ガレリア・イスカ通信

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カテゴリ:ホルスト・ヤンセンのポスター( 27 )


2011年 11月 09日

ホルスト・ヤンセンのポスター(6)「Kunstverein der Rheinlande und Westfalen Düsseldorf」(1966)

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ノルトライン=ヴェストファーレン州の州都であるデュッセルドルフ市はドイツの中西部に位置するライン川沿いの街で、ドイツ最大の工業地帯ルール地方の中心地でもあることから、多くの日系企業が進出しており、日本人が多く居住する街である。そのデュッセルドルフに1892年に設立されたラインおよびヴェストファーレン地方芸術協会は、ドイツ最古の芸術協会のひとつである。ヤンセンの巡回展は、ベルリンでの巡回展が終了してから一月半ほど経った1966年8月12日から9月11日かけて開催された。これはその巡回展のポスター。

ヤンセンは、側転少年(ラートシュレーガー)(1)の街として知られるデュッセルドルフでの展覧会ということで、画面の中心に側転する少年ならぬ自画像を大きく描き入れている。ただ、その形相があまりに凄まじいので、頭を地面に打ち付けているように見えてしまう。画面両端に描かれている二人の人物であるが、左側に描かれているミニスカートの若い女性は、同じ年にハンブルクの書肆へルマン・ラーツェンから発行された「絵草子」シリーズ「Kleist Bilderbogen」第二葉(2)にも登場するが、彼女が右手に持っている“5本の短い筒を繋げたもの”が何か判らないので、はっきりしたことは言えないが、演奏そっちのけで悲鳴と歓声を上げるビートルマニア(Beatlemania)と呼ばれる熱狂的なファンの女の子ではないかと思われる。ただ、1965年にデビューし、「スウィンギング・ロンドン」のもうひとつ顔として瞬く間に世界的人気を博したファッションモデルのツィッギー(Twiggy, 1949-)という可能性もなくはない。“腕フェチ”であったとされるヤンセンは、ここでは彼女の左腕を強調して描いている。右側のギターを演奏する人物も「絵草子」に登場する三人のミュージシャンと同じような格好をしているが、こちらは1966年6月24日にミュンヘン、25日にエッセン、そして26日にはヤンセンの住むハンブルクで公演したビートルズ(Beatles)のメンバーの一人である可能性が高い。ヤンセンが何故側転しているかと言えば、画面中央の小さな枠の中の人物が、ライン・ヴェストファーレンの批評家Wolf Schönの「何も新しいものは無い」「我々はみな側転する(喜んでいる)」という言葉を伝えているのだが、それに対するヤンセンの反応であると思われる。

●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Poster(Plakat)
●題名:Kunstverein der Rheinlande und Westfalen Düsseldorf(Kunstverein für die Rheinlande und Westphalen)
●サイズ:881x622mm
●技法:Strichätzung(Zinkätzung)
●限定:1000(500/white paper, 500/brown paper)
●刷り:Hans Christians, Hamburg
●制作年:1966
●目録番号:Meyer-Schomann 21

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●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Poster(Plakat)
●題名:Kunstverein der Rheinlande und Westfalen Düsseldorf
●サイズ:880x620mm
●技法:Strichätzung(Zinkätzung)
●限定:1000(500/white paper, 500/brown paper)
●刷り:Hans Christians, Hamburg
●制作年:1966
●目録番号:Meyer-Schomann 21


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「Kleist Bilderbogen」第二葉、1966年7月17日制作。描かれているのは、1960年、61年とハンブルグでの下積み時代を経て大成功を収め、1966年6月26日に凱旋公演を行なったビートルズのメンバーである。ミニスカートの女性ついては、前述のとおり。この作品はシリーズの主題とは全く関係ないが、ビートルズの公演に興奮冷めやらぬヤンセンが、どうしても描きたかった、ということなのかもしれない。

●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Kleist Bilderbogen 2
●サイズ:625x435mm
●技法:Strichätzung(Zinkätzung)
●限定:1000
●発行:Hermann Laatzen, Hamburg
●刷り:Hans Christians, Hamburg
●制作年:1966.7.17


註:
1.ラートシュレーガーの由来は、デュッセルドルフが1288年のヴォリンゲンの戦に勝利した際に、それを喜んだ子供たちが通りに出て側転をしたことにあるとか。

2.「Kleist Bilderbogen」は、ロマン主義の時代に生きたドイツの劇作家ハインリヒ・フォン・クライスト(Bernd Heinrich Wilhelm von Kleist, 1777 10.18-1811 11.21)が1810年10月1日に創刊した「ベルリン夕刊新聞(Berliner Abendblätter)」の記事を題材に描いたシリーズで、6点の亜鉛版エッチングからなる。
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by galleria-iska | 2011-11-09 12:30 | ホルスト・ヤンセンのポスター | Comments(0)
2011年 11月 08日

