ガレリア・イスカ通信

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2013年 03月 25日

ベルナール・ビュッフェの年賀状「Le microscope」(1959)

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画題として取り上げられることは滅多にないであろう顕微鏡を描いたこの作品「Le microscope」、ベルナール・ビュッフェ(Bernard Buffet, 1928-1999)が、神奈川県立近代美術館でデッサンと版画による日本最初の展覧会が開催された1959年に、フランスの大手製薬会社ルセル・ユクラフ(Roussel-Uclaf S.A.)(註1)の1960年の年賀状として制作したもの。顕微鏡の脇に置かれているのは、スライドガラス(Microscope slide)を入れた箱かと思われるが、それには"Roussel"の文字、その包み紙らしきものには"Uclaf"の文字が記されている。画面下の余白にポワント・セッシュ・オリジナル(pointe sèche originale)の表記と版上サインがある。年賀状は二つ折りのカードのような体裁を取っているが、実際は、版画の裏側にあたるページにルセル・ユクラフのロゴマーク(社標)を型押しするために、四つ折りになっている。年賀状とは別刷りで、ビュッフェがサインを入れた限定100部の版画ヴァージョンが存在している。

ビュッフェが、銅版画の技法のひとつであるドライ・ポイントを始めたのは、灰色を基調とする抑制された色彩と虚無的な表情を見せる人物を描いて第1回批評家賞を受賞した1948年のことであるが、バー(burr)と呼ばれる描線に沿って出来るまくれが生み出す滲みを多用するビュッフェの版表現は、第二次世界戦後の喪失感と肉親を失うという孤独感の中にあって、柔らかい皮膚を引っ掻くという自傷的な行為によって生まれる血の滲みにも似たバーの表情に、苦悩とともにある人間の生の姿を投影しようとしたビュッフェの内的な感情の表出であったのかもしれない。アナベルとの出会いによって生きる喜びを色彩によって表現するまでは。

●作家:Bernard Buffet(1928-1999)
●種類:Carte de voeux(Greeting card)
●題名:Le microscope(The Microscope)
●サイズ:235x160mm(sheet:470x320mm)
●技法:Pointe sèche(Dry Point)
●発行:Roussel-Uclaf
●制作年:1959
●目録番号:Rheims 23
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ルセル・ユクラフのロゴマーク。薬学のシンボルとしても使われる「アスクレピオスの杖」というよりは、ヘルメースの持っている杖「ケリュケイオン」を模したデザインである。
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年賀の挨拶
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註:

1.1911年創業のルセル・ユクラフ(現 サノフィ・アベンティス)は1995年に、アメリカ合衆国の製薬会社マリオン・メレル・ダウ社(Marion Merrell Dow)を吸収合併したドイツのヘキスト(Hoechst AG, Frankfurt)社の傘下に入り、97年に完全に買収されるまではフランス第二の製薬会社であった。この合併により、ヘキストグループの世界有数の製薬メーカーであるヘキスト・マリオン・ルセル社となり、1999年には、フランスのローヌ・プーラン・ローラー(RPR)社と合併し、フランス東部のストラスブールを本拠とするアベンティス社となった。2004年、今度はフランスの製薬会社大手、サノフィ・サンテラボ社に吸収合併され、サノフィ・アベンティス(Sanofi-Aventis.)社となる。
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by galleria-iska | 2013-03-25 20:31 | その他 | Comments(2)
Commented by bigfly at 2013-04-02 00:43 x
はじめまして。
ビュッフェ作品のファンですので、現物やレゾネなどでもいろいろと版画作品も見ていますが、この作品の体裁がこのような四つ折りのモノだった事は初めて知りました。
レゾネには作品部しか画像掲載されていないですし、手に入れて初めて分かる事ですね。
貴重な作品情報ありがとうございます。
私も挿画本などを集めています。
切手もサブ・コレクションとして集めているので、こちらの記事、これからも楽しませていただきます。
http://blogs.yahoo.co.jp/big_flyjp
Commented by galleria-iska at 2013-04-02 20:04
こんばんは。bigflyさん。コメントありがとうございます。年賀状ということで二つ折りのものとばかり思い込んでいたのですが、余白部分のシワが気になり、伸ばそうとして触っている内に、折り重なった部分が少しづつ開いてきて四つ折りであることが判ったという次第。画廊関係者なら誰でも知っていることかと思いますが、自分で発見するのも楽しいものです。こちらからもお邪魔させていただきます。


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