ガレリア・イスカ通信

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2014年 03月 09日

アルベール・デュブーのメニュー「Au Mouton de Panurge」(1955)

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素人の味覚に迎合した昨今の表層的な美食(グルメ)ブームはさておき、それを美学にまで高めることはそれなりの素養と哲学を要する。無趣味で浅学非才の自分には縁遠い世界であるが、それに対して食を欲望として捉える言葉がグルマンというらしい。集合的にはグルメはグルマンに含まれるのであろうか。自分のグルマン的経験と言えば、子供の頃にもうこれ以上食べることが出来ないというまでカレーライスを食べ続けたことぐらいであろうか。食べるのを止めた途端、呼吸困難となり、死の恐怖とともに、食べ過ぎて死ぬこともあるのだと悟った。1974年に日本でも公開されたフランス・イタリア合作の喜劇映画「最後の晩餐(La Grande Bouffe)」(1973)を公開当時、邦題に釣られて観に行ったことがある。実際は池袋の三番館で観たサテリコンの酒池肉林にも一脈通じる食欲と性欲、それにスカトロジーを交え繰り広げられる、退屈な生活と満たされない欲望に疲れた中年男四人の自殺劇を描いた作品であった。映画通ではない自分はマルチェロ・マストロヤンニ以外の配役(ウーゴ・トニャッティ、ミシェル・ピッコリ、フィリップ・ノワレ、アンドレア・フェレオル)は知らず、却って演技を超えた生々しさを感じた。そして本当に登場人物たちは食べるだけ食べて死んでいった。因みに監督・脚本は「ひきしお」のマルコ・フェレーリ、撮影はマリオ・ヴルピアーニ、音楽はフランス映画音楽界の巨匠で、「ひきしお」の音楽も担当したフィリップ・サルド。この作品は1973年の第26回カンヌ映画祭に出品され、スキャンダルを巻き起こしたものの、国際批評家連盟賞を受賞している。

美食と大食を兼ね備えた主人公が登場する物語の元祖と言えば、フランス・ルネサンス期の人文主義者で作家、医師でもあったフランソワ・ラブレー(François Rabelais, 1483?-1553))が著した中世の騎士道物語のパロディー『ガルガンチュワ物語』と『パンタグリュエル物語』である。その『パンタグリュル物語』第四之書の第八章に登場する、パンタグリュルの従者パニュルジュが自分を侮った商人の自慢する羊を買い取って海に投げ込むと、他の羊達がぞろぞろ後を追って海へ飛び込んで溺れ死ぬというエピソードに依拠する、"Mouton de Panurge” (パニュルジュの羊=訳も分からず付き従うの意) という諺的言葉に由来する店名で1949年パリに創業したレストラン「Au Mouton de Panurge」(1977年焼失)には、ラブレーと(生まれ故郷の)ラ・ドヴィニエール友の会の美食家本部(siège gastronomique officiel de l'Association des amis de Rabelais et de La Devinière/Official gourmet headquarters of the Association of Friends of Rabelais and La Deviniere.)が置かれていた。

これはその1955年1月24日のメニューとして発行されたもので、レストランの壁画を担当したフランスの人気漫画家で挿絵画家のアルベール・デュブー(Albert Dubout, 1905-1976)が挿絵を手掛けており、壁画をもとにした表紙絵には中世の出で立ちで酒宴を繰り広げる巨人で大食漢のパンタグリュル一行が面白可笑しく描かれている。この構図自体は、1937年にデュブーが挿絵を担当した『パンタグリュル物語』の挿絵にもとづいているようである。

●作家:Albert Dubout(1905-1976)
●種類:Menu
●サイズ:252162mm(252x325mm)
●技法:Line block(?)+stencil(pochoir)
●発行:Michel de Bray, Paris
●印刷:Lucien Caillé
●制作年:1955
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レストランを訪れた各界の名士たちの署名(刷り込み):この年フランス・アカデミー会員になったジャン・コクトーや彼の愛人とされるジャン・マレーを始め、オーソン・ウエルズ、マルティーネ・キャロル、エロール・フリン、リタ・ヘイワース、スージー・ドゥレール、エドウィジュ・フィエール、、クラーク・ゲーブルといった映画・演劇界の著名人や歌手のエディット・ピアフ、作家のピエール・マック・オルラン、医師のアルベルト・シュヴァイツァー博士らの名も見える。
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by galleria-iska | 2014-03-09 18:21 | その他 | Comments(0)


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