ホルスト・ヤンセンのポスター(5)「Kunstamt Berlin-Tempelhof」(1965)

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シュトゥットガルト(=シュツットガルト)のヴェルテンベルク芸術協会での巡回展が終了して二週間後の1966年5月14日から6月25日にかけて、「ベルリン大空輸(Berlin Airlift)」の舞台となったベルリンのテンペルホーフ空港近くにある美術館、クンストアムト・テンペルホーフ(Kunstamt Berlin-Tempelhof)(1)で開催されたヤンセンの巡回展のポスター。

このポスターでは、ヤンセンはベルリンのシンボルである熊の格好をしており、首には、当時ベルリンを分割統治していた連合国・四ヶ国(イギリス,ソ連、アメリカ、フランス)をそれそれ象徴する、スコッチ(Scotch)、ウォッカ(Wodka)、バーボンBourbon)、ペルノー(Pernod)の酒壜の付いた首飾りを着けている。ただヤンセンに政治的な意図はないようで、足元には6本のバラの花が並べ置かれ、その一本一本に展覧会の開催に尽力してくれた人への献辞が添えられている。

●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Poster(Plakat)
●題名:Kunstamt Berlin-Tempelhof(Kunstamt Tempelhof-Schöneberg, Berlin)
●サイズ:620x430mm
●技法:Strichätzung(Zinkätzung)
●限定:1000(500/white paper, 500/brown paper)
●刷り:Hans Christians, Hamburg
●制作年:1966
●目録番号:Meyer-Schomann 20

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註:
1.この美術館は、2001年1月1日にテンペルホーフ区とシェーネベルク区が合併した結果、クンストアムト・テンペルホーフ=シェーネベルク(Kunstamt Tempelhof-Schöneberg, Berlin)と名称が改められた。
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by galleria-iska | 2011-11-08 16:29 | ホルスト・ヤンセンのポスター | Comments(0)
2011年 11月 04日

ホルスト・ヤンセンのポスター(4)「Württembergischer Kunstverein Stuttgart」(1966)

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ダルムシュタットにある美術館、クンストハレ・ダルムシュタット(Kunsthalle Darmstadt)での巡回展が終了して二週間ほど経った1966年4月9日から30日にかけて、今度はドイツ南西部に位置するバーデン=ヴュルテンベルク州の州都であるシュトゥットガルト(=シュツットガルト)のヴェルテンベルグ芸術協会(Württembergischer Kunstverein Stuttgart )で開催された巡回展のポスター。

ヤンセンの亜鉛版エッチングによるポスターの中ではレタリングの比重が大きい作品で、何かの扉か窓枠のように見える太い直線で囲まれた方形の画面の上下にヤンセンの独自の書体によるレタリングが配置されている。殊に上部に配置されたレタリングは、線の太い細いを強調した文字によって、ステンドグラスを思わせる装飾性な文様と化し、それと太く直線的な枠組とが不思議な調和を見せ、様式的な美しさを生み出している。画面には、頭を僅かに下に傾け、片方の目でこちらを見つめるヤンセンの自画像が三角形の構図で描き込まれており、ある意味古典的な様式美を感じさせるポスターに仕上がっている。

尚、このポスターはニョーヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵されている“ヤンセンのポスター作品(絵草子を含む)”5点のうちの1点である。

●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Poster(Plakat)
●題名:Württembergischer Kunstverein Stuttgart
●サイズ:847x594mm
●技法:Strichätzung(Zinkätzung)
●限定:1000(500/white paper, 500/brown paper)
●刷り:Hans Christians, Hamburg
●制作年:1966
●目録番号:Meyer-Schomann 19

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●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Poster(Plakat)
●題名:Württembergischer Kunstverein Stuttgart
●サイズ:847x598mm
●技法:Strichätzung(Zinkätzung)
●限定:1000(500/white paper, 500/brown paper)
●刷り:Hans Christians, Hamburg
●制作年:1966
●目録番号:Meyer-Schomann 19

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ヤンセンの版上サイン(右側)と鉛筆サイン(左側)
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by galleria-iska | 2011-11-04 18:05 | ホルスト・ヤンセンのポスター | Comments(0)
2011年 11月 03日

ホルスト・ヤンセンのポスター(3)「Kunsthalle Darmstadt」(1966)

