ガレリア・イスカ通信

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2012年 02月 03日

モイズ・キスリングの口絵「Blason de La Pologne」(1929)

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前回のブログで取り上げたルネ・キフェール書店から購入した書籍のひとつ。同書店が1988年に発行した目録239号に掲載されていたもので、1929年にパリのエミール=ポール・フレール出版から出されていた《世界の帯》叢書(1927~1932)の第8巻として出版された、フランスの作家、小説家、文芸評論家アンドレ・テリーヴ(André Thérive, 1891-1967)の「ポーランドの紋章(Blason de La Pologne)」という題名の本。口絵としてユダヤ系ポーランド人画家モイズ・キスリング(Moise Kisling, 1891-1953)のリトグラフが添えられている。目録にはラフマ紙刷りの1500部限定の通常版(250フラン=約6000円)とジャポン・アンペリアルという和紙に似せて作られた用紙に刷られたスウィート一葉が加えられた限定50部の豪華版(350フラン=約8400円)が載っていたので、両方購入した。

キスリングと言うと、人物画や花を描いた静物画などが思い出されるが、ここではポーランドの古城を描いており、モノクロではあるが、キスリングのコントラストの高い、どこかグロテスクさを帯びた画面を彷彿させる。

この頃の注文は、まだパソコンもファックスもなかったので、手紙で行なっていた。注文を出してから二週間ほどで返事が届き、在庫があると手書きの請求書が付いてくるのだが、目録が送られてきてから注文が届くまでのタイムラグが大きく、売れてしまったとの返事の方が多かった。運良く請求書が付いていると、今度は先方の郵便振替口座に送金するのだが、それが先方に届くのにまた一、二週間ほどかかり、それから送料の安い船便で荷物が送られてくるので、注文から到着までに三ヶ月あまりもかかるという、なんとも気の長い話であった。当方の目当ては現代作家の挿絵本で、タイムラグを考え、すぐに売れてしまうような人気のあるものは避け、人が未だ目を付けていないと思うものを選んで注文しているつもりでいたのだが、売れたとの返事が何度も続くと、さすがに戦意を喪失してしまいそうになった。さりとて現地に乗り込んで好きなだけ買い込んでくるほどの資金は持ち合わせていないので、運を天に任せ待つしかない。時折、安価なものばかり注文するから競争が激しいのではないかと思い、エイヤとばかり高い本を注文するのだが、残念ながら売れてしまったという返事がくると、妙に安心してしまう。そんな矛盾した感情は、心のどこかに自分が行なっていることに対する後ろめたさがあるからに他ならない。その為、それを正当化するに足るいわゆる“大義名分”が必要となるのだが、他人から見ればなんとも身勝手な理由を見つけ出すのである。愛書狂を自認するに至った鹿島茂氏は自著「子供より古書が大事と思いたい」の中で次のように書いている。

“私が本を集めるのではない。絶滅の危機に瀕している本が私に集められるのを待っているのだ。とするならば、私は古書のエコロジストであり、できるかぎり多くのロマンチック本を救い出して保護してやらなければならない。これほど重大な指名を天から授けられた以上は、家族の生活が多少犠牲になるのもやむをえまい。”

その本を注文する楽しみが一転、地獄のように思えたことがある。まだ自分で直接洋書を注文できなかった18か19の頃である。ヘラクレス・セーヘルスという17世紀オランダの画家の版画集が出版されたことを聞き、数千円で買えるものと勝手に思い、洋書の取次ぎ業者に注文を出したことがある。何ヶ月も待ってようやく返事が来たのだが、版画集一冊10万円成りとの請求書を見て、腰を抜かすほど驚いた。当時の父親の給料よりも高かったのである。もし荷物が届いたらどうしようかと思うと、毎日不安で飯も喉を通らぬほどであった。それから半年ほど経って業者から、あちこち探してみたが、どうしても見つからなかった、という返事が来たときは、泣くほど嬉しかった。そしてその日の夕食の旨かったこと。

●作家:Moise Kisling(1891-1953)
●著者:André Thérive(1891-1967)
●種類:Literature
●題名:Blason de La Pologne
●サイズ:215x142x10mm
●技法:Lithograph
●限定:1650, of which 50 are printed on Japon Impérial
●発行:Éditions Émile-Paul Frères, Paris
●制作年:1929
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ラフマ紙(Vélin Lafuma)に刷られたもの
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ジャポン・アンペリアル(Japon Impérial)に刷られたスウィート
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奥付に記された出版データと記番。スウィート付きのこの本は1650部のうちの1番である。
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by galleria-iska | 2012-02-03 21:06 | その他 | Comments(0)


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