ガレリア・イスカ通信

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2012年 12月 11日

菅井汲の版画集「Dessins 1957-1960」(1961)

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版画家としての菅井汲(Kumi Sugai, 1919-1996)の出発点は、1955年に自身の油絵をもとに制作したリトグラフ「赤い鬼(Diable Rouge)」であるが、短期間のうちにリトグラフの手法を身に付けた菅井が、当時ヨーロッパを席巻したアンフォルメルの流れの中で最初に試みたのは、カリグラフィックな側面を持つ抽象でありながらも、“漢字”の表意性に想を得たかに思える性的な形象によって、今も日本の農村部に残る人間の根源的な生の姿を表象するものであった。そのことは、表現者としての自己を確立する上で不可欠な日本人としてのアイデンティティと深く結びついており、菅井のデザイナーとしての経験とも無縁ではないように思える。

その菅井がヨーロッパの文脈との出会いによって1957年に制作したのが、フランスの詩人で美術評論家のジャン=クラレンス・ランベール(Jean-Clarence Lambert, 1930- )の詩とのコラボレーション『果てしなく探求(La Quete sans Fin)』であった。出版を行なったは、パリを拠点に制作を行なう現代美術作家にスポットを当てて紹介するポケットサイズ(185x140mm)の画集「ポケット美術館(Le Musée de poche)」(1955-1965)や現代美術に焦点を当てた美術雑誌「OPUS INTERNATIONAL」(1967-1995)の発行元であったパリのジョルジュ・フォール出版(Georges Fall-Éditeur)で、ランベールはこのコラボレーションの発表に翌年に、「ポケット美術館」のシリーズの一冊として、菅井を含むパリで活動する若手の作家16人を取り上げた「若きエコール・ド・パリ 2(La jeune école de Paris, II) 」を執筆している。そして1960年、日本とも馴染み深いシュルレアリスムの作家アンドレ・ピエール・マンディアルグ(André Pieyre de Mandiargues, 1909-1991)が、同じシリーズの中で、菅井汲の最初のモノグラフィーとなる「Sugai」を著わしている。ジョルジュ・フォール出版はその翌年、今度は、菅井のリトグラフの連作版画集として、16葉のリトグラフを収めた「デッサン 1957-1960(Dessins 1957-1960)」を出版、序文をマンディアルグが担当している。この版画集は、菅井の版画目録にも掲載され、2003年にロンドンのサザビーズの版画オークションで2160ポンドで落札されるなどして、菅井の版画集として認知されているが、「デッサン」というタイトルが災いしてか、古書店によっては画集として販売しているところもあり、手元にあるものも、ドイツの古書店からサイン入りの画集として購入したものである。この版画集に収められた作品は、菅井が1950年代後半から60年代の前半に制作した版画作品の着想を描きとめた下絵とも言えるもので、菅井の初期の版画スタイルを概観することができる。

●作家:Sugai Kumi(1919-1996)
●題名:Dessins 1957-1960
●著者:Andre Pieyre de Mandiargues
●サイズ:434x345mm(Folio), 432x342mm(Format)
●技法:Lithograph
●限定:140
●発行:Georges Fall-Editeur, Paris
●印刷:Georges Fall-Editeur, Paris
●制作年:1957~1960
●目録番号:28-43
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二段目、三段目左端の作品は横位置の構図
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目録番号34、限定5部の和紙刷りのものには、刷り込みの署名(SU 1959)とは別に、イメージの真下に鉛筆による署名がある。
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by galleria-iska | 2012-12-11 18:03 | その他 | Comments(0)


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