ガレリア・イスカ通信

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2013年 10月 25日

エル・リシツキーのブックデザイン「The isms of art 1914-1924(Reprint)」(1990)

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本書の原書である『The isms of art 1914-1924(芸術のイズム 1914-1924』(註1)は1925年に、ロシア・アヴァンギャルドの中心的存在のひとり、エル・リシツキー(El Lissitzky, 1890-1941)とダダイストのハンス・アルプ(Hans Arp, 1887-1966)の共同編集により、ドイツの出版社Eugen Rentsch Verlag, Erlenbach-Zürich, München, Leipzig から刊行されたもの。テキストはドイツ語、フランス語、英語の三ヶ国語併記。装丁、タイポグラフィ、レイアウトをリシツキーが担当しており、三ヶ国語のテキストに対応するように、黒の垂直の線と水平の三段グリットからなる建築構造的なデザインによる目次やテキストが11ページ、次いで48ページからなる図版がフォト・モンタージュや構成主義的な造形を感じさせる見せ方で配置されている。テキストは各主義を代表する作家によるもの。本書はそれを忠実に復刻したもので、1990年にドイツの出版社Lars Müller Verlag, Badenから刊行され、1995年と1999年に再版されている。また本書には、同じく三ヶ国語併記による別紙印刷物として、現在バーゼルにある《Hochschule für Gestaltung und Kunst der Fachhochschule Nordwestschweiz/ University of Art and Design. University of Applied Sciences, Nordwestschweiz》の教授を務めるAlois Martin Müllerによる芸術前衛についての解説「Letzte Truppenschau/Derniere Revue des Troupes/The Last Parade」が添えられている。

たまには虫干しと思って取り出してきたわけだが、購入当時は全く内容も知らず、ロシア構成主義のデザインとアメリカの現代美術、特にハードエッジやミニマルアートとの関連性に惹かれて購入したものの、想像していたものとは全く違っていたことから、ずっと仕舞いっぱなしなっていた。本書に紹介されている美術運動としての“イズム”の多くは、1910年代から1920年代にかけての、産業の近代化による社会情勢の変化や第一次世界大戦やロシア革命といった大きな社会変動を背景にして生まれてきたものである。第二次世界大戦後の著しい経済成長により繁栄を謳歌したアメリカで始まった大量生産・大量消費という今日的な社会風景は、ソ連崩壊による冷戦終結がもたらした資本主義の勝利によってさらに加速し、それまでのイデオロギー的な国家を成立させている理念や社会構造自体を経済が飲み込んでいくこととなる。今日の、国家そのものが世界を巻き込んだ貪欲な経済活動によって際限なく消費される状況下では、人間の精神的遺産さえも消費の対象となっており、絵画においても、複製、引用、借用、転用と言った手法の名の下、自然に代わる新しい風景として、人間が作り出したイメージを再現なく消費し続け、オリジナルが持つアウラを限りなく希薄なものにしてしまっている。そして、作る喜び、生み出す苦しみ、育てる力、繋げる努力、そういったものを成立させる前提としての世界そのものが内部崩壊しつつある中で、かつてのように理想を追求する純粋な思想というものを創出し得るエネルギーが失われてしまっているのかもしれず、また何かしらの思想や哲学といった時代に先行する世界観を作家の直観力によって提示してきた美術とっても、新たな創造を目指すことの意味を探り出すことが困難になってきているように思えてしまう。

さらに言えば、世界は永遠であることが揺らぎつつあることを予感しながらも、その危機を乗り越える想像力を地にしがみ付いて生きる人間の手の内に見い出すことは、もはや不可能なのかもしれない。あまたのSF小説にあるように、人類の存亡を掛けて宇宙に進出していかねばならないという話は、空想や活字の中の絵空事ではなく、現実に起こり得る事として、国際宇宙ステーションの建設や火星への有人飛行計画が現実味を与えているように見える。その時、たとえば絵画は「黙示録」以外に人類にどんなヴィジョンを提示することができるのであろうか...。

●作家:El Lissitzky(1890-1941)
●種類:Book Design
●サイズ:265x205mm(257x195mm)
●技法:Lithograph
●印刷:Waser Druck AG, Buch/ZH
●発行:Lars Müller Verlag, Baden, 1990
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註:
1.『The isms of art 1914-1924』was published by Eugen Rentsch Verlag Erlenbach-Zürich, München, Leipzig in 1925. Black and offwhite boards decorated with typography in red, black and white by El Lissitzky. First edition; cover, design and typography by El Lissitzky; printed in red and black by Stähle und Friedel, Stuttgart. 256 x 196 mm.; pp. XI + 48: coated paper with 76 photographs of artists and works, illustrating brief descriptions of art movements of 1914-1924: Constructivism, Verism, Prouns, Neoplasticism, Dada, Simultaneity, Suprematism, Cubism, Futurism, Expressionism, Purism, Metaphsysical art, Abstraction, Merz.
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by galleria-iska | 2013-10-25 12:34 | その他 | Comments(0)


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