ガレリア・イスカ通信

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2014年 06月 19日

ジョアン・ミロのポスター「Galerie Berggruen」(1971)

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20世紀スペインを代表する画家のひとりジョアン・ミロ(Joan Miró, 1893-1983)が亡くなって早30年が過ぎたが、若い世代にミロの芸術が継承されていないのか、ネット社会になって美術に対する接し方が変わってしまったのか、最近、その名を聞くことがめっきり少なくなった。もっとも画廊ひとつない田舎に住んでいるのだから当たり前かもしれないが...。油彩や彫刻はさて置き、版画の価格が高騰して手が届かなくなってしまった訳ではないようで、オークションでは以前よりずっと低い価格で落札されているものもあるのにも拘わらずだ。いわゆる芸術作品のオーラを形成する、シュルレアリスムの画家としての位置付けや抽象絵画に対する敬意のようなもの、またそれらを好物とするスノビッシュな取り巻きといったものが影を潜め、何らかの意味を持つ存在として映らなくなってしまったのだろうか。はたまたコンピューター・グラフックスに慣れ親しんだ目には、人間的な手仕事感が鼻に付くようになってしまったのか...、時代を超えるための何かを試されているのかもしれない。

そのジョアン・ミロが、1971年11月から12月末にかけて、自ら創作した詩にリトグラフによる挿絵を添えた詩画集『金色の羽を持つトカゲ(Le Lézard aux Plumes d'Or)』(註1)の刊行に合わせ、パリのベルクグリュン画廊(Galerie Berggruen, Paris)での展示会のために制作した告知用ポスター(M.831)である。ミロは、挿絵とは別に、このポスターと図録(Plaquette de la collection Berggruen)(註2)用に新たにオリジナルのリトグラフ(M.833)をパリのムルロー工房で制作しており、それは難解とされるコンセプチュアル・アートとは対極にある、漢字の形象にインスピレーションを得、それにスペインの光と影のコントラストを強く意識させる原色の色使いを加えたミロ独特の、今流行りの“ゆるキャラ”を彷彿させる、ユーモラスな形象が見る目を愉しませてくれる。このポスターには、ミロがタイポグラフィの代わりに手書きで文字入れを行なった、限定500部(アルシュ紙300部、リーヴ紙200部)のデラックス・ヴァージョン(M.830)と、ミロが文字の代わりに即興的なドローイングと署名を入れた、限定150部の版画ヴァージョン(M.832)が存在しており、各々興味深い作品となっている。

ミロのリトグラフ・ポスターは、契約画廊のマーグ画廊が1960年に自前のリトグラフ工房(Arte, Adrien Maeght, Paris)を設立するまでは、ムルロー工房で制作されていたが、スペインの版元を除き、すぐにマーグ画廊の工房にその座を奪われてしまう。個人的にはムルロー工房の印刷の方が好みであるが、両者を見比べた印象は、ムルロー工房の印刷はインクが濃く、重厚感があって、機械刷りのポスターであっても、その質感が伝わってくるのだが、一方のマーグ画廊の工房の印刷は、ムルロー工房とは異なる特徴を出そうとしているためか、リトグラフとは思えないほど薄く、どうも安っぽく見えてしまう。そのムルロー工房も現代美術作家の多様な要望には応えられなかったようで、リトグラフ印刷の翳りと共に、閉鎖に追い込まれてしまうこととなる。

●作家:Joan Miró(1893-1983)
●種類:Poster
●題名:Le Lézard aux Plumes d'Or
●技法:Lithograph
●サイズ:710x495mm
●発行:Berggruen & Cie, Paris
●印刷:Mourlot, Paris
●制作年:1971
●目録番号:M.831
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註:

1.Joan Miró『Le Lézard aux Plumes d'Or』 Louis Broder Éditeur, Paris, 1971 (M. 789-828; Cramer. books #148).ミロとシュルレアリスムの作家の詩画集の出版で知られるルイ・ブロデとのコラボレーションは1956年にブロデが刊行したシュルレアリスムの詩人ポール・エリュアール(Paul Éluard, 1895-1952)の詩集『Un poéme dans chaque livre』のためにエッチングとアクアチントによる銅版画一点を制作したのが始まりである。その後もシュルレアリスムの詩人たちの詩画集の制作に参加、翌1957年にはミロのエッチングとアクアチントによる5点の銅版画を添えたルネ・クルヴェル(René Crevel, 1900-1935)の詩『La Bague d'Aurore(オーロラの指輪)』とミロの最も美しい版画集とされる『Suite la Bague d'Aurore』を刊行。1959年にはルネ・シャールRené Char 1907–1988)の詩『Nous Avons』のために5点のエッチングとアクアチントによる銅版画を制作、同時にそれと関連する版画集「Fusées」を刊行。1965年、再びルネ・クレヴェルの詩『Feuilles Éparses』の挿絵のひとつとしてエッチングとアクアチントによる銅版画を制作、また同名の版画集ために3点のエッチングとアクアチントによる銅版画を制作している。1968年にはミロが1959年に制作したエッチングとアクアチントによる銅版画一点が版画集『La Magie Quotidienne』に所収、1971年の自身の詩とリトグラフによる挿絵からなる『金色の羽を持ったトカゲ』へと至る。

2.
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ベルクグリュン画廊での展示会の図録。220x116mm、24ページ、8点のカラー図版、同画廊50番目の図録として刊行された。表紙はミロが図録ために制作したオリジナル・リトグラフ(5色刷り)。このリトグラフは挿絵のひとつで、目録番号(M.794)の画面の一部を転用している。
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             図版:Le Lézard aux Plumes d'Or(M.794)
Berggruen & Cie, Paris 1971, broché sous couverture illustrée, np. (24 pp.), (220 x 116mm). 50ème plaquette de la collection Berggruen. La couverture est une lithographie originale en 5 couleurs, tirée par Mourlot, spécialement réalisé pour ce catalogue par Joan Miró. Plaquette édité spécialement à l'occasion de la présentation du livre "Le Lézard aux Plumes d'Or" des Éditions Louis Broder à la Galerie Berggruen. 8 reproductions en couleurs et texte de justification de l'édition
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               裏表紙+表表紙
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by galleria-iska | 2014-06-19 12:07 | ポスター/メイラー | Comments(0)


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