ガレリア・イスカ通信

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2015年 03月 03日

ニキ・ド・サンファルの招待状「Hanover Gallery London」(1968)

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今日は桃の節句とやらで、女子のお祭りである。ちらし寿司は荷が重いので、ケーキのひとつでも買って帰ろうかと思い、近くのケーキ屋に寄ったのだが、大変な事態が待ち受けていた。うら若き女店員の「列にお並び下さい」という言葉に促され、順番が来るのを待つことにしたのだが、それにしてもすごい混みようで、この国の食欲と経済は女性によって支えられていることを改めて実感した次第。

閑話休題、もうかれこれ一年近くも展覧会なるものに出掛けていないので、何か面白い企画が予定されていないかと展覧会情報を検索していたら、今秋、9月18日から12月14日にかけて、東京・六本木の国立新美術館でニキ・ド・サンファル(Niki de Saint Phalle, 1930-2002)の回顧展が開催されるとの案内が目に入った。日本国内で再評価の動きがあったのだろうかと思ったが、どうもそうではなく、パリのグランパレ(Grand Palais, 9 September, 2014 - 2 February 2015)で開催され、現在はスペインはビルバオのグッゲンハイム美術館(Guggenheim Museum Bilbao, 27 February - 11 June 2015)に巡回している展覧会を日本に持ってくるらしい。むべなるかな。

以前、1964年にニキの初個展を開催したロンドンのハノーヴァー画廊(Hanover Gallery, Lodon, 1947-1973)が二度目の個展を開催した1968年に出版した、ニキの三冊目となるアーティストブック『Niki de Saint Phalle』を取り上げたことがあるが、最近、その個展の招待状を手に入れることが出来た。画像では判りずらいが、蛍光性のインクの発色が鮮やかである。それによると、会期は1968年10月2日から11月1日となっている。ニキの個展に続き、11月5日には共に行動していたスイス生まれの彫刻家ジャン・ティンゲリー(Jean Tinguely, 1925-1991)の個展(註1)のオープニングが予告されているのだが、ティンゲリーの年譜によると、この個展の会期は、1968年12月5日から1969年1月5日となっており、招待状とは一ヶ月のずれがある。恐らく誤植であろう。一方、ニキの方は、この後、あまり時を置かずしてデュッセルドルフにあるライラント・ヴェストファーレン地方・芸術協会(Kunstverein für die Rheinlande und Westfalen)でも個展(会期は1968年11月19日-1969年1月1日)を開いており、アーティストブック所収の“ハンドバックを持ってお出掛けするナナ”の図像を用いた告知用のポスターを制作している。

1968年といえば、学生たちの体制に対する異議申し立てが頂点を迎える年であるが、ニキは宗教やイデオロギーを背景とする社会制度に組み込まれた女性という社会的役割を、ここで取り上げたような“ナナ”という図像によって軽々と飛び越えて行った。つまり今日で云うところのジェンダーという認識の根幹にあたる部分を“ナナ”という図像(あるいは彫像)によって体現したということになるだろうか。

招待状は、ニキが1965年のパリのイオラス画廊(Galerie Alexander Iolas, Paris)で披露した“ナナ(Nanas)”をモチーフにデザインされており、ニキはそのナナに、漫画の吹き出し使って、オープニングの案内《Come and see the Nanas of Niki de Saint Phalle at the Hanover Gallery on October 2nd at 3 p.m.》を語らせている。それを補うように外からの声で《Open unitl 1st November』とある。水着(?)姿のナナが軽やかに飛び跳ねる姿を描いたこの図像は、この個展より半年ほど前の5月18日から7月6日かけて、ハノーヴァー画廊を設立したエリカ・ブラウゼン(Erica Brausen, 1908-1992)が1961年にギンペル兄弟(Gimpel fils)とともにチューリッヒに開いたギンペル・ハノーヴァー画廊(Gimpel & Hanover Galerie, Zurich)(註2)での個展「Niki de Saint Phalle」の招待状に使われたものであり、その後もポスターや版画に繰り返して使われていくこととなる。

1960年代、ポップアートのウォーホルやリキテンスタインを初めとする多くの現代美術の作家たちは、個展のプロモーションのために、自ら招待状やポスター、図録のデザインを行なっているが、ニキも1965年のパリのイオラス画廊での個展の際に、イオラスの提案を取り入れ、個展の招待状やポスターのデザインや、自身の文章を用いたアーティストブックの制作に関わり、その姿勢はその後も継続されていく。

招待状の印刷はアーティストブック『Niki de Saint Phalle』の印刷を手掛けたミラノのセルジオ・トシ(Sergio Tosi, Milan)が行なっているものと思われる。ミラノに印刷所を持つセルジオ・トシは、1960年代後半からパリのイオラス画廊やロンドンのハノーヴァー画廊の図録の印刷を請け負う傍ら、自らも出版人となり、現代美術に関する図録や挿絵本などの出版を手掛けている。代表的なものとしては、アンドレ・ブルトン、ポール・エリュアール、ローズ・セラヴィ(=マルセル・デュシャン)の文章にマン・レイの13点の挿絵を添えた『Les treize cliché vierges』(1968年)(註3)やティンゲリーの16点組のポートフォリオ『La Vittoria Beaux-Arts』(1970年)が挙げられる。

●作家:Niki de Saint Phalle(1930-2002)
●種類:Invitation
●サイズ:167x129mm
●技法:Silkscreen
●印刷:Sergio Tosi, Mikan
●発行:Hanover Gallery, London
●制作年:1968

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図版:チューリッヒにあるギンペル・ハノーヴァー画廊(Gimpel & Hanover Galerie, Zurich, 1963-1983)で同じ年の5月18日から7月6日にかけれ行われたニキの個展「Niki de Saint Phalle」の招待状。このイメージをそのまま使ったポスターも制作されている。

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●作家:Niki de Saint Phalle(1930-2002)
●種類:Artist's book
●題名:Nki de Saint Phalle
●サイズ:208x165mm
●技法:Silkscreen
●発行:Hanover Gallery, London
●印刷:Sergio Tosi, Milan
●制作年:1968
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註:

1.ティンゲリーも自身の個展に際し、ニキと同じようにアーティストブックを制作している。このアーティストブックについては別の機会に取り上げるつもりである。
2.ティンゲリーは1966年にこの画廊で最初の個展を開いている。
3.クリシェ・ヴィエルジェはマン・レイがクリシェ・ヴェール(ガラス版画)の音に似せて作った一種の言葉遊びかもしれない。
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by galleria-iska | 2015-03-03 21:36 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)


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