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ハンブルグ美術協会での巡回展が終了して二週間後の1966年2月27日から3月27日にかけて、ヤンセンが1964年に芸術賞を受賞したヘッセン州南部の郡独立市ダルムシュタットにある美術館、クンストハレ・ダルムシュタット(Kunsthalle Darmstadt)で開催された巡回展のポスター。ポスターにはダルムシュタット市の芸術賞所持者であることを示すメダルを付け得意げな表情を浮かべるヤンセンの自画像が描かれている。このポスターはなかなか見つからなくて、ようやく手したものは、前に額装されていたのだろうか、シートの右側に幾分退色が見られる。

●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Poster(Plakat)
●題名:Kunsthalle Darmstadt
●サイズ:842x592mm
●技法:Strichätzung(Zinkätzung)
●限定:1000(500/white paper, 500/brown paper)
●刷り:Hans Christians, Hamburg
●制作年:1966
●目録番号:Meyer-Schomann 18

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靴のかかとの横に鉛筆による署名と年記が入れられている。
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ヤンセンの巡回展のポスターを収録したアルバム「Horst Janssen Plakate und Traktätchen」(1966)には、こちらのポスターもハンブルク美術協会のポスターと同様、白いポスター用紙に印刷されたものが掲載されている。
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by galleria-iska | 2011-11-03 20:07 | ホルスト・ヤンセンのポスター | Comments(0)
2011年 11月 01日

ホルスト・ヤンセンのポスター(2)「Kunstverein Hamburg」(1966)

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大成功に終わったケストナー協会での回顧展(1965年12月9日~1966年1月9日)から一週間後の1966年1月15日から2月13日にかけてハンブルク美術協会で開催されたヤンセンの巡回展のポスターで、亜鉛版エッチングによるポスター第一作。限定数は1000部で、白いポスター用紙と茶色に染色されたレイド紙(簀の目状の透し筋入り紙)にそれぞれ500部づつ印刷された。

●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Poster(Plakat)
●題名:Kunstverein Hamburg
●サイズ:620x440mm
●技法:Strichätzung(Zinkätzung)
●限定:1000(500/white paper, 500/brown paper)
●刷り:Hans Christians, Hamburg
●制作年:1966
●目録番号:Meyer-Schomann 17

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ヤンセンの巡回展のポスターを収録したアルバム「Horst Janssen Plakate und Traktätchen」(1966)には白いポスター用紙に印刷されたものが掲載されている。

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画像の追加(2015年2月26日)
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白いポスター用紙に印刷されたもの。画面左側の人物は、ヤンセンの版画の師匠でライバルのパウル・ヴンダーリッヒ(Paul Wunderlich, 1927-2010)。1965年にヤンセンとヴンダーリッヒはともにハンブルク市からエドウィン・シャルフ賞(Edwin Scharff Prize 1887-1955)を受賞しており、ハノファーのケストナー協会で回顧展を成功させたヤンセンが、地元への凱旋となったハンブルク美術協会での展覧会に際し、当時ハンブルク造形美術大学(前身は二人が在籍したハンブルク美術学校)の絵画・版画科の教授であったヴンダーリッヒへの友情と敬意を表わしたものではないかと思われる。
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by galleria-iska | 2011-11-01 21:30 | ホルスト・ヤンセンのポスター | Comments(0)
2011年 10月 27日

ホルスト・ヤンセンのポスター(1)「Kestner-Gesellschaft Hannover」(1965)

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ホルスト・ヤンセン(Horst Janssen, 1929-1995)がハノーファーのケストナー協会(Kestner-Gesellschaft Hannover)での初の回顧展の際に制作した告知用のオリジナル・リトポスター。サイズの異なるものが二種類(610x430mm、650x480mm)作られた。回顧展の図録に付けられたハンブルク美術大学の教授、カール・フォーゲル博士編纂の版画作品目録(Verzeichnis der Druckgraphik Horst Janssen 1951-1965)によると、このポスターの限定は500部で、その以外に茶色の紙に刷られたものが20部有るとしているが、1978年に行なわれたヤンセンのポスター展の図録の巻末に付けられたエーリッヒとヘルガ・マイヤー=ショーマン(Meyer-Schomann)編纂のポスター目録(Horst Janssen Plakate 1957-1978, Werkverzeichnis)では、限定は530部で、内20部が茶色の紙、10枚が紫色の紙に刷られたとある。色付きの紙に刷られたものは未見。1982年に行なわれたヤンセンの回顧展(Janssen:Retrospektive auf Verdacht)の図録には限定数は記載されておらず、リトグラフではなく、亜鉛版エッチング(Strichätzung)と誤って表記されている。

