ガレリア・イスカ通信

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2014年 03月 17日

ジャック=アンリ・ラルティーグの写真集「Les Femmes aux Cigarettes」(1980)

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煙草を吸うお姉さんは好きですか? 学生の頃、年に何度か大枚を叩いて、ジャズマニアの友人たちと海外のジャズプレイヤーの来日公演を聴きに出掛けた。ジャズクラブでの演奏ではないので会場は勿論禁煙。休憩時間になると皆一斉にロビーに出て煙草を吸い始めるのだが、そこに来ているお姉さんたちが、日頃目にする女子学生とは比べものにならない美人ばかりで、大人の女性とはこういうものかと、しばし映像を観るような感覚で見入ってしまった。彼女たちは大抵音楽関係の殿方と連れ立って来ており、本当にジャズが好きかどうかは分からず、見得張りの殿方のお飾り的な存在だったかもしれないが、その彼女たちがこぞって煙草に火を付け、ためらいもなく鼻からスゥーと煙を吐き出す姿に目を瞠ると同時に、同じ空間に居ながらも、益々こちら側とあちら側という二つの世界の隔たりを感じてしまった。ジャズといえば、煙草はもちろん、酒やコーヒーも付き物で、それらは詩や文学、演劇や映画にとっても欠かすことの出来ない小道具となっている。そのどれもやらない自分は、人生の悦楽の大部を経験せず、実にのっぺりした人生を歩んで来てしまったのかもしれない。

若い女性が煙草を薫らせる姿を捉えた写真というと、アメリカ出身の写真家ウィリアム・クライン(William Klein, 1928-)による二枚のファッショナブルな写真「Quelques Femmes au Hasard」(1974 & 1978)が思い出されるが、女性の喫煙は、男のそれが仕事と深く結びついているのとは異なり、挑発的であったり、幻惑的であったり、また妖艶さを漂わせたりと、ある種のセックスアピールのようにも映る。本題に移ろう。アールデコ華やかなりし1927年(註1)、紙巻煙草を吸い始めた女性の姿は男性の目には奇妙で不思議な光景として映ったようである。フランスの裕福な家庭に生まれ、8歳のころから自分のカメラで写真を撮り出した偉大なアマチュア写真家ジャック=アンリ・ラルティーグ(Jacques-Henri Lartigue, 1894–1986)もその一人で、彼はその年、数ヶ月に渡って、流行の最先端にいた人気の踊り子や女優たちを楽屋裏に訪ね、彼女たちの煙草を吸う姿を撮影した。この小型サイズの写真集は、ラルティーグがそれから半世紀経った1980年に、自ら撮影した写真96点を選んで出版したもの。御年86歳の時のことである。写真集には、楽屋という十分な光量が得られない場所での低感度フィルムを使っての撮影のためであろう、ピントが甘く手ぶれの写真がいくつも見られるが、その方が却って、ピントの合った写真にはない、幻想的な画像となって、煙草を燻らせる女性の謎めいた雰囲気を引き出しているように思える。

●作家:Jacques-Henri Lartigue(1894-1986)
●種類:Photograph
●題名:Les Femme aux Cigarettes
●著者:Jacques-Henri Lartigue
●サイズ:164x164mm
●技法:Offset
●発行:The Viking Press, New York
●制作年:1980
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雑誌『ライフ(LIFE)』のカメラマン、ヘンリー・グロスキンスキー(Henry Groskinsky, 1934-)によるラルディーグの肖像写真
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註:
1.この年のアメリカでは、ジャズエイジという言葉に表されるようにジャズが時代の音楽となり、享楽と消費という都市文化が大きく発展する中、世界初のトーキーと言われている『ジャズ・シンガー』(The Jazz Singer)が公開され、人気を博した。
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by galleria-iska | 2014-03-17 20:51 | その他 | Comments(0)


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