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ガレリア・イスカ通信

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2017年 11月 28日

アンディ・ウォーホルのカバーアート「Rats & Star: Soul Vacation」(1983)

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商業デザインナーとしてのアンディ・ウォーホル(Andy Warhol, 1928-1987)の仕事の中で、レコードのカバーアートについては、民族音楽、クラシック、ジャズ、ロック, R&Bと広範囲に渡っており、プレポップ(1949年~1961年)の時代のみならず、ポップアーティストとして名を成した後も継続して依頼を引き受けているのだが、近年まで殆んど省みられることはなかった。その再評価に一役買っているのがインターネットであり、誰もが参加できるネットオークションという場の提供が、世界各地に点在する情報をもとにしたコレクションの形成を可能にしたのである。インターネットはまた、それまで個別にしか知られていなかった現代美術家によるカバーアートの存在に気付かせ、アートへの関心を複合的に高める働きを見せている。ウォーホルのカバーアートに関しても、こうした状況の中で新たな収集家を生み出しており、その成果(註1)が形となって現れたのが、2008年にカナダのケベック州にあるモントリオール美術館(The Montreal Museum of Fine Arts)で開催されたウォーホルがカバーアートを手掛けたレコードアルバムを含む展覧会「Warhol Live: Music and Dance in Andy Warho's Work」であり、その際、キュレーターで、カナダのモントリオールにあるケベック大学(The University of Quebec in Montreal)の教授、またウォーホルのポスターやイラストレーションの収集家としても知られるカナダ人のポール・マレシャル(Paul Maréchal)による総目録(Catalogue raisonné)「Andy Warhol: The Record Covers, 1949-1987」(註2)が刊行されたのである。それによってウォーホルの手掛けたカバーアート、特にウォーホル独特の“ブロッテド・ライン(滲み線)”を用いたプレポップの時代のものへの関心が一気に高まり、新たな発見も相次いだ結果、2015年には先の総目録の改訂版として原寸大のアルバムカバーを載せた「Andy Warhol: The Complete Commissioned Record Covers」(註3)が刊行された。因みにウォーホルの最初のカバーアートの仕事はピッツバーグにあるカーネギー工科大学の美術科を卒業しニューヨーク市に出た1949年の「Carlos Chávez: A Program of Mexican Music」である。

現在、以下のサイトでウォーホルがカバーアートを手掛けたものと、没後に彼の作品をカバーアートに用いたSP盤, LP盤, EP盤、全146点(Andy Warhol's record cover art)を解説付きで見ることが出来る:

https://rateyourmusic.com/list/rockdoc/andy_warhols_record_cover_art/6/

今回取り上げるのは、ウォーホルのカバーアートの中で唯一の日本人アーティストのアルバム「Rats & Star: Soul Vacation」(Epic/Sony 28・3H-100)である。1983年にウォーホルが撮影した写真を基にデザインされたもので、レコードカバーの裏表がひとつの連続したイメージとなっている点が特徴である。しかし現状では、海外と比べアート作品としてのカバーアートに関心を持つ収集家は少なく、単に中古レコードとして流通しているため、価格は数百円から千円前後と割安である。ウォーホルの版上サイン入りのプロモーション用ポスター(註4)も同時に作られているが、そちらは数千円といったところ。

●作家:Andy Warhol(1928-1987)
●種類:Cover art
●タイトル:Rats & Star: Soul Vacation
●レーベル:Epic/Sony(28・3H-100)
●サイズ:315x315mm
●技法:Offset
●発売元:Epic/Sony Records Inc., Tokyo
●制作年:1983
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註:

1.ウォーホルのレコードのカバーアートに関する展覧会としては、ウォーホルの生誕80年の2008年7月にスウェーデン北部のペーテオにあるピーテオ美術館(Piteå Museum)での65種類のカバーアートによる展覧会が最初のもの。その展覧会の2ヶ月後にモントリオール美術館でウォーホルと音楽とダンスに関する作品展「Warhol Live: Music and Dance in Andy Warho's Work」が行われたのである。更に2014年6月から2015年3月にかけて、ミシガン州のブルームフィールド・ヒルズにあるクランブルック美術館の現代美術とデザイン部門のキュレーター、ローラ・モット(Laura Mott)によって企画された展覧会「Warhol-designed album covers Warhol on Vinyl: The Record Covers, 1949 – 1987+」があるが、いずれの展覧会も個人収集家のコレクションが核となっている。このような身近にあったものがアートとして認識され、作家の芸術活動の一環として捉えられていくのも、芸術の複製化の時代にあっては、当然の成り行きと言えるのかもしれないが、その中でインターネットが収集家に新しい視野をもたらしたことは注目すべきである。エフェメラに関して言えば、既に様々な形で情報発信を行い、マン・レイに関する新しい知見をもたらしているマン・レイスト氏に倣い、単なる受容者である立場から、個人ならではの特色あるコレクションを形成し、その価値の発信者として行動に移る時なのかもしれない。実際、ネット上には既に数多くのコレクションが紹介されているが、それらは個々の点の集まりに過ぎず、それらを有機的に結び付けるためにネットワーク化する必要がある。そのためには先ず、私の知らないところで既に構築されているのかもしれないが、コレクションへのアクセスを容易にするダイレクトリーの作成が求められる。それによって新たな発見や知見がもたらされれば、さらに多くの理解者や収集家を生み出すサイクルが生まれることになるのではないだろうか。その先にはネット上の仮想美術館の創設というものがあるのかもしれない。
2.
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図版:Paul Maréchal: Andy Warhol: The Record Covers, 1949-1987, 2008, The Montreal Museum of Fine Arts/Prestel Verlag, 236 pages lists 50 album covers with over 100 illustrations. Hardback, 310x310mm.
3.
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図版:Paul Maréchal: Andy Warhol: The Complete Commissioned Record Covers, 2015, Prestel Verlag, 264 pages lists 106 album covers with 287 colour illustrations. Revised edition. Hardback 305x305mm.
4.
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図版:プロモーション用のポスター、サイズ:572x840mm、技法:オフセット、版上サイン入り、発行:株式会社Epicソニー、東京。
このポスターを共有するロンドンにあるテイト・ギャラリー(Tate Gallery, London)とスコットトランドのエディンバラにあるスコットランド国立美術館(National Galleries of Scotland)では、このポスターに次のような解説を付けている。以下引用:

This poster features the front and back designs for Rats & Star’s album ‘Soul Vacation’. The eighties Japanese pop group’s name originates in the belief that it is possible to be a ‘rat’, coming from a less prosperous background, and still become a star: a notion close to Warhol’s heart as the son of working-class immigrants. In the design by Warhol from 1983, he draws on this idea of advancement and progression with the left side appearing incomplete, showing the working process or beginnings of creating a screenprint. The right side then shows the finished portraits of the men as stars. He incorporates blocks of colour beneath a black print over which he has layered printed hand-drawn elements.


by galleria-iska | 2017-11-28 18:10 | その他 | Comments(0)


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