●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Poster
●題名:Kestner-Gesellschaft Hannover
●サイズ:610x430mm
●技法:Original lithograph
●限定:530(of which 20 on brown paper and 10 on violet paper)
●発行:Kestner-Gesellschaft Hannover
●印刷:Lindau, Langenhorn
●制作年:1965
●目録番号:Meyer-Schomann 16(Vogel 410)
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このポスターはヤンセンによって献呈されたもので、画面右下の版上サインの横に鉛筆による献辞と署名が入れられている。


参考文献:
1.Horst Janssen, Kestner-Gesellscaft Hannover, 1965
2.Horst Janssen Plakate 1957-1978, Stadmuseum Oldenburg, 1978
3.Janssen:Retrospektive auf Verdacht, Museum für Kunst und Gewerbe Hamburg, 1982
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by galleria-iska | 2011-10-27 18:10 | ホルスト・ヤンセンのポスター | Comments(0)
2011年 10月 24日

ホルスト・ヤンセンのポスター展図録「Horst Janssen Plakate 1957-1978」(1978)

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今年2011年は「日独交流150周年」ということで、150年に及ぶ交流の歴史を振り返るとともに、日本とドイツで様々な交流行事が行なわれているようである。美術関係では東京新聞主催の「カンディンスキーと青騎士:レンバッハハウス美術館所蔵展」が、2010年11月から今年9月にかけて、東京、愛知、兵庫、山口を巡回している。ホルスト・ヤンセンに関して言えば、2005/2006年の「日本におけるドイツ年」の際に開催された「ホルスト・ヤンセン展ー北斎へのまなざし」が未だ記憶に新しいが、総花的な展覧会はひとまず置いておいて、今度はヤンセンのポスター(特に1960年代に制作されたポスター)に焦点を当てた展覧会が開催されないものかと期待しているのだが、今のところ何も聞こえてこない。そのポスターのことで前に一度、某版画専門美術館に問い合わせたことがあるのだが、担当学芸員からは、「(ヤンセンの)ポスターは、素描や版画作品に比べてさほど重要なものではなく、美術館で評価するに値いしない」という、つれない答しか得られなかった。それとは別に、某県立美術館へのヤンセンの版画についての問い合わせに対しては、「当館はタブロー中心に収集をしており、版画のような印刷物は収集の対象としては考えていない」というものであった。作家の創作活動をこのような階層的な評価で見ているのかと思うと、印刷(文化)を人間の創作活動の重要なファクターと捉える欧米の美術館との隔たりを感じてしまう。日本の美術館もお手本しているはずであろう、ニューヨーク近代美術館(MoMA)所蔵のヤンセンの作品11点のうち5点(1)が、このブログでも取り上げている1960年後半に制作された亜鉛版エッチングによるポスターと絵草子であるのだが、前述のくだりからすると、「ニューヨーク近代美術館は日本の某版画美術館や県立美術館よりも見識がない」ということになってしまうのだが如何なものであろうか。

しかし、世の中、そう悲観することばかりではない。うれしい発見もあった。これまで、日本の美術館では一度もヤンセンのポスター展が開かれたことがない、と思っていたのだが、つい最近、国立新美術館のアーカイブ資料「日本の美術展覧会記録1945-2005」に収録されている宮崎県都城市の都城市立美術館の企画展リストの中に「ホルスト・ヤンセンポスター展」(鎌倉の神奈川県立近代美術館鎌倉での初の回顧展の翌年の1983年5月8日から22日までの短い日程で開催されたようである。主催は都城教育委員会、大阪ドイツ文化センター、宮崎大学映像研究会)があるのを発見し驚いた次第。詳しい内容については図録が発行されていないので分からないが、今から28年前に、恐らく何処の美術館も首を縦に降らなかったであろうヤンセンのポスター展を企画として取り上げた都城市立美術館の勇断に、遅ればせながら拍手を送りたいと思う。これに意を強くし、このブログでも、既に取り上げたものもあるが、「ホルスト・ヤンセンのポスター」というカテゴリーを新たに設け、年代順にケストナー協会での回顧展以降に制作されたヤンセンの亜鉛版エッチングによるポスター(1965年~1970年)を紹介していこうと思う。

