ガレリア・イスカ通信

galleriska.exblog.jp
ブログトップ
2013年 03月 23日

ホルスト・ヤンセンの画集「Phÿllis」(1984)

a0155815_18201352.jpg

1984年にホルスト・ヤンセン(Horst Janssen, 1927-1995)の契約画廊であるハンブルクのブロックシュテット画廊(Galerie Brockstedt, Hamburg)で開催されたヤンセンの45点のエロティックな水彩画による展覧会「フュリス(Phÿllis)」に合わせて刊行された画集。初版は会期中に売り切れてしまい、すぐに第二版が刊行されたと聞いている。当時、ドイツ人画商に勧められ、サイン入りの初版を実物も見ずに何冊か購入した。それらは、また手に入るからと、友人や知り合いの作家に譲り、すぐに追加注文を出したのだが、その時には既に売り切れてしまっていたようで、数ヶ月経って届いたのはサイン無しの第二版であった。わが人生に悔い多し、である。

それから10年後の1994年に、旧セゾングループの出版社で、1984年に『ハンス・ベルメール写真集』の日本語版を刊行したリブロポートの姉妹レーベルであるトレヴィル((Treville)から日本語版が刊行された。この10年という時間は、ベルメールの写真集刊行までのタイムラグと比べると随分長いように思えるが、翻訳権の取得などに時間を要したのか、それとも単に見過ごされていたのか、田舎暮らしの人間には知る由もない。ともかくそれは突然目の前に現れた。洋書の美術書も置いていた馴染みの書店で目にしたときは、少々驚いた。図版の一部にそそり立つファルスを写した写真が使われたり、過激な性描写に配慮したのか、ビニールカバーが掛けられていたように思うが、本自体はオリジナルと全く同じ体裁で造られていたので、てっきりオリジナル版だと思い込んでしまったのである。真紅の帯に並ぶ日本語の文字が目に入らなければ、そのまま気付かずにいたかもしれない。

その帯には「閨房をつつむ夜のとばりの中で少女フュリスと獣人が貪り合う凄惨な「愛」。異端の巨匠ホルスト・ヤンセンが描き出す、夢魔と少女たちとのソドムの饗宴」という文言からキャッチコピーが印刷されていたのだが、それはヤンセンの絵画的表層を言い表してはいるが、いささかセンセーショナルな部分を強調し過ぎているように思えた。ヤンセンの作品には、現代美術の常套手段である引用とか借用、パロディによって成立しているものが多くあり、そこに意図されるのは,描かれた主題とそこから表出される叙情性とか精神的な内面性といったものではなく、ポップ・アートのロイ・リキテンスタインを思い起こしていただければ分かるかと思うが、それをどうやって自己の絵画として成立させるかというところに比重が置かれており、描かれているものに囚われ過ぎると、ヤンセンが現代美術の文脈に立つ作家のひとりであることを見落としてしまう危険性がある。確かにヤンセンは、この作品群において、反道徳、反芸術的とも思える表現を行なっているように見えるが、主人公であるフュリスの醒めた視線を置くことで、作品世界には没入せず、クールな作品に仕立てており、人物画や静物画と同じように、性描写も題材のひとつとして扱われていると理解すべきであろう。

●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Art book
●サイズ:343x256mm
●技法:Offset lithograph
●発行:Galerie Brockstedt, Hamburg
●印刷:Hans Christians, Hamburg
●制作年:1984
a0155815_1826404.jpg
a0155815_18265138.jpg
a0155815_1827347.jpg
a0155815_18271497.jpg
a0155815_18272623.jpg
a0155815_18273796.jpg

a0155815_19575535.jpg
同展の告知用ポスター、1984年、690x500mm、オフセット印刷。
[PR]

by galleria-iska | 2013-03-23 19:53 | ホルスト・ヤンセン関係 | Comments(0)


<< ベルナール・ビュッフェの年賀状...      アントニ・タピエス展の招待状「... >>