ガレリア・イスカ通信

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2015年 11月 27日

ベルナール・ビュッフェの招待状「Paysages」(1983)

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前回に続き、今回も、21世紀を目前に控えた1999年に自ら命を絶ったフランス20世紀の画家ベルナール・ビュッフェ(Bernard Buffet, 1928-1999)の招待状を取り上げる。この招待状は、ビュッフェが1983年に、専属画廊であったパリのモーリス・ガルニエ画廊(Galeire Maurice Garnier, Paris)で風景を主題とする作品展「Paysages」を行なった際に、ヴェルニサージュ用にデザインしたもの。表紙はビュッフェのオリジナル・リトグラフ。別刷りで、署名と限定番号が付された版画作品が存在する。制作はビュッフェのリトグラフを手掛けるパリのムルロー工房(Mourlot Imp., Paris)。

ビュッフェは第二次大戦後の混乱期にある1940年代のパリで、人間存在の不条理や孤独感を見事に表現した初期のモノトーンの作品によって高い評価を得るが、アンフォルメル(アメリカの抽象表現主義に相当)と呼ばれる、即興的な筆の運びや厚塗りの画面によって自己表現を行なう表現主義的な抽象絵画が美術界を席巻する1950年代に、似非表現主義者との烙印を押され、フランス国内のことであろうか、美術館などの公的な施設から撤去され、絶頂から一気に奈落の底に突き落とされてしまう。我々のよく知るところの、ビュッフェを特徴付ける神経質で鋭い描線もアンフォルメルの空気の中で生まれ出たものかもしれないが、評論家の目には生温いものに見えてしまったのだろうか。

具象絵画やシュルレアリスムスの画家たちにも少なからず影響を及ぼしたフランスのアンフォルメルの運動はヌーヴォー・レアリスムに、アメリカの抽象表現主義は、ネオダダと呼ばれる、マルセル・デュシャンの影響を受け、廃物や既製品、大衆的な図版を取り込んだ反芸術的な作品へ変化し、その後、大量生産・大量消費社会そのものをテーマとするポップ・アートに取って替わられる。このような状況下にあって、ビュッフェもその画面に大衆的な要素(漫画)を取り入れた作品を作っているが、さほど大きな反響を得られたようには思えない。偉大な20世紀の画家ピカソは様々に画風を変化させながらピカソであり続けたのだが、ビュッフェはビュッフェであり続けながらも、その時々の美術運動に呼応するかのように、その画面に変化を与えているのだが、ビュッフェという固有名詞、あるいは確立されたひとつのブランド(作品の持つ悲劇性や誇張された表現)に囚われ、ビュッフェのそのような取り組みを見過ごしてしまっているのかもしれない。

このリトグラフを見る限り、かつての鋭い描線は影を潜め、如何にも塗り絵的な表現(註1)に陥っているが、それは具象絵画という頚木から離れられないビュッフェの、熟達と洗練の果てに辿り着いた姿なのか、緊張感に欠ける画面の白々しさは戦後の具象絵画のある種の終焉を象徴しているかのようにも見える。この時期(1970年代後半から1980年代の中頃までの約10年間になるのだが)、現代美術は行き過ぎた難解さや抽象化の反動から、描くことの復権とも言える表現主義風の衣を纏ったニューペインティング(新表現主義)が台頭するのだが、そんな中、ビュッフェの提示した明るくフラットな色彩と単純化されたフォルムは逆に、現代美術によって希求された平面性を打ち出してしているように見えるのだが。

ビュッフェは、自らがビュッフェであることを否定せず、ビュッフェ以下にも、ビュッフェ以上になることもなく、ひたすらビュッフェである中で、様々な実験を繰り返していたのだが、日頃我々が目にするのは、画商や業者によって恣意的に作り上げられた、ブランドとしてのビュッフェであって、それをしてビュッフェの全体像と思っているのかもしれない。虚像としてビュッフェと実像としてのビュッフェの乖離。そこにビュッフェという画家の幸福と悲劇があるように思える。そのビュッフェの才能に全幅の信頼を寄せ、画家としての活動の初期から晩年に至るまで、公私に渡って支え続けたのが、モウリス・ガルニエという画商である。

●作家:Bernard Buffe(1928-1999)
●種類:Invtation
●サイズ:105x211mm(105x422mm)
●技法:Lithograph
●紙質:Arches
●限定:4000
●発行:Galerie Maurice Garnier, Paris
●制作年:1983
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註:

1.このリトグラフを見ているうちに、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol, 1928-1987)が1962年から63年にかけて塗り絵をテーマに制作した一連の作品"Do it Yourselfs"が脳裏に浮かんだ。画像はそのうちの一点「Do it Yourself(Seascape)」である。ウォーホルはこの連作で、静物や花、風景といった、アメリカ人なら一度は目にするであろう、前衛とは対極にある、日常的で、新鮮味のない、ごくありふれた絵画を塗り絵に仕立て、色付けの過程そのものを作品化しているのだが、絵画を何の変哲もない記号とか単なる図式に置き換えることで、絵画を高尚なものから低次のものと等価な存在へと引きずり降ろし、権威に対する盲目的服従に異議を唱えている。その一方で、無限に反復し増殖可能なウォーホルの絵画の本質を示しているとも言える。
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                        Andy Warhol "Do it Yourself(Seascape)"1963

参考文献:
Andy warhol: A Retrospective, The Museum of Modern Art, New York, 1989.
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by galleria-iska | 2015-11-27 11:36 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)


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