2015年 05月 06日
ここ一週間ばかり良い天気が続いた。とりわけ昨日は五月晴れの清々しい一日となった。何処にも出掛ける予定が無かったので、ケースにしまいっぱなしのポスターや版画の点検と虫干し(?)をした。その中の一点がパウル・ヴンダーリッヒ(Paul Wunderlich, 1927-2010)のリトグラフ「No Angel」である。この作品はヴンダーリッヒの妻である写真家のカリン・シェケシー(Karin Székessy, 1938-)が1968年にヴンダーリッヒのアトリエで撮影した「No Angel」という同名の写真をもとに制作された作品で、ヴンダーリッヒは「Jutta im Atelier」という大きな油彩画(註1)も同時に描いているが、リトグラフの方がずっと出来栄えが良いように思う。版元はパリのベルクグリューン画廊(Galerie Berggruen, Paris)なのだが、この画廊が定期的に発行していた通信販売用の目録(Maitres graveurs contemporains)の1968年度版(ヴンダーリッヒが表紙絵を手掛けている)と次ぎの1970年度版を見たが、どちらにも掲載されていなかった。裏を返せば、目録に載せる間も無く売り切れてしまったということかもしれないが。 この作品を知ったのは1980年代の初めで、出版されてから既に12年余経っていた。その頃は版画は手が届かないものだと決めてかかっていたのだが、季刊『版画藝術』誌に載せられた東京のギャルリー・イシロの広告を見て、珍しく手に入れたいと思った。価格は25万円ぐらいだったように思う。無理をすれば買えなくもないと思いつつも、月々の収入が14,5万の身では、なかなか踏ん切りが付かなかった。今手元にあるのは、それから20年以上経ってから入手したもの。版画作品だけでも優に千点を超えるヴンダーリッヒであるが、ピカソやウォーホルのような、20世紀の美術史に組み込まれ、普遍的価値を獲得した作家とは異なり、作家と画廊と顧客(蒐集家)によって築かれた三角形の絶対評価の構図が崩れ、その他大勢の作家と共に、相対評価の荒波に揉まれていた。しかし悪いことばかりではない。それまでなかなか手に入らなかった作品がぽつぽつとヨーロッパのパブリック・オークションに出始めたのである。そしてある日、「No Angel」もオークションの評価を反映した価格で目の前に現われた。それで一もニもなく購入したという次第。ところが最近、購入時の三倍ぐらいの値が付いているのだから、不思議なものである。と言って喜んでばかりもいられない。そういった時代と共に有り、顧客層が固定化している作家は、世代交代というか、作品が循環せずに次第に忘れ去られていく危険性を常に孕んでいる。才能の違いと言ってしまえばそれ迄だが、インターネットが当たり前になった今こそ、蒐集家でもない自分が言うのも変だが、従来の文学的な解釈を拠り所とする受容とは異なる視点を持つ蒐集家の出現とその発信者としての資質が求められるのかもしれない。 ●作家:Paul Wunderlich(1927-2010) ●種類:Print ●題名:No Angel ●技法:Lithograph in five colors ●サイズ:500x658mm(752x556mm) ●紙質:Rives ●限定:75 + 9 e.a. + 7 e.e. ●発行:Galerie Berggruen, Paris ●印刷:Desjobert, Paris ●制作年:11.10,1968 註: 1.この作品は、1980年に池袋の西武美術館で行なわれた、ヴンダーリッヒが1960年から70年代にかけて制作した油彩画27点、水彩画10点、クレヨン画1点、リトグラフ45点、彫刻10点からなる「ヴンダーリッヒ展‐夢とエロスの錬金術」に出品され、図録の表紙にも使われている。
by galleria-iska
| 2015-05-06 13:23
| 版画関係
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