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ガレリア・イスカ通信

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2016年 02月 02日

デイヴィッド・ホックニーのポスター競売カタログ「Christie's:Hockney posters」(1999)

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イギリス現代美術の作家デイヴィッド・ホックニー(David Hockney, 1937-)のポスターは、これまで何点か取り上げてきたが、これはというもの-画像だけでも残して置けたらよかったと思うが-は人様に譲ってしまったため、なんだこんなものしか持っていないのかと思われる人も多いであろう。しかしながら、自分はコレクターではないので、ポスターでも版画でも暫くの間手元に置いて楽しめれば良しとしており、棺桶まで持って行こうなどとは思わないし、仮に残して置いても遺族から厄介物扱いされ、二束三文で業者に引き取られ、否、むしり取られていくのが見えている。それに版画ならまだしも、ポスターについては、日本の公立美術館に寄贈を願い出ても断られるのが関の山である。愛着と執着は別物であるが故、自分で美術館を造ることが出来る人間はさて置き、高値が付く時に希望する方に譲ってしまうのが得策であると考える。何か記録として残したいと思うならば、コレクション・カタログの自費出版も可能であるが、今はブログという便利な記憶装置があるので、画像や作品データも残して置けるし、万が一、誰かの作品購入の参考にでもなれば、人助けにもなる。何の劣化も心配ない電脳空間の片隅に、それを必要とする人が現れるまで、図書館の書庫がごとくしまわれていくのである。さすれば自分のコレクションの行く末を案ずる必要もない。

日本でもホックニーのポスターが人気を集めた1980年代後半、絵画や版画を持つ余裕のないひとりのイギリス人が世界中から集めたホックニーのポスター・コレクションが注目を浴びることとなった。イギリス航空(British Airway)の社員であったブライアン・バゴット(Brian Baggott)なる人物は、1960年代の終わり頃にホックニーと出会い、1970年代初頭からホックニーのポスターを集め始めた。その方法について彼自身は次のように書いている:

I wrote to every gallery ever mentioned in the back of a Hockney catalogue to see if they'd done a poster.


この方法は自分もやっており、今では考えられないことだが、まさかと思うような昔に出版された版画やポスター、美術書が売れ残ったまま画廊の倉庫に眠っていたとが何度もあって、しかも出た当時の値段で購入できたのである。それらは日本の物価と比べあまりに安かったので、今のうちに購入しておけば、招来高くなるに違いないから、それらで食い扶持を稼げるのではないかと甘い期待を抱いたのだが、長びく不況で、夢と消えてしまった。

話を戻そう。航空会社に勤務していたことが幸いし、バゴットは安い料金で世界各地にポスターを見に出掛けて行くことが出来た。そうして集めたポスターは、1963年から1986年までに制作されたポスター、全128点で、その多くが無料(!)であった。その展覧会が1987年、ロサンゼルス郡立美術館(Los Angeles County Museum of Art, Los Angeles)から始まり、最終地のロンドンのテイト・ギャラリー(Tate Gallery, London)へと巡回、図録兼目録(カタログ・レゾネ)として「Hockney Posters」がロンドンのパビリヨン・ブックス(Pavilion Books Ltd.)から刊行された。1994年にはその続編として、1962年以降に制作された200点余りのポスターの図版目録とともに、1987年から1994年までのポスター38点を収録した「Off the Wall, A collection of David Hockney's posters」が同社から刊行された。純粋のオリジナル・デザインのポスターが少ないホックニーのポスター制作について、「Hockney Posters」の序文を執筆したエリック・シャーンズ(Erik Shanes)は次のように書いている:

Hockney’s output as an original poster maker has been a comparatively small one...his willingness to contri-
bute, either directly (in the case of added lettering) or indirectly (as with the allowing of the use of his images
by others) to the creation of posters of his works, has meant that a by-no-means insignificant body of designs has come into being. And these designs, by making the reproduction of works of art a controlled process, have often elevated such reproduction onto a new plane, making us more, rather than less, conscious of the inherent visual qualities of the original pictures they reproduce


そのバゴットのポスター・コレクション全206点が1999年3月25日、ロンドンの競売会社クリスティーズ・サウス・ケンシントン(Christie's South Kensington, London)で競売(Sale no.8332)に掛けられた。これはその競売カタログである。表紙は、ホックニーが40ページに渡るアート・ワークを手掛けた1985年のフランス版ヴォーグの12月号『Vogue Paris par David Hockney』(Décembre 1985/Janvier 1986)の表紙デザインを模したものとなっている。この競売カタログを受け取った時、ようやく現代美術のポスターも美術品のひとつとして認知されるようななったのか、と感慨深かった。

●作家:David Hockney(1937-)
●種類:Auction catalogue
●題名:Christie's South Kensington:Hockney posters
●サイズ:267x210mm
●技法:Offset
●発行:Christie's, London
●制作年:1990
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As Eric Shanes writes in his foreword to the 1987 ‘Hockney Posters’ book, although ‘Hockney’s output as an original poster maker has been a comparatively small one...his willingness to contribute, either directly (in the case of added lettering) or indirectly (as with the allowing of the use of his images by others) to the creation of posters of his works, has meant that a by-no-means insignificant body of designs has come into being. And these designs, by making the reproduction of works of art a controlled process, have often elevated such reproduction onto a new plane, making us more, rather than less, conscious of the inherent visual qualities of the original pictures they reproduce’.

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フランス版ヴォーグの1985年の12月号『Vogue Paris par David Hockney』(Décembre 1985/Janvier 1986) の表紙。キャンバスの側面には"for Brian David Hockney"の献辞が見える

by galleria-iska | 2016-02-02 13:51 | 図録類 | Comments(0)


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