ヤンセンのポスターに関する資料としては、1999年にハンブルクのザンクト・ゲルトルーデ出版( Verlag St.Gertrude, Hamburg)から総目録(Das Plakat: Eine Auswahl aus den Jahren 1957 bis 1994. Entwürfe, Vorzeichnungen, Variationen. Mit einem Werkverzeichnis der gedruckten Plakate =The poster: a selection from the years 1957 to 1994: Designs, sketches, Variations. With a catalog of the printed posters)が刊行されているが、ここでは1978年10月22日から11月22日にかけてオルデンブルク市立美術館(Stadmuseum Oldenburg)で開催されたヤンセンのオリジナル・ポスターの回顧展「Horst Janssen Plakate 1957-1978」の際に刊行された図録を用いる。この展覧会にはヤンセンが1957年に盟友パウル・ヴンダーリッヒの協力を得て制作した最初のポスターから、この展覧会の告知用ポスターまで全76点が出展され、巻末にはこの図録の編者であるErichとHelga Meyer-Shomannによる総目録が付けられている。

ヤンセンのポスターの制作期間は1957年から亡くなる前年の1994年までであるが、その制作方法(版種)によって大きく三期に分けることがでる。最初期にあたる1965年以前に制作されたポスターは、アンフォルメルの先駆者的とされるジャン・デュビュッフェの影響を色濃く反映しており、その多くがリトグラフで制作されているが、ポスターの刷りをヤンセン自身が行なっているため、部数が10部~100部と非常に少ない。オークションでも版画と同等以上の値が付けられていることがあり、ポスターと言っても決して侮れない。第二期は、ヤンセンがデュビュッフェの影響から脱し、新しい描画スタイルを築く切っ掛けとなったポスター「Dirk Rademaker」(リトグラフ、限定25部)が制作された1965年に始まる。そして大きな反響を呼んだ1965/1966年のケストナー協会での回顧展からは、自身で刷りを行なっていたリトグラフによるポスターの制作を止め、リトグラフとエッチングの持ち味を併せ持ち、比較的安価に印刷が行なえる亜鉛版エッチングを用いたポスターと絵草子の制作を開始する。その時期は、様々な社会変動を引き起こすことになった1960年代という時代精神の大きなうねりの真っ只中にあり、閉塞的な社会の仕組みに対する異議を申し立てから始まった学生運動の高まりや反政府的なヒッピーやフラワーピープルを象徴するロックミュージックや麻薬といったカウンターカルチャーが台頭した時代であり、大量生産と消費によって市民生活のスタイルも大きく様変わりし、グラフィック・アートもその表現の可能性を拡げ、先進各国に同時発生的に個性的な作家を生み出した時代でもある。しかしながら、今のところ、それを横断的に捉える試みが成功しているとは言いがたい。この時期のグラフィック・アートの印刷の主流はシルクスクリーンで、ポップアートやオップアートなど1960年代を代表する美術運動においても版画やポスターの多くがシルクスクリーンで作られている。それに対し、ヤンセンは逆に表現の幅が狭い亜鉛版エッチングによって独自の表現様式を切り拓くこととなる。ポスターや絵草子の印刷はハンブルクの印刷・出版業者ハンス・クリスティアンズで行なわれ、その多くにヤンセンの署名が入れられている。発行部数は500~2000部で、価格はモノクロのもので5ないし10ドイツマルク、多色刷りのものは15ドイツマルクであった。しかしながら、亜鉛版エッチングによるポスター制作も1970年代の到来とともに終わりを告げ、1970年代以降は素描や水彩画で描かれた原画を用いたオフセット印刷によるポスター制作に移っていくこととなる。

これまで亜鉛版エッチングによるポスターに対する関心は、熱心な愛好家や収集家を除き、ドイツ国内でもヤンセンの画家的資質が発揮される1970年代以降のポスターと比べて低かったが、2009年にヤンセンの生誕80年を記念して開催されたグラフィック作品を中心とする回顧展「Die Retrospektive zum 80. Geburtstag 」によって、1960年という時代の再認識とともに評価が高まってきている。

●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Catalogue
●サイズ:296x210mm
●技法:Offsetlitho
●印刷:Osnabrucker Klischeeanstalt
●発行:M1 Vwelag Manfred Meins, Oldenburg
●制作年:1978


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註:
1.ニューヨーク近代美術館所蔵のヤンセンのポスターと絵草子作品:

1.『Wuerttembergischer Kunstverein』(on brown paper),1966(Meyer-Schomann 19)
2.『Max Klinger Radierwerk』1966(Meyer-Schomann 25)
3.『Laatzen's Bilderbogen, 3』1966
4.『Laatzen's Bilderbogen, 4』1967
5.『Laatzen's Bilderbogen, 5』1967
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by galleria-iska | 2011-10-24 13:49 | ホルスト・ヤンセンのポスター | Comments(0)