ガレリア・イスカ通信

galleriska.exblog.jp
ブログトップ
2013年 05月 05日

横尾忠則の写真集「Tokyo Y-Junctions」(2009)

a0155815_19252844.jpg

最近は、身近で不幸ばかり続き、悦ばしい、晴れがましい、などといった目出度い話はすっかり耳に届かなくなってしまった。昨年から続いた法事が一段落し、ようやく頭の上の重しが取れた感じだが、行楽に出かけるための金子は何処へやら。そんな中、過日、香典返しに選んだ品物が郵便で届いた。巨匠、横尾忠則の写真集「東京Y字路」である。刊行時に書店で見て欲しいと思ったが、ついつい後回しになってしまっていた。その写真集を香典返しのギフト・カタログで見つけたときは驚いたが、いつまで経っても購入しそうもないのを見かねた故人の計らいだったのかもしれない。感謝。

そんなわけで、すぐに開けてしまっては申し訳ないような気がして、エアーキャップを被せたまま撮影した。紐でも掛ければ誰かの作品のように見えなくもない。くだらぬ事はさておき、横尾氏には、ある現象・事象に興味を覚えると、それにまつわる物をかなり執拗に追い求める“癖”があるようである。今回の「Y字路」について、自身、次のように語っている。
“Y字路は、1本の道が2つに分かれ、“Yの字”となる特殊な場所であり、現代の都市構造においては非常に使い勝手の悪い場所でもあります。そのため、最近では少しずつY字路が姿を消し始めているように感じます。将来的には、絶滅してしまう街の風景を、私は追い続けているのかもしれません"
もとは絵画制作のための記録として撮影したものらしいが、非現実的な光景を現出させるための状況設定は、単なる記録の域を超えており、これもひとつの収集と言えるのではないだろうか。出版案内には
“横尾芸術の近年来の重要なモチーフのひとつである「Y字路」を、23区から都下、島部まで、東京をくまなく探訪し、写真というかたちで追い求めた、横尾忠則初にして、空前絶後の写真集!! 序文=椹木野衣 ”
とある。横尾氏のグラフィック・アーティストとして感性に地誌的(トポグラフィック)な視点を交え撮影された写真は、もとは単なる分かれ道であったに過ぎないY字路を、都市化の中で、人体に喩えれば局部にあたる不条理で千差万別な姿を見せる場所に変容させてきた、人間の行為による風景として提示するものである。横尾氏は本書の刊行に合わせ、産業界の合理化のなかで消えてゆく運命にあった給水塔や溶鉱炉などの産業施設、また産業地帯の住宅などを撮影し、それらを同一施設ごとに集め、グリッド上に並べて見せたドイツの写真家、ベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻(Bernd und Hilla Becher)によるタイポロジー(類型学)の手法を想起させる方法で写真の展示を行なっている。刊行から二年半、見る側にも新しい風景の発見と追体験をもたらしており、この分野で新境地を開く可能性を感じる。今回限りとするのは惜しい気がするのだが。

●作家:Yokoo Tadanori(1936-)
●種類:Photograph
●サイズ:234x302mm
●技法:Offset
●発行:Kokushokankokai
●発行日:2009/10/26
[PR]

by galleria-iska | 2013-05-05 18:08 | その他 | Comments(0)


<< 浜口陽三展の招待状「Galer...      キース・へリングのポスター「K... >>