ガレリア・イスカ通信

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カテゴリ:案内状/招待状関係( 74 )


2015年 07月 10日

デイヴィッド・ホックニーのメトロポリタンオペラ・ポスターの案内「The Parade Poster」(1981)

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イギリスの20世紀を代表する作家のひとりとなったデイヴィッド・ホックニー(David Hockney, 1937-)は1979年、ニューヨークのメトロポリタン・オペラ・ハウス(The Metropolitan Opera, New York)から、かつてピカソ(Pablo Picasso, 1881-1973)がバレエ・リュスの公演のために舞台美術と衣装を担当したことがあるエリック・サティの『パラード』、フランシス・プーランクの『テレジアスの乳房』、モーリス・ラヴェルの『子供と魔法』の舞台美術を依頼される。ホックニーは舞台美術の制作の傍ら、メトロポリタン・オペラ・ハウスのために、ミュシャ(Mucha)などに代表されるヨーロッパの劇場ポスターの伝統に倣い、2メートルを超す3点の大きなポスターを制作している。出版はロンドンのピーターズバーグ・プレス社(Petersburg Press, London)。「パラード」(1981年)はそのうちの一点で、23色刷りのシルクスクリーンで制作されている。これはそのポスター(206x89cm)の出版案内。ポスターには、赤、青、緑を主とする原色に近い色彩を大胆に用い、舞台の上でアクロバットを見せる道化師(Harlequin)が描かれている。この出版案内は、前から行方不明になっていたもので、数日前に、パリの書店ラ・ユンヌが6月14日に閉店したとの記事を目にし、書店・画廊の形態を取っていた頃のラ・ユンヌ(Librairie-Galerie La Hune)から送られてきた出版案内があったかもしれないと思い、資料用のダンボール箱を探しているときに、画廊や美術館の出版資料を挟んであるファイルの中から一緒に出てきた。もともと記憶力はあまり良い方ではないが、最近は資料ひとつ見つけるのに、何時間も掛かってしまう...

ホックニーが三つの作品の中からエリック・サティの『パラード』を選んだのは、敬愛するピカソが1917年にパリで初演された際の舞台美術を担当したからに他ならないが、舞台美術を制作中の1980年にニューヨークの近代美術館(MoMA)で開催されたピカソの大回顧展を見て、大いに感銘を受けたこともポスター制作の刺激になったに違いない。

●作家:David Hockney(1937-)
●種類:Leaflet
●サイズ:233x119mm(233x238mm)
●技法:Offset
●発行:Petersburg Press, London
●制作年:1981
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by galleria-iska | 2015-07-10 21:40 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)
2015年 06月 28日

アラントン画廊の図録と招待状「écran-écrin, exposition Andy Warhol」(2000)

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20世紀最後の年(2000年)にパリの書店・画廊アラントン(Galerie Arenthon, 3 Quai Malaquais, 75006 Paris)で開催されたアンディ・ウォーホル(Andy Warhol, 1928-1987)が手掛けた表紙絵や挿絵を初め、モノグラフ、LPジャケット、写真、ポスター、シルクスリーン版画、全65点からなる展覧会の図録と招待状。カバーは持ち手がバナナの形をした手提げかばん風のデザイン。600部限定で、図録は冊子造りの出品目録と年譜の二分冊となっており、カバーの内側に貼られている。限定番号と店主(Lucien Desalmand)のモノグラムサイン入り。アラントンからはウォーホルも参加している上海生まれのアメリカ人画家で詩人のウォレス・ティン(Walasse Ting, 1929-2010) の詩集『One Cent Life』(Kornfeld, Bern, 1964)を購入したことがあったが、本来はシュルレアリスム関係の挿絵本や版画を得意とする書店・画廊であったので、この図録と招待状が届いたときは、“ブルータス、お前もか!!”といった感で、少々驚いた。

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ウォーホルが1962年にダンスのステップをテーマに制作した絵画シリーズ「Dance Diagram(ダンス図解)」のうち、立ち位置を描いた作品を用いてデザインされたヴェルニサージュへの招待状(表裏)。
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図版:Andy Warhol「Dance Diagram」(1962). Synthetic polymer paint on canvas, 182.9x131.5cm

