ガレリア・イスカ通信

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2016年 03月 30日

ベアテ・ヴァッサーマンのポスター「Galerie Kammer」(1985)

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画家が自らの個展のためにデザインしたポスターは、それに対する思いが直裁に表現されているという点において、非常に興味深いものがある反面、逆にその個性が強すぎて、情報伝達の役割が二の次になってしまったものも少なくない。ところが、ある意味当然のことかもしれないのだが、ポスターデザインの専門家であるグラフィック・デザイナーやタイポ・グラファーが加わっていないものの方が後に作品的価値を認められる場合が多いのである。文字に対する信頼感が強い我が国では、ポスターの機能性を重視するあまり、画家の創造性を生かしきれていないものが多い。我々はイメージの持つ訴求力に惹かれ展覧会場に足を運ぶのであるが、時にその前提が抜け落ちてしまっているかのような錯覚を覚える。いつの間にか主客転倒してしまっているのだ。もちろんポスターとしての「型」や「枠」からどれくらい“逸脱”できるかは、画家の創造性やポスターに対する思いの深さによるのかもしれない。が、そのような姿勢を持つことが新しい視野をもたらし、また美術表現の概念を押し広げる原動力となるのである。ピカソであれ、ミロであれ、横尾であれ、はたまたホルスト・ヤンセンであれ、彼らは決まった「型」からの逸脱を恐れなかったからこそ、歴史に残り得るポスターを数多く作ることが出来たのである。何を恐れることがあろうか。“逸脱”、大いに結構ではないか。

さてこのポスターであるが、かつてパウル・ヴンダーリッヒ(Paul Wunderlich, 1927-2010)やホルスト・ヤンセン(Horst Janssen, 1929-1995)が籍を置いた州立ハンブルク美術学校を前身とする国立ハンブルク造形芸術大学(Hochschule für bildende Künste Hamburg) に学んだ、ハンブルク生まれの抽象画家ベアテ・ヴァッサーマン(Beate Wassermann, 1947-)が1985年に、契約画廊であるハンブルクのカマー画廊(Galerie Kammer, Hamburg)での個展の際に、告知用ポスターとしてデザインしたものである。このポスターを特徴付けているのは、その蝋引き紙(ワックス・ペーパー)の質感であろうか。ポスターの表面を見る限り、シルクスクリーンでポスターを印刷した後、蝋引き加工を施したものと思われるのだが、ポスターにこのような手法を用いたのは、これまで見たことがない。入手の切っ掛けとなったのは、同画廊で1981年行なわれたデイヴィッド・ホックニーの個展『デイヴィッド・ホックニー、デッサンと版画(David Hockney Zeichnungen Und Grafik)』のポスター(889x635mm)。購入しようと問い合わせたところ、値段が合わず、代わりに、リストに載っていた、このポスターとジム・ダイン(註1)、アレン・ジョーンズのポスターを購入することになったのである。カマー画廊は現代美術、とりわけポップ・アートとフルクサスを主に扱う画廊として1966年にハンブルクに設立され、ヨゼフ・ボイス(Joseph Beuys), ディーター・ロート(Dieter Roth), デイヴィッド・ホックニー(David Hockney,) ステファン・フォン・ヒューン(Stephan von Huene), アンディ・ウォーホル(Andy Warhol), ロバート・ラウシェンバーグ(Robert Rauschenberg)、アレン・ジョーンズ(Allen Jones) らの作品を、その活動の早い段階で紹介している。

実物は目にしたことがないが、同画廊がサイトに載せている作品の画像を見る限り、ヴァッサーマンの抽象絵画には、アンフォルメルや抽象表現主義的な身振りが見受けられるのだが、その女性特有の色彩感覚から生み出される画面は、あたかも色とりどりに咲く花の周りを軽やかに舞う蝶の視点を追うような感覚を覚える。それがこのポスターでは一転し、緋色の大きな塊は、暗赤色のヴェールに覆われ、静けさの中へとその身を染めていく。想像力が眠りから覚めるのを促すかのように。

●作家:Beate Wassermann(1947-)
●種類:Poster(Plakat)
●サイズ:100x70cm
●技法:Silkscreen(?)
●発行:Galerie (Renate) Kammer, Hamburg
●制作年:1985
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註:

1.1982年にカマー画廊で開催されたジム・ダイン(Jim Dine, 1935-)の個展の告知用ポスター:
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●作家名:Jim Dine(1935-)
●種類:Poster
●サイズ:971x650mm
●技法:Offset
●発行:Galerie Kammer, Hamburg
●制作年:1982
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見つけられることを避けるかのように画面上部中央に入れられたダインの版上の署名と年記。画面の見せ方(見え方)にも関係してくるのだろうが、ダインの署名に関する考え方は、他の現代美術の作家と同様、その版画作品に於いて顕著に現れる。
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by galleria-iska | 2016-03-30 18:25 | ポスター/メイラー | Comments(0)


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