ガレリア・イスカ通信

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2012年 07月 08日

パウル・ヴンダーリッヒのポスター「Galerie Negru」(1978)

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1978年10月17日から12月16日にかけてパリのオクターヴ・ネグル画廊(Galerie Octave Negru, Paris)で行なわれたパウル・ヴンダーリッヒ(Paul Wunderlich, 1927-2010)のエロティックなドローイング34点による展覧会《Homo Sum(ホモー・スム)》の告知用に制作されたオリジナルデザインのリトグラフポスター。同じイメージを用いた版画作品も同時に制作されている。この展覧会の題名となった《ホモー・スム》という言葉は、ローマの喜劇作家テレンティウス(Terentius)が書いた『自虐者』という喜劇の「Homo sum, humani nihil a me alienum puto」(私は人間である。人間に関わることで私に無縁なものは何もない)という台詞にかけたものらしく、ヴンダーリッヒはそれを「私はホモである」と読み、1959年に制作したリトグラフ12点の連作版画「自ずと説明されるもの(qui s'explique)」以来の“同性愛(ホモセクシュアル)”をテーマとして取り上げている。このポスターでは、合わせ鏡のように向き合って立つ男と女それぞれ一組のカップル-両者の間には深い断裂がある-によって“同性愛”が示されており、背景自体も人体の一部が拡大されているように見えるのだが、告知用のポスターとあって、直接的な表現は避けているようである

常人にとって《倒錯》した性愛であるホモセクシュアルの愛の諸相を描いたこの連作ドローイングは、ヴンダーリッヒの鉛筆による流麗な描線に水彩による淡彩あるいは油絵の具のアクセントが加えられ、シュルレアリスムにも通底するであろうサディスチィックな不気味さとともに妖しい美しさを解き放っている。しかしながらそれは、ヴンダーリッヒ自身の性的志向を表したものではなく、あくまでも絵画的表象によるエロスの表出を目した、ヴンダーリッヒの幻視が生み出した虚構の世界である。ヴンダーリッヒは、反道徳、反倫理、異端という言葉に象徴されるように、敢えて誤解を生みそうなホモセクシュアルというスキャンダラスなテーマを取り上げ、何一つ表明はなされていないが、ホモセクシュアルを、様々な制度を作り出してきた生殖という行為から人間の性を解放し、破壊や殺戮を繰り返す人間存在の空しさを埋め、また道徳や宗教を超えた人間の存在意義の根幹をなすものとしての、創造や美の原動力とも成り得るエロスの可能性を示す手段として捉えようとしているのだろうか。

自らの言葉では語らないヴンダーリッヒであるが、その画題についていえば、〈私は人間である。人間に関わることで私に無縁なものは何もない〉という言葉によって“自ずと説明される”のかもしれない。

●作家:Paul Wunderlich (1927-2010)
●種類:Poster
●題名:homo sum
●サイズ:649x496mm
●技法:Lithograph
●発行:Galerie Negru, Paris
●限定:500
●制作年:1978
●印刷:Matthieu AG, Dielsdorf
●目録番号:R.587
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画面左上にはヴンダーリッヒが1970年から通うことになるスイスのディールスドルフ(Dielsdorf)にある版画工房、マチュー(Matthieu AG)の名が記されている。

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展覧会に合わせてネグル画廊から刊行された画集『Homo Sum -34 Oeuvres Par Paul Wunderlich』(Text. Yves Navarre)ソフトカバー。一方、ヴンダーリッヒの版元であるオッフェンバッハのフォルカー・フーバーからはスリップケース付きのハードカバー『Homo sum - 34 Zeichnungen』(Text. V. Fritz J. Raddatz)が限定2000部で刊行されている。
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by galleria-iska | 2012-07-08 16:56 | ポスター/メイラー | Comments(0)


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