ガレリア・イスカ通信

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2014年 01月 25日

パウル・ヴンダーリッヒのリトグラフ「Portrait Samuel Beckett」(1976)

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1978年に開催された第一回リストウェル国際版画ビエンナーレ(Listowel International Print Biennale, Ireland)で金賞を受賞したパウル・ヴンダーリッヒ(Paul Wunderlich, 1927-2010)のリトグラフ「サミュエル・ベケットの肖像(Portrait Samuel Beckett)」。この作品はヴンダーリッヒが1976年に、シュトゥットガルトの版元マニュス・プレス(Manus Presse, Stuttgart)から限定50部で出版したもので、1971年にドイツで出版された『Samuel Beckett 』(Klaus Birkenhauer, RoRoRo Bildmonographie 176)掲載の写真に想を得て制作されたのではないかと思われる。引用と変容というヴンダーリッヒの方法論に沿いながらも、この作品が見せる表情は、一般に流布している雑誌や広告・宣伝などの写真をもとに制作を行なうという、第二次世界大戦後のイギリスやアメリカで興った現代美術の作家の絵画や版画を想起させるが、その分ヴンダーリッヒの作品としての個性が薄まり、人気、評価共に今ひとつである。

ヴンダーリッヒが何故アイルランド出身のサミュエル・ベケット(Samuel Beckett, 1906-1989)に興味を抱いたのは不明であるが、この年、同じアイルランド出身の作家ジェイムズ・ジョイス(James Joyce, 1882-1941)へのオマージュともいえる10点組の版画集も出版している。ヴンダーリッヒはベケットの肖像を描くにあたり、時が彫り上げた深い皺のある顔を敢えて描かず、シルエットだけで表現する方法を選んでいる。版画目録に掲載された第一段階では未だ丸眼鏡を描き入れているが、決定段階では、姿を見せないゴドーに準え、丸眼鏡は画面の右下に作家のアトリビュートとして添えられ、見る側の記憶の中にあるベケットの肖像を想起させる方法を取っており、従来的な肖像画とは一線を画している。

この作品には、出版されたものとは幾分色調の異なる試し刷り(epreuve d'essai =e.e)があり、そちらは余白(マージン)が裁断されていない。以前、ヴんダーリッヒがオッフェンバッハの版元フォルカー・フーバー氏に献呈したものを手に入れ気に入っていたのだが、コレクターに奪われてしまい、今手元にあるのは出版された方であるが、何か物足りない気がする。

●作家:Paul Wunderlich(1927-2010)
●種類:Lithograph
●サイズ:645x493mm
●技法:Lithograph
●紙質:Rives
●限定:50
●発行:Manus Presse, Stuttgart
●制作年:1976
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シート左下に押されたリトグラフ工房マチュー(左)と出版元マニュス・プレス(右)の空押し印。


註:
1.
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『Samuel Beckett 』(Klaus Birkenhauer, RoRoRo Bildmonographie 176)の書影
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サミュエル・ベケットの肖像写真。撮影:ジェリー・バウアー(Jerry Bauer)
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by galleria-iska | 2014-01-25 17:41 | その他 | Comments(0)


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