人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ガレリア・イスカ通信

galleriska.exblog.jp
ブログトップ
2017年 06月 29日

ロバート・マザーウェルの展覧会図録「Robert Motherwell Collages」(1960)

ロバート・マザーウェルの展覧会図録「Robert Motherwell Collages」(1960)_a0155815_17342436.jpg

この図録は、アメリカの抽象表現主義の画家で版画家のロバート・マザーウェル(Robert Motherwell, 1915-1991)が1961年、パリのベルクグリューン画廊(Berggruen & Cie, Paris)で、1958年から1960年にかけて制作したコラージュ作品による個展を開催した際に、画廊の34番目の図録(Collection Berggruen No.34)として刊行されたもの。前回取り上げたパウル・クレーの図録と同様、新しいオーナーの下、2012年に出版活動を再開したパリのカイエ・ダール(Cahiers d'Art, Paris)の旧資料の一部である。綴じがタイトで図版等の撮影が出来ないのだが、名刷り師と謳われたダニエル・ジャコメ(Daniel Jacomet, 1894-1966)の工房(Ateliers de Daniel Jacomet, Paris, 1910~1965)で、明快で均一な色面を特徴とするポショワール(Pochoir=Stencil)の技法で刷られた図版は、時にシルクスクリーンと間違われることもあるが、機械刷りの複製とは異なる不思議な表情を見せてくれる。

ポショワールはアール・デコ時代に高級モード誌のファッション・プレートに好んで使われた技法であるが、工房は違うが、1947年に制作した挿絵本「Jazz」の印刷にステンシルを用いたアンリ・マチス(Henri Matisse, 1869-1954)の息子のひとりで、1931年にアメリカのニューヨーク市に画廊(Pierre Matisse Gallery, New York, 1931-1989)を開き、ヨーロッパの現代美術を紹介したピエール・マチス(Pierre Matisse, 1900-1989)が発行した展覧会図録の図版の印刷にもジャコメによる精度の高いポショワールが使われており、決して時代遅れの技法ではなかった。ただ、機械刷りが全盛になる中、熟練した高い技術と手間を必要とするこの技法は急速に廃れていったのである。

●作家:Robert Motherwell(1915-1991)
●種類:Catalogue(Collection Berggruen No.34)
●サイズ:220x116mm
●技法:Pochoir
●印刷:Ateliers de Daniel Jacomet, Paris
●発行:Berggruen & Cie, Paris
●制作年:1961
ロバート・マザーウェルの展覧会図録「Robert Motherwell Collages」(1960)_a0155815_17345670.jpg
ロバート・マザーウェルの版画作品の総目録(レゾネ):「The Painter and The Printer:Robert Motherwell's graphics 1943-1980」by Stephanie Terenzio, Dorothy C. Belknap, published by The American Federation of Arts, New York in1980
ロバート・マザーウェルの展覧会図録「Robert Motherwell Collages」(1960)_a0155815_17352568.jpg

ロバート・マザーウェルの展覧会図録「Robert Motherwell Collages」(1960)_a0155815_1736162.jpg
個展に合わせ、コラージュ作品のひとつ「Capriccio」を版画に仕立てにしたものが200部限定でベルクグリューン画廊から出版された。いわゆるエスタンプと呼ばれるものである。マザーウェルが本格的に版画制作を始めるのはこの年からで、1958年(~1971年)に結婚した同じく抽象表現主義の画家で版画家のヘレン・フランケンサーラー(Heren Frankenthaler, 1928-2011)の提案で、二人一緒にロシア系ユダヤ人の刷り師タチアナ・グロスマン(Tatyana Grosman, 1904-1982)が1957年に設立したリトグラフの版画工房(The Universal Limited Art Editions (ULAE), a lithographic workshop in West Islip, Long Island, New York)に通い、実はマザーウェルは1959年からグロスマンからの版画制作の誘いを受けていた、最初のリトグラフ「Poet I」と「Poet II」を制作している。フランケンサーラー自身も最初の版画作品「First Stone」を制作しているが、マザーウェルのモノトーンの重苦しい表情に対し、彼女の作品は伸びやかで、色彩も豊かに呼応している。

by galleria-iska | 2017-06-29 19:51 | 図録類 | Comments(0)


<< キース・ヘリングのTシャツ「P...      パウル・クレーの展覧会図録「L... >>