ガレリア・イスカ通信

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2016年 01月 31日

ベルナール・ビュッフェの年賀状「Galerie Sagot de Garrec」(1970)

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前回、レンブラントの銅版画の作品を取り上げた際、ドライポイントの刷りの特徴である滲みについて触れたので、今回はその例となる作品を取り上げてみる。我が国の作家で思い出されるのは、個人的には、多種多芸の芸術家であった故池田満寿夫(Masuo Ikeda, 1934-1997)の初期の作品やドライポイントによる銅版画制作に固執し続ける名古屋市出身の版画家、吉岡宏昭(Hiroaki Yoshioka, 1942-)氏であるが、残念ながら、手元に例証となる作品を持ち合わせていないので、フランスの画家兼版画家ベルナール・ビュッフェ(Bernard Buffet, 1928-1999)」の小品で代用する。

この作品「サン=ジェルマン=デ=プレ教会(Église Saint-Germain-des-Prés)」は、ベルナール・ビュッフェ(Bernard Buffet, 1928-1999)が1970年に、版画の彩色家から書店経営を経て版画商に転じた父ヴィクトール・プルーテ(Victor Prouté,1854-1918)の意志を継ぎ、1920年からパリ6区のセーヌ通りに画廊(Paul Prouté, S.A./Galerie d'art Paul Prouté, Paris)を構えるポール・プルーテ(Paul Prouté, 1887-1981)と並び称される、1881年創業の版画・素描専門の画廊で版元のサゴ=ルガレック(Galerie Sagot-Le Garrec, Paris)の1971年用の年賀状として制作した作品で、バー(burr)と呼ばれる“まくれ”によるインクの滲みが良く出ている。承知の通り、ドライポイントは直刻法による凹版画のひとつで、比較的柔らかい金属である銅やアルミニウムの板を使い、それより硬い鋼鉄製のニードルや刃物で、直接版面にイメージを刻み込む技法である。そうやって出来た版には、刻まれた刻線の両側に“まくれ”ができ、この“まくれ”の裏側に付いたインクが紙に刷り取られる際に出来る滲みが、画面に豊かな表情を与えるのである。この滲みを好んで用いたのが、かのレンブラントであり、ビュッフェであったのである。年賀状となったのは第二段階(2nd state)もので、600枚(うち500枚がサゴ=ルガレックの年賀状)が1929年創業のパリの銅版画工房ラクリエール・エ・フレロー(Atelier Lacourière et Frélaut, Paris)で印刷されているのだが、メッキが施されているためか、“まくれ”が磨耗せずに残っている。第一段階の刷りは僅かで、現物は目にしたことはないが、美術史家でアカデミー・フランセーズの会員であったモーリス・ランス(Maurice Rheims,1910-2003)編纂の銅版画目録に掲載されている図版ものではないかと思われる。比べて見ると、第二段階では消えている(消されている?)滲みが幾つか見られる。

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描かれているのは、パリ6区のサン・ジェルマン・デ・プレ地区に建つ、パリ最古のロマネスク様式の教会、サン=ジェルマン=デ=プレ教会(Église Saint-Germain-des-Prés)である。ビュッフェはロマネスク様式の教会が好きだったようで、この教会だけで三度も版画に描いている。最初の作品は、1962年に刊行されたリトグラフ版画集『アルバム・パリ(ALBUM PARIS : PORTFOLIO DE DIX LITHOGRAPHIES)』(C.S.31-40)(註1)所収の「サン=ジェルマン=デ=プレ(Saint-Germain-des-Prés)」、次は1965年制作のリトグラフ「サン=ジェルマン=デ=プレ広場(Place Saint-Germain-des-Prés)」(C.S.65)、そして三番目の作品となるのがこの「サン=ジェルマン=デ=プレ教会」である。三作品とも教会を同じ角度から描いているのだが、年度が下がるにつれ、視点が教会に近づいていっている。

●作家:Bernard Buffet(1928-1999)
●種類:Greeting card(Carte de vœux)
●題名:Église Saint-Germain-des-Prés
●フォーマット:255x200mm(255x400mm)、プレートマーク:215x169mm
●技法:Dry point(Pointe sèche)
●限定:500(+100 without text)
●紙質:B.F.K. Rives
●発行:Galerie Sagot-Le Garrec, Paris
●印刷:Atelier Lacourière et Frélaut, Paris
●制作年:1970
●目録番号:R.72
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参考文献:

Bernard Buffet graveur 1948-1980(Catalogue raisonné de l'oeuvre gravé). Maurice Rheims, Éditions d'Art de Francony, Nice / Éditions Maurice Garnier, Paris, 1983. 1958年から1980年までのビュッフェのドライポイント作品367点を収録しており、当該作品の目録番号は72(R.72)である。

Bernard Buffet : Lithographe(1952-1979), Charles Sorlier, Michele Trinckvel-Draeger, Paris, 1979. ビュッフェが1952年から1979年にかけて制作した325点のリトグラフを収録している。

註:

1.アルバム・パリ:ALBUM PARIS : PORTFOLIO DE DIX LITHOGRAPHIES. Poèmes de Charles
Baudelaire. A. Mazo éditeur, Paris 1962. (Ile Saint Louis, Place des Vosges,
Point du Jour, Porte Saint Martin, St Germain des Prés, Tour Eiffel, Pont
des Arts, Sacré Coeur, Pont de la Concorde, Arc de Triomphe).目録番号:Charkes Sorlier (C.S.)31 à 40.
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by galleria-iska | 2016-01-31 15:28 | その他 | Comments(0)


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