ガレリア・イスカ通信

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2012年 07月 04日

菅井汲の年賀状「Carte de voeux 1968 & 69 」(1968 & 69)

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菅井汲(Sugai Kumi, 1919-1996)が版画の制作を始めるのは、パリに渡って三年後の1955年からであるが、それと時を合わせるように、オリジナルデザインの賀状(Carte de voeux)を作り始める。それらは販売に供されることは無く、菅井と生前交流のあった者だけが知るものとなっていたが、最近になってそのうちの何点かを入手、ようやくその存在を知り得た次第。それらを見てみると、その時々の版画のスタイルが賀状のデザインに反映しており、菅井は賀状の制作を通して、本人も気付かない内に小さな版画宇宙を作り上げていたのかもしれない。既に何点か取り上げているが、ここでは、デザイン的な特徴を踏まえ、1968年と69年の二点の賀状を取り上げてみる。

1968年の賀状の構成は、1967年から68年にかけて制作された「森と二つの太陽」「太陽の森」「緑の太陽」における赤い太陽と緑の森の組み合わせに呼応している。菅井の森に対する興味というか関心は、今日の自然回帰や環境問題といったエコロジー的な視点によるものではなく、もっと根源的な日本人の自然観に根ざしたものというか、日本人の精神構造の根幹を成していたアミニズム的要素を含んだものであり、直接的には高速道路、殊にアウトバーンの両脇に続く緑の塊(マッス)としてのドイツの森の印象から得られたものではないかと思われる。

●作家:Sugai Kumi(1919-1996)
●種類:Greeting card(Carte de voeux)
●サイズ:156x135mm
●技法:Lithograph
●紙質:Arches
●発行:Sugai Kumi, Paris
●印刷:Sugai Kumi, Paris
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菅井汲の版上サイン

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1969年の賀状では、車のフロントガラスを通して差し込んでくる太陽の光が表現されている。この太陽の光を表す意匠は、1965年の「オートルートの朝」や「日蝕」に現れ、前述の「森と二つの太陽」「太陽の森」にも用いられている。

●作家:Sugai Kumi(1919-1996)
●種類:Greeting card(Carte de voeux)
●サイズ:159x123mm
●技法:Lithograph
●紙質:Arches
●発行:Sugai Kumi, Paris
●印刷:Sugai Kumi, Paris
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菅井汲の版上サイン

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菅井汲のカラーリトグラフ「日蝕」

●作家:Sugai Kumi(1919-1996)
●題名:L'Eclipse au Soleil
●サイズ:665x535mm(755x560mm)
●技法:Lithograph
●限定:100
●紙質:BFK Rives(レゾネにはArchesとある)
●発行:Galerie Brusberg, Hannover
●制作年:1966


版画家としての菅井汲の40年に渡る版画制作の概要を知るには、1996年に阿部出版から刊行された版画総目録『SUGAI Catalogue raisonne de l'oeuvre grave 1955-96』が有用であるが、編者の意図、あるいは作家の意向なのであろうか、欧米の作家の総目録では当たり前となっているポスターや案内・招待状、賀状といった、菅井汲が生きた時代の証であり、共にその時代を生きた者の記憶を辿る糸口となり、更には記憶と深く結びついたに時代の空気感や匂いまでも蘇らせてくれるフェメラの項目が設けられていないのが残念である。
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by galleria-iska | 2012-07-04 20:07 | その他 | Comments(0)


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