ガレリア・イスカ通信

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2017年 11月 22日

カリン・シェケシーのカラー写真「Nude」

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晩秋を向かえた今、洛陽が如く華やかに色付いた木々の葉は落ち、深い死の眠りにつく。そんな死と眠りの幻想(夢)をテーマとするような作品を取り上げてみようかと思う。お断りしておかなくてはいけないのは、被写界深度がそれほど深くない写真を解像力の低いコンパクト・デジカメで撮影しているので、ぼんやりした画像になってしまったことである。ドイツの写真家で、夫の画家で版画家のパウル・ヴンダーリッヒ(Paul Wunderlich, 1927-2010)に霊感を与え続けたカリン・シェケシー(Karin Székessy,1939-)によるヌード写真のひとつで、制作年は定かではないが、1970年代後半ではないかと思う。ヴンダーリッヒのアトリエを使って撮影されたこの写真、最初、椅子にもたれかかるモデルが、エデンの園に起源を持ついちじくの葉でその秘部を隠そうとする場面を意図したものかと思っていたのだが、その形状を良く観察してみると、いちじくの葉ではなく、プラタナスの葉であるらしいことが判かり、図像学的な意味を求めようとしていた目論見は砕かれた。だが、そこには、死の気配と官能とが入り混じる夢幻的とも言える空間を見出すことができるし、モデルの長く伸びた肢体はマニエリスムの絵画に見るような一種退廃した匂いを漂わせている。何故この作品に挽かれたのかと云うと、ルネサンスの偉大なる巨匠のひとり、ミケランジェロ(Michelangelo Buonarroti, 1475-1564)が、盛期ルネサンスの芸術家を援助したローマ教皇ユリウス2世の廟墓のために1513年に制作を始めた未完成の彫刻作品「瀕死の奴隷」の姿と重なって見えたからである。ミケランジェロの彫刻では、眠りの底ににある奴隷の姿とも、瀕死の奴隷が魂の解放を前に身悶えするような恍惚感に浸る姿との解釈もある、そのマニエリスムの萌芽と言われる裸体のフォルムが写真のモデルのポーズと記憶の中で結びついたからである。これは偶然の一致であろうか、それとも写真家がミケランジェロの彫刻から霊感を受けたのであろうか。死、あるいは眠りと結びついた恍惚と官能は、甘美な陶酔への危険な入り口。

この写真は、カリン・シェケシーの友人で写真家の伊藤美露(Miro Ito, 1959-)氏が編集を行ったヨーロッパ在住の8人の女性写真家によるヌード写真集「ヨーロッパ 官能のヴィジョン」(1995年)(註1)に所収されている。

●作家:Karin Székessy(1938-)
●種類:Color photograph
●題名:Nude
●サイズ:412x267mm(Format:509x 407mm)
●技法:Type-C print on Kodak professional paper.
●発行:Karin Székessy, Hamburg
●制作年:Late 1970s
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図版:ミケランジェロ(Michelangelo Buonarroti, 1475-1564)が1513年から1515年にかけて制作した彫刻「瀕死の奴隷(Dying Slave)」。高さ215cm


註:


1.写真家の伊藤美露(Miro Ito, 1959-)氏が編集を行った写真集「ヨーロッパ 官能のヴィジョン-欧州溌女流写真家8人による〈エロスの饗宴〉(European Vision of Sensuality by 8 Women Photographers)」の書影はこちら。
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by galleria-iska | 2017-11-22 18:56 | その他 | Comments(0)


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