●作家:Andy Warhol(1928-1987)
●種類:Invitation + Catalogue
●サイズ:210x84mm(Inviation), 314x240mm(Catalogue)
●技法:Offset
●限定:600
●発行:Galerie Arenthon, Paris
●印刷:Impression Rimbaud, Cavaillon
●制作年:2000
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ウォーホル展「écran-écrin」の出品目録(201x200mm)
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ウォーホルの年譜(201x200mm)
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by galleria-iska | 2015-06-28 14:34 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)
2015年 05月 07日

ジム・ダイン展の招待状「Waddington Galleries」(1984)

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ポップ・アートの雄、ロイ・リキテンスタイン(Roy Lichtenstein, 1923-1997)同様、抽象表現主義の影響下から出発したジム・ダイン(Jim Dine, 1935-)は、アラン・カプロー(Allan Kaprow 1927-2006)によるハプニングを経験した後、ネオダダのロバート・ラウシェンバーグ(Robert Rauschenberg, 1925-2008)やジャスパー・ジョーンズ(Jasper Johns, 1930-)によって生み出されたコンバイン・ペインティングに触発され、1960年代に身近な大工道具などをキャンバスに結合した作品を発表、ポップ・アートの作家の仲間入りを果たす。作品に用いられるオブジェが日常性に根ざしている点に於いて、両者は同じように見えなくもないが、ダインのそれは自伝的意味合いを持っているのに対し、ポップ・アートの大量消費社会を批判的に捉える姿勢に違和感を感じたダインは、ポップ・アートとの距離を持つため、ロンドンに活動拠点(1967年~1971年)を移す。そこでの暮らしと培われた表現技法-殊に銅版画-がその後のダインの表現に大きな変化をもたらすこととなる。帰国後の1971年以降、よりパーソナルな視点が強く現れるのが、自身と妻のナンシー・ダインを題材とする肖像画であることは間違いない。1980年代に入ると、ダインの絵画にある種の原点回帰とも取れる表現主義的な荒々しい筆触が現れ始める。それと呼応するかのように版画制作に木版画が登場し、また同時に彫刻作品が大きな比重を占めるようになっていく。中でも1976年に購入したミロのヴィーナス(註1)のミニチュアをもとにした彫刻はダインの主要な彫刻のひとつとなっている。ヴィーナスはダインの版画制作においても主要なテーマのひとつなり、1983年から85年にかけて集中的に制作されたミロのヴィーナスをモチーフとする版画で示された様々なヴァリエーションは、彫刻との相互作用の中で生み出されたものである。そのひとつ成果として、1984年の3月7日から31日かけて、ロンドンのワディントン・ギャラリーズで彫刻展が、またワディントン・グラフィックスでは版画の近作展が同時開催された。これはその彫刻展の招待状で、1983年に制作された彫刻「Venus with Tools」(Cast bronze, edition of 6, 156.2x81.3x76.2cm)の写真が使われている。

古代キリシャで制作された、世界で最も有名な大理石の彫刻「ミロのヴィーナス(Vénus de Milo)」は、レオナルド・ダ・ヴィンチのモナリザと同様、そのイマージュは世界的な拡がりを見せており、彫刻のミニチュアは美術館やお土産屋などいたるところで見つけられる。それまで主に身近にある自身の生活と関係性の深い物をモチーフとしてきたジム・ダインであるが、ミロのヴィーナス像で初めて過去の歴史的な作品を取り上げ、それをもとに彫刻制作に挑んだ。そのことについてダインは、(ミロのヴィーナスは)
"a link to art history...and is about the relationship of art and the history of art to objects."
と答えており、1977年にはヴィーナスの小さな石膏型を静物画の画面を埋めるオブジェのひとつとして用いている。1982年、ダインはミロのヴィーナスの絵葉書を何枚か購入し、それをロンドンと国内のスタジオの壁にピンで止めていたのだが、翌年、ダインはその絵葉書を用いたコラージュによる作品(頭部は消されている)を制作。それを機にヴィーナスをモチーフとする版画・彫刻の制作へと向う。ダインのローブとヴィーナスの関係について、ジム・ダインの版画目録「Jim Dine Prints 1977-1985」の著者のひとりであるジーン E. フェインベルク(Jean E. Feinberg)によると、ダインは自身の言葉にもあるように、ヴィーナスに、歴史的な作品を制作した偉大な先達へ言及と結びつきを念頭に置きつつ、男性の表象としての“ローブ”に対応する女性の表象を発見した。ダインは制作に際し、それが特定の人物として見做されることを避けるため、ミロのヴィーナスの像から頭部を省いたトルソの形式を取っている。一方、1960年代から繰り返し描かれる“ローブ”もまたトルソのような形態を取って描かれていることから、男性の表象として、また、よりパーソナルな視点に沿うならば、ダイン自身の自画像と捉えることができる。事実、ダインは1969年に「自画像:風景(Self Portrait: The Landscape」というローブを描いたリトグラフによる版画作品を制作しており、この文脈に沿うなら、1983年に登場するヴィーナスは、彼の妻ナンシー・ダインと見做すことが出来るのかもしれない。

