ガレリア・イスカ通信

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2012年 03月 07日

ロイ・リキテンスタインのポスター「Apple」(1981)

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1881年に始まるミズーリ州セントルイスにあるセントルイス美術館(The Saint Louis Art Museum)は美術史全般を俯瞰することができるコレクションを持つ美術館であるが、そのセントルイス美術館が1981年に開催したロイ・リキテンスタイン(Roy Lichtenstein, 1923-1997)の1970年から1980年までの作品による個展の告知用に制作されたオリジナルのシルクスクリーンポスター。リキテンスタインは1980年に再び、その後の絵画制作において大きな役割を果たすことになるブラッシュストロークを用いた静物画を描き始めるが、モチーフとして最初に選んだのがリンゴである。それはかつてセザンヌが画家に共鳴していた批評家ギュスターヴ・ジェフロワに対して『リンゴでパリを驚かせたい』と語ったといわれていることへのリキテンスタインの共鳴であり、セザンヌ絵画の本質をリキテンスタイン流に解釈したものであると言えなくもない。そしてまたリンゴの持つ歴史的な意味合い(註1)というものにリキテンスタインが着目したのではないか、という推測は当たっていないにしても、リンゴを選んだという行為自体が様々な意味を帯びてくこととなる。このポスターにもかつては主題そのもであったブラッシュストロークを組み合わせたリンゴの形が示されており、二年後の1983年に、リキテンスタインは木版画集「Seven Apple Woodcut Series」を制作することとなる。リキテンスタインはここでは(セザンヌの描いた)リンゴを色彩(色の三原色として示されている)と筆触という絵画を成立させるための根本的な要素にまで解体し再構成することで、彼自身の言葉「私の絵はどれも、とてもばらばらの要素が組み合わさっています。そういうものが何もかも一緒になって、一枚の絵を作っているというのが、私は好きなんです」(註2)にあるように、さまざま絵画的な要素が彼が関心を寄せる絵画的な概念によって統合され、リキテンスタインの絵画として見事に変容を遂げるのである。

このポスターには、リキテンスタインにしては珍しく、版画ヴァージョンがないが、印刷には厚手のマット紙を使い、題名まで入れていることから、リキテンスタインはこのポスターを版画作品のひとつと考えていたと思われる。このポスター、ポスター全盛期ともいえるバブル時代の日本はもとより、アメリカの大手ポスター販社のカタログでも見かけなかったが、理由はどうも出版元であるセントルイス美術館が販社に対して配給を行なっていなかったからのようである。ようやくその存在を知ったのは、版画のカタログレゾネが出版された1994年のことである。出版から既に13年も経っていたが、もしやと思い、セントルイス美術館に問い合わせの手紙を送ってみたところ、数ヶ月後に返事が届き、ショップに未だ10枚程残っているとのことだった。ただ送料がやたら高く、一枚の注文では割りに合わないため、購入希望者を募って10枚全て購入することにした。ところが、それから一向に話しが進まず、結局、ポスターが届くまでに一年半も掛かってしまった。ようやく手にしたポスターは期待以上のもので、苦労(?)して手に入れた甲斐があった。このポスターにはホイットニー美術館(Whitney Museum of American Art)で行なわれた巡回展のものもあるのだが、そちらは運良くネットオークションで購入することができた。

●作家:Roy Lichtenstein(1923-1997)
●種類:Poster
●題名:Apple
●技法:Silkscreen
●サイズ:890x650mm
●限定:approximately 3800
●発行:The Saint Louis Art Museum, St. Louis
●印刷:Silkscreen Product, St. Louis
●目録番号:Corlett. III.28
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シート右下には題名と版権が表記されている。
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ホイットニー美術館のもの。美術館名と会期を示すタイポグラフィが置き換えられている。

註:
1.エデンの園の中央にあった知恵の樹(善悪の知識の木ともいう)の実とされるリンゴ、ニュートンが万有引力の法則を知る切っ掛けとなったされるリンゴ、ビートルズが設立した企業(Apple Corps)のレコードレーベルであるアップルレコードに使われた、ポール・マッカートニーが所有するベルギーの画家、ルネ・マグリットの青いリンゴの絵がヒントになっているリンゴ、コンピューターメーカー、アップル社の名称でありロゴとして使われたリンゴ。それらは全て人間の知と深く関わっており、世界知というものを形成する上で重要な役割を果たしている。

2.ジャン=クロード・レーベンスタンとのインタビュー、岩原明子訳「八つのステートメント=マチスについて」『美術手帖』1980年8月号 P.128
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by galleria-iska | 2012-03-07 18:07 | ポスター/メイラー | Comments(0)


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