ガレリア・イスカ通信

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2015年 01月 21日

ジョルジュ・ルオーのポスター「Kunsthaus Zürich」(1948)

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二十世紀最大の宗教画家と称されるジョルジュ・ルオー(Georges Rouault, 1871-1958)は1948年、持ち前の頑固さと完璧主義者故に、315点の未完成作を専属契約を交わした画商アンブロワーズ・ヴォラール(Ambroise Vollard、1866-1939)のもとから取り戻し、ボイラーに放り込み焼却してしまう。この時の様子がフィルムに残されている。その年、スイスのチューリッヒ美術館(Kunsthaus Zürich)は4月から6月にかけてルオーの大回顧展が開催。ルオーは展覧会に際し、自ら告知用ポスターをデザイン、恩師モローを初めとする画家や作家の思い出を記した『回想録(Souvenirs Intimes)』(1926年刊)に挿絵のひとつとして制作したリトグラフ『自画像 I(Autoportrait I)』(註1)をもとにした自画像(というよりも版画作品そのものであるが)を墨で描き、その下に次ぎのように記している《Zurich - 1948 d'après l'ancienne lithographie - G. Rouault -》。
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オフセット印刷とリトグラフを併用したポスターの印刷を行なったのは、1950年代にスイスの観光ポスターの印刷を数多く手掛けたチューリッヒの印刷所〈J.C. Müller AG〉である。ルオーは展覧会のためにチューリッヒまで出向き、ポスターの原画を制作したと思われるが、リトポスターの制作には行き着かなかったようである。パントル・グラビュール(画家兼版画家)と呼ばれる作家の多くは、自らの油彩や水彩による絵画作品を版画、特にリトグラフの構図として用いることがしばしばあるが、ルオーはここでは逆に自身のリトグラフを、まるで版画作品の下絵(エスキース)のようなデッサンとして描いている。ルオー自身にリトポスター制作の意図があったとすれば、墨で描かれたそのデッサンはルオーがリトグラフの制作の際に用いる転写紙を使い、石版に転写するつもりのものであったかもしれない。しかしながらルオーのリトグラフ制作は何度も加筆とグラッタージュを繰り返すことから、短い時間でそれをリトグラフとして完成させることは困難であり、墨の濃淡による強いコントラストとデリケートな諧調を見せるデッサンをそのまま活かしてポスターを制作する方向に変更されたと考えられなくもない。そしてそのデッサンの表情をそのまま再現するためにオフセット印刷が用いられたのかもしれない。もうひとつリトポスター制作の意図を窺わせるのが、ポスターの下部に配置された展覧会情報の文字入れである。一見、タイポグラフィーのようにも見えるのだが、実はリト用クレヨンによるものではないかと思われる手書きのレタリングで、実際、リトグラフで印刷されている。

これまでルオーのリトポスターは生前に作られたものを含めて何点か見ているが、いずれもルオーの絵画や版画作品の複製であった。今回のものはオフセット印刷とは言え、ルオーのオリジナルデザインであり、ひょっとすると唯一のものであるかもしれない。

●作家:Georges Rouault(1871-1958)
●種類:Poster
●サイズ:100x70cm
●技法:Offset+lithograph
●印刷:J.C. Müller AG, Zürich
●発行:Kunsthaus Zürich
●制作年:1948

ポスターのイメージを用いた展覧会の図録も作られている。
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図版:展覧会の図録:「GEORGES ROUAULT」(April-June 1948) Texts by M. Morel, R. Wehrli, W. Wartmann. 55, (9)pp., 24 plates. Published by Kunsthaus Zürich, 1948.

註:

1.
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図版:ポスターのもとになったルオーのリトグラフ『自画像(Autoportrait)』1926年制作。ルオーはリトグラフによる自画像を三点描いており、『回想録』所収のもの(Autoportrait I)と同じ年に刊行されたジョルジュ・シャランソルの『ジョルジュ・ルオー、人と作品(Georges Rouault, l'homme et l'œuvre)』(Éditions des Quatre Chemins, Paris, 1926)の豪華版に付けられたもの(Autoportrait II)との混同を避けるために、便宜的にローマ数字が打たれている場合がある。

参考文献:

フランソワ・シャポン、イザベル・ルオー[柳宗玄、高野禎子訳]『ルオー全版画]岩波書店、1979年
気谷誠、増子美穂『ジョルジュ・ルオー 悪の華/回想録』展図録。松下電工汐留ミュージアム、東京、2005年
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by galleria-iska | 2015-01-21 21:22 | ポスター/メイラー | Comments(0)


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