らのそれに先行する試みであり、「パーケット(Parkett)」という現代美術の今に焦点を絞った美術雑誌を発行しているスイスのチューリッヒにある出版社パーケットが、ヴェネツィア・ビエンナーレでの受賞により一躍脚光を浴びる存在となった森万里子の特集を組んだパーケット54号(1998/99)の発行に合わせて出版したマルティプル作品である。パーケット社のマルティプル(版画作品も含む)の出版には、一般美術誌と比べて発行部数の少ない同誌の編集費用を賄う意味もあるという。フィギュアの製作は、東京都葛飾区にあるソフビやフィギュアの製作会社、マーミット(Marmit)で行なわれ、同社の《スーパーエクセレントシリーズ(Super Excellent Series)》仕様で作られている。出版に際し、日本の雑誌でも取り上げられたように記憶しているが、日本国内ではアート作品というよりは、フィギュアの延長と見てしまい、たとえ限定99個と言えども、通常数千円ぐらいで販売されている10倍近い価格は、どう見ても割高(!)に見えてしまったようである。一方、先入観のない海の向こうでは事情(認識)は異なっていたようで、発売後すぐに完売となっている。
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●作家:Mori Mariko(1967-)
●種類:Multiple
●題名:Star Doll(Edition for Parkett 54, 1998/99)
●サイズ:260x80x40mm
●限定:99
●出版:Parkett, Zurich and New York
●製作:Marmit, Tokyo
●制作年:1998



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by galleria-iska | 2011-09-14 20:27 | その他 | Comments(0)


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