ガレリア・イスカ通信

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2014年 09月 08日

パウル・ヴンダーリッヒのリトグラフ「Le Bain Turc II」(1973)

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日本をオイルショックが襲った1973年にパリのベルクグリュン画廊から出版されたパウル・ヴンダーリッヒ(Paul Wunderlich, 1927-2010)の5点のリトグラフからなる連作版画「Suite d'Ingres」は、19世紀フランスの新古典主義絵画を代表する画家ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル(Jean-Auguste-Dominique Ingres, 1780-1867)の作品「ルブラン夫人の肖像」」「トルコ風呂」「ベルタン氏の肖像」の翻案として制作されたもの。アングルが晩年の1862年に、裸婦とオリエントをテーマに描いた官能的な作品「トルコ風呂(Le Bain Turc)」(註1)については、三つの異なる解釈がなされており、ヴンダーリッヒ芸術の根幹をなす“メタモルフォーズ(変容)”の格好の例証となっている。そのひとつが、この「トルコ風呂 II(Le Bain Turc II)」で、他の二作品と同様、ヴンダーリッヒはアングルの「トルコ風呂」のハイライトともいえる前景部分を引用し、1960年代初頭のパリ滞在中にデジョベール工房(Desjobert)で習得し、自家薬籠中の物とした、ラヴィ(lavis)と呼ばれる、微妙な半調子や諧調,細かな皺模様を出せるリトグラフの技法を、背中向きでリュートらしき楽器を奏でる裸婦(背中向きの裸婦像はアングルが到達した究極の美の表現とも言える)に用い、画面に独特な表情を与えることで、ヴンダーリッヒ独自の作品と化している。

版元となったパリのベルクグリュン画廊(Berggruen & Cie)の1974年の販売カタログ〈Maitres-Graveurs Contemporains 1974〉によると、この作品の当時の販売価格は2000フランで、日本円に換算すると約134000円(1F=67円で換算)であった。この価格は当時のヴンダーリッヒの作品のなかでは最も高価な部類に入るのだが、すぐに売り切れてしまったようで、1976年の販売カタログには掲載されておらず、その後ずっとコレクター垂涎(?)の作品として捜し求められた作品である。バブル時代に知り合いのドイツ人画商からヴンダーリッヒ氏本人から《e.a.》版を約60万円で分けてもらったと聞いたことあるが、今はその十分の一ぐらいの価格になってしまった。

●作家:Paul Wunderlich(1927-2010)
●種類:Print
●題名:Le Bain Turc II, plate 3 from the《Suite d'Ingres》
●サイズ:655x505mm
●技法:Lithograph
●限定:75 + 11 e.a. + 9 e.e.
●出版:Berggruen & Cie, Paris
●印刷:Desjobert, Paris
●制作年:1973
●目録番号:R. 473

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註:

1.
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図版:アングルの「トルコ風呂」1862年。もとは長方形の画面であったが、アングル本人が1863年に円形に変えた。クールベに描かせた「世界の起源」同様、オスマン帝国の元外交官でパリに定住していたエロチック絵画のコレクターであったハリル・ベイの所有であったが、現在はルーヴル美術館に所蔵されている。
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by galleria-iska | 2014-09-08 20:10 | その他 | Comments(0)


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