ガレリア・イスカ通信

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2016年 05月 17日

アントニ・クラーべのポスター「École de Paris 1956」(1956)

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1802年に建てられた邸宅を収集家のジャン・シャルパンティエ(Jean Charpentier, 1891–1976)が画廊として利用し、1924年に19世紀前半に活動したフランスのロマン主義の画家テオドール・ジェリコー(Théodore Géricault, 1791-1824)の展覧会を開催したパリの老舗画廊シャルパンティエ(Galerie Charpentier, Paris)(註1)は、1941年、画廊の名前はそのままに新しいオーナーに代替わりし、1954年からは継続して“エコール・ド・パリ展”の企画を行なっている。これはその1956年の展覧会の告知用ポスターで、スペインはカタローニア地方のバルセロナ出身の画家アントニ・クラーべ(Antoni Clavé, 1913-2005)のグアッシュとコラージュ、それにモノプリントによる装飾的な文様を組み合わせたオリジナル作品をリトグラフに置き換えたもの。印刷はパリのムルロー工房(Mourlot Imprimeur, Paris)で行なわれている。このポスターには、通常のポスター用紙と版画用のアルシュ紙に刷られた二種類あるが、他に、限定200部で、アルシュ紙に刷られた文字無しのものがある。手元にあるのは、ポスター用紙に刷られたものだが、入手経緯には訳があって、当初、ヨーロッパのある画廊にアルシュ紙のものを注文したのだが、どうも在庫切れだったらしく、ポスター用紙の方を送ってきた。注文と違うので、返品を申し出ると、早急に交換するということで待っていたのだが、いつの間にかオーナーが代わり、結局そのままになってしまった。

クラーべは日本でも知名度の高い作家のひとりであるが、10代の終わりには既にポスター作家として活動し、評価も得ている。また映画館の装飾や舞台装置の仕事も手掛けており、それは1939年のフランス亡命後も継続されていく。1941年、モンパルナスのアトリエに居を構え、1943年頃から挿絵画家として数々の文芸作品の挿絵を手掛け、版画が重要な表現手段のひとつとなっていく。1944年にピカソと出会い、その影響を強く受けた王様、道化師、子供、静物を描き始め、前期の様式を確立する。1954年頃から、油彩やグアッシュにコラージュを併用した作品を描き始め、後期の様式である抽象的な作品への橋渡し的な役割を果たす。ポスターが制作された1956年に開催された第28回ヴェネツィア・ビエンナーレ(the 28th International Biennale of Art in Venice)で版画作品がユネスコ賞を受賞している。その翌年に開催された第一回東京国際版画ビエンナーレではブリジストン美術館賞を受賞し、それを機に日本での作品紹介が増えていく。このポスターは、初めからリトグラフとして制作されたものではなく、絵画作品と同じようにグアッシュにコラージュを併用した作品をもとにしており、クラーべの転換期の様式を知ることが出来るものとして興味深い。

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図版:Antoni Clavé "Le Peintre, 1957. Gouache and collage, 76x56cm. 

クラーべが1957年に制作した“画家”という題のグアッシュとコラージュによる絵画作品は、明らかにポスターの構図をもとにしており、画家の顔の正面には、ゴロワーズ(Gauloises)という手巻きタバコのパッケージをコラージュして創り出したパイプの煙で見え難くはなっているが、"PARIS"という文字も読み取れる。画家兼版画家(Peintre-graveur )の多くは絵画作品を元に版画を制作するのが定石のようになっているが、クラーべの場合は逆に、挿絵などにために制作したリトグラフを油彩やグアッシュのエスキースとして用いるケースがまま見られる。これは画家がタブロー作家として立つ前に、グラフィックアーティストやデザイナーとしてポスターや舞台装飾などの制約のある仕事に就いていたことと関係あるのかもしれないのだが、どこか画家としての横尾忠則氏の歩みと重なっていないでもない。

●作家:Antoni Clavé(1913-2005)
●種類:Poster
●サイズ:675x438mm
●技法:Lithograph
●発行:Galerie Charpentier, Paris
●印刷:Mourlot Imprimeur, Paris
●制作年:1956
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                     モノプリントによる装飾的な文様を使った袖の部分を拡大したもの
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                           画面右下に入れられたクラーべの版上サイン

その他の作家によるエコール・ド・パリ展のポスターで判明しているもの:
1954年:ベルナール・ロルジュ(Bernard Lorjou)620x400mm
1955年:ジャン=ミシェル・アトラン(Jean-Michel Atlan)640x440mm、限定400部
1960年:ジャック・ラグランジュ(Jacques Lagrannge)760x500mm
1961年:ピエール・ルシュール(Pierre Lesieur)737x520mm


註:

1.エリゼー宮の向かいに位置するシャルパンティエ画廊(76, rue du Faubourg Saint-Honoré, 75008 Paris)は1968年に閉廊するが、1980年代にピエール・カルダンがレストンランを構え、1988年からオークション・ハウスのサザビーズのパリ支店となっている。

参考文献:
Seghers, Pierre: Clavé, Tudor Publishing Company, New York, 1972
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by galleria-iska | 2016-05-17 22:45 | ポスター/メイラー | Comments(0)


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