ガレリア・イスカ通信

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2015年 12月 14日

ナム・ジュン・パイクのポスター「14th International TV Symposium」(1985)

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1985年6月6日から12日にかけてスイスのモントルーで開かれた第14回モントルー国際テレビジョン・シンポジウム(14th International Television Symposium, Montreux, Switzerland))の広報用のポスターを、テレビ受像機を何台も組み合わせたインスタレーションやビデオ・アートの開拓者として知られる韓国系アメリカ人の現代美術家ナム・ジュン・パイク(Nam June Paik, 1932-2006)がデザインしている。個人的には、モントルーと聞いて思い出すのは、ジャン・ティンゲリー(1982年)、キース・へリング(1983年)、ニキ・ド・サンファル(1984年)、ウォーホル(ヘリングとの共作、1986年)といった国際的に活躍する現代美術作家や、ミルトン・グレイザー(1976年)や福田繁雄(1985年)のようなグラフィック・デザイナー、変わったところではマルチ・ミュージシャンのデビィッド・ボウイ(1995年)やロックバンドのドラマー、フィル・コリンズ(1998年)にもデザインが依頼される公式ポスターが話題となるモントルー・ジャズ・フェスティバル(Montreux Jazz Festival)なのであるが、同じモントルーで毎年開かれる、新しいテレビ技術やその汎用性について討論するモントルー国際テレビジョン・シンポジウムは、技術者や開発者でもない人間には縁もゆかりもなく、間違ってもテレビとアートとの関わりというテーマで討論が行なわれることはないと思われるのだが、フルクサスの有り方が投影されていると考えるならば、パイクのデザインによるポスターというのも至極的を得ているのかもしれない。と言うのは、“流れる、変化する”という意味を持つラテン語からきているフルクサスは、第一次世界大戦後の虚無感のなから生まれた、既成の秩序や常識を打ち破るダダイズムの芸術思想の流れを汲むネオダダとも通底しており、日常的なものを芸術の場に持ち込むことで伝統や権威を打ち壊し、逆に日常世界に芸術的なものを持ち込む(キース・ヘリングのポップ・ショップもそのような手法を用いたものであると考えられる)ことで、そこに価値の反転という衝撃を生み出す反芸術的な前衛芸術運動であるからである。

フルクサスは、この運動を主導したジョージ・マチューナスが1962年9月に西ドイツのヴィースバーデン市立美術館で「第一回フルクサス国際現代音楽祭」を企画したのがその始まりとされているが、西ドイツで音楽史と作曲を学び、音楽的パフォーマンスを行なっていたパイクもその出演者のひとりであった。パイクは、1959年に『Electoronic TV Dé-coll/age』を制作し、1963年にはニューヨーク市のスモーリン画廊(Smolin Galery, New York)で、6台のテレビ受像機を使ってテレビ画像をゆがめる実験的作品『6TV Dé-collage』を発表し、ヴィデオ・アートとインスタレーションのパイオニアとなったヴォルフ・フォステル(Wolf Vostell, 1932-1998) と同様、1963年、ドイツの建築家で画廊主のロルフ・イェーリング(Rolf Jährling, 1913-1991)が1949年にヴッパータールに開いたパルナス画廊(Galerie Parnass, Wuppertal)で、最初の個展『音楽の展覧会-エレクトロニック・テレビジョン(Exposition of Music - Electronic Television)』を開催。画像を歪めたり白黒反転させたりした13台のテレビ受像機によるインスタレーションを展示しており、このパイクのテレビ受像機を使った立体表現とビデオ・アートとの融合、つまり、テクノロジーとエレクトロニックメディアによる機械の人間化を目指す方向性は、シュルレアリスムの諧謔の精神を受け継いでいるかのようでもあり、美術界に与えた衝撃は大きい。

このポスターの制作を依頼されたのは、ベルンにシルクスクリーンの工房を持ち、クンストハレ・ベルン(Kunsthalle Bern)やクンストハレ・チューリッヒ(Kunsthalle Zürich)といった展示企画を専門とする美術館にシルクスリーンによる良質な告知用ポスターを供給しているアルビン・ウルドリー(現在の社名はSerigraphie Uldry AG)で、ウルドリーはまた先に挙げたモントルー・ジャズフェスティバルの公式ポスターを初めとする音楽、演劇といった催し物から観光や国際会議のようなものまで、多種多様な要望に応えていることから、このナム・ジュン・パイクのオリジナル・デザインのポスターが実現したのも、この工房の力によるところが大きいように思われる。

このポスターは今から30年前に制作されたものなので、イメージとなるテレビ画面はブラウン管のそれであり、今ではある種の郷愁を感じさせなくもない。画像では灰色に見えているポスターの地の部分は、1970年代であれば銀色のアルミ箔を用いているのかもしれないが、このポスターでは、銀色のインクを使ってメタリックな表情を与えている。

●作家:Nam June Paik, (白南準1932-2006)
●種類:Poster
●サイズ:1000x700mm
●技法:Silkscreen
●発行:MTO Swizerland,
●印刷:Albin Uldry, Bern
●制作年:1985
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by galleria-iska | 2015-12-14 22:24 | ポスター/メイラー | Comments(0)


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