2015年 10月 20日
キース・へリング(Keith Haring, 1958-1991)が1985年にニューヨークにポップ・ショップを開くにあたって制作したオリジナル・ドローイング20点からなる塗り絵本(Coloring book)を五年前に取り上げたことがあるが、初版と第二版の区別が付かないでいた。今回、その証拠となるものを見つけることが出来たので、再度取り上げることにした。それによると、初版はヘリングの私家版として作られたもので、表紙には版上の署名の他、手書きによる年記とヘリングの著作権が記されているが、出版データが何も記載されていない。一方、ヘリングがポップ・ショップを始めた1986年に出版された第二版は、近現代の美術やデザインを対象とするオランダのアムステルダム市立美術館(Stedelijk Museum Amsterdam)で個展を開いた際に、オランダの出版社(De Harmonie Amsterdam)から正規の出版物として出版されたもので、初版と第二版は同じフォーマットで作られているので、表表紙を見ただけでは区別が付かないが、第二版には裏表紙の左下に《© Keith Haring 1986. Published by De Harmonie Amsterdam, in arrangement with Keith Haring. ISBN 90 6169 303 9》との記載があることが判った。 この塗り絵本は本来、マルティプルとして捉えられるべきものであるが、近年、リトグラフで印刷された版画集として見る向きもあり、そのような認識が広まれば、さらなる評価を得るのではなかろうか。と言うのも、収録されているイラストレーションはそれぞれ単独のドローイングとしてオークションに掛けられれば、軽く一万ドルを超える値で落札されるような質の高いものばかりであるからだ。塗り絵本自体も、署名が施されたものの中には数千ドルの値を付けるものも現れてきている。この塗り絵本も他のグッズと同様、ヘリングの思想を反映しつつも、手に取りやすいように目的を持たせたグッズとして低価格で販売され、庶民にも気軽にアートを楽しんでもらうことを目的に作られているのだが、それらはその一義的な意味において、使用あるいは消費され、多くのものが失われていく運命にあることも確かだ。それ故、いわゆる蒐集家と云われる人種や美術館などは手を出さなかったのである。ただ、時を経て、その希少性が高まるとともに、一義的な意味が剥がれ、ヘリングの本来の意図が立ち現れてくることとなった。結果として、それらは庶民の手から離れ、それが本来あるべき場所に還っていくことになるのだが、ヘリングは遥か以前にそのことを予期していたのではないだろうか。 ●作家:Keith Haring(1958-1991) ●種類:Coloring book ●サイズ:305x305mm ●技法:Lithograph ●発行:Keith Haring for Pop Shop ●制作年:1985
by galleria-iska
| 2015-10-20 18:19
| キース・へリング関係
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