ガレリア・イスカ通信

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2011年 10月 18日

ロバート・ラウシェンバーグのポスター「St Louis Symphony Orchestra」(1968)

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1880年に設立されたセントルイス交響楽団(St Louis Symphony Orchestra)の本拠地であるミズーリ州セントルイスのパウエル・シンフォニー・ホール(Powell Symphony Hall)は、もとは“セントルイス劇場”というボードビルショーを行なったり映画を上映するために建てられた劇場であったが、1966年に映画「サウンド・オブ・ミュージック」の上映の後、交響楽団協会に買い取られて改築され、1968年にセントルイス交響楽団のコンサートホールとして生まれ変わった。その完成記念コンサートの広告ポスターのデザインをロバート・ラウシェンバーグ(Robert Rauschenberg, 1925-2008)が手掛けている。ポスターの発行元はニューヨークのポスター・オリジナルズ・リミティッド(Poster Originals, Limited)で、通常のポスターとは別に、250部限定でラウシェンバーグが署名を入れたものもある。現在、このポスターには数百ドルのプレミア価格が付けられているが、嵐のような現代美術ブームが過ぎ去った後の1995年のポスター・オリジナルズ最後の価格表には30ドルとあり、それより10年前の1985年の価格は20ドルであった。現代美術として括られる20世紀後半のアメリカを中心とする作家たちによって制作されたオリジナルポスターもようやく作家の創造活動に見合う価格が付けられるようになったということであろうか。このポスターの発行当時の価格表は今手元にないが、当時のウォーホルやリキテンスタインのポスターの価格からすると、5ドル(1800円/$=360円で換算)ぐらいであったであろうと思われる。

世界一の消費大国であるアメリカでは、版画は1950年代から1970年代にかけて中産階級のインテリア用品であり、消耗品であった。1960年代に入るとポスターもその役割を担うことになるのだが、逆に言えばその低価格が多くの需要に結びつき、消費されていくことでその稀少性を高めていくことになったとも言える。熱心な愛好家や収集家はともかく、一般的にはその稀少性が顕在化したときに初めて、単なる”物”でしかなかったポスターに何らかの意味を求め始めるのだから。アメリカから遅れること数十年、日本でもバブル景気を背景に版画やポスターがインテリアとして大いにもてはやされたが、今やその多くが売りに出されたり、また価値のない不用品として処分されている。バブル時代に日本の企業や金満家が競って購入した“名画”と呼ばれる高額な絵画や美術品が、バブル崩壊とともに人知れず格安の値段で海外の業者に引き取られていったが、20年を経た今、バブル時代の価格を超えるものも少なからずあると聞く。二重の、いやある意味三重の損失である。常に一番を目指して頑張り続ける日本人は、決して貧乏ではないが、その消費傾向や価値形成は直線的であり、自己破滅的な性格を帯びているように思われる。もっと多様な価値観が同時共存できるようにしなければ、この先もまた無意味な損失を繰り返すことになってしまうであろう。

ポスターはもともと芸術作品を目指して作られるものではなく、それが本来担わされた意味を失い、有用性という縛りから解き放たれて初めて、情報媒体やインテリアとしての“物”から、流行やノスタルジックな感情とは別の、ある種の普遍的“価値”と“意味”を持つ対象へと変容することになるのだが、それにはそれ相応の時間が必要となるのは言うまでもない。

●作家:Robert Rauschenberg(1925-2008)
●種類:Poster
●題名:St Louis Symphony Orchestra
●サイズ:760x635mm
●技法:Offset lithograph+silkscreen
●発行:Poster Originals Limited, New York
●制作年:1968
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ラウシェンバーグのポスターには版画作品と同様、写真や図版のコラージュによって構成されたものが多く見られるが、このポスターでは、セントルイスの地図の上に、歴史的建造物や野球場といったセントルイスの名所に加え、アメリカで二番目の歴史を誇る交響楽団の拠点となった劇場や演奏風景を組み合わせて構成されており、公演を知らせる文字も画面の構成要素のひとつとして、大きささ色や配置に工夫がなされ、画面に音楽的なリズム感を与えている。また視覚的なアクセントとして、ピンク色の文字と数字の部分はシルクスクリーンで刷られており、オフセット印刷の均一的な画面を多層的なものにしている。

参考文献:
1.「Rauschenberg: Posters」by Marc Gundel, Prestel Publishing, Munich, London, New York 2001. 96pp.
“One of America's most important artists, Robert Rauschenberg consistently fuses painting, found art, photography and printing in his works. This book brings together 60 of Rauschenburg's most exciting posters. Arranged thematically and chronologically, the posters display the full range of Rauschenberg's stylistic development from the 1960s to the 1990s. Since 1963 the artist has been designing posters to advertise his own exhibitions, music and dance performances, and to address sociopolitical issues. This volume features full page, colour reproductions that allow the viewer to truly appreciate the complexity, ambiguity and incredible scope of Rauschenberg's oeuvre”

2.「Robert Rauscheberg」by Walter Hopps and Lawrence Alloway, National Collection of Fine Arts 1977. xii+216 pp, 248 illustrations (20 in color)
“The artist's first comprehensive retrospective of works in all media including dance and performance”
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by galleria-iska | 2011-10-18 18:45 | ポスター/メイラー | Comments(0)


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