招待状に使われている作品「Venus with Tools」はヴィーナスをモチーフとする作品の中でもユニークなものと言えるかもしれない。ダインはヴィーナスの像に、絵画や版画の主要なモチーフである鋸、金槌、ドリル、そして貝殻といった、一見無関係とも思えるオブジェを結合させているが、先の三点は男性とその性的な力のメタファーとして、また貝殻は女性器のメタファーとして扱われている点において、多分に暗示的(フロイトを想起させる)であり、シュルレアリスムの手法である“デペイズマン”(註2)を強く意識させる。

●作家:Jime Dine(1935-)
●種類:Invitation
●サイズ:290x210mm
●技法:Offset
●発行:Waddington Galleries, Ltd, London
●制作年:1984
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招待状は展覧会の図録『Jim Dine』(290x210mm, 27pp.,1984)と同じサイズで作られている。


註:

1.ミロのヴィーナスのパラフレーズと言うと、シュルレアリスムの画家サルヴァドール・ダリ(Salvador Dali, 1904-1989)が1936年に、マルセル・デュシャンのレディ・メイド(Ready Made)にヒントを得、また精神分析学者のジークムント・フロイト(Sigmund Freud, 1856-1936)の影響を反映した、ダリが“人型のキャビネット(anthropomorphic cabinet )と言うところの、意識下の深く神秘的な性的欲望を象徴するオブジェ「引き出しの付いたミロのヴィーナス(Venus de Milo with Drawers)」(Painted plaster with metal pulls and mink pompons, 98x32.5x34cm)が思い出されるのではないだろうか。ダインの彫刻とは、時間的にも、空間的にも遠く離れ、直接的な関係性が無いように思われるが、両者は共に一見無関係に思えるオブジェを組み合わせている点や、性的欲望が創造エネルギーのひとつ、あるいはそれ自体が主題として成立し得るという点において、シュルレアリスム的であり、またレデイ・メイドの概念を踏襲している点においてデュシャンの系譜に連なると言えよう。

2.ロートレアモン伯爵の『マルドロールの歌』(1869年)における「解剖台の上のミシンとこうもり傘の偶然の出会いのように美しい」という有名な詩句を原点とする、一見無関係に思える事物を組み合わせるデペイズマン (dépaysement)という手法は、シュルレアリスムの得意とするところであり、それはダリのオブジェ「引き出しの付いたミロのヴィーナス」にも見て取れる。
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by galleria-iska | 2015-05-07 20:14 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)
2015年 03月 03日

ニキ・ド・サンファルの招待状「Hanover Gallery London」(1968)

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今日は桃の節句とやらで、女子のお祭りである。ちらし寿司は荷が重いので、ケーキのひとつでも買って帰ろうかと思い、近くのケーキ屋に寄ったのだが、大変な事態が待ち受けていた。うら若き女店員の「列にお並び下さい」という言葉に促され、順番が来るのを待つことにしたのだが、それにしてもすごい混みようで、この国の食欲と経済は女性によって支えられていることを改めて実感した次第。

閑話休題、もうかれこれ一年近くも展覧会なるものに出掛けていないので、何か面白い企画が予定されていないかと展覧会情報を検索していたら、今秋、9月18日から12月14日にかけて、東京・六本木の国立新美術館でニキ・ド・サンファル(Niki de Saint Phalle, 1930-2002)の回顧展が開催されるとの案内が目に入った。日本国内で再評価の動きがあったのだろうかと思ったが、どうもそうではなく、パリのグランパレ(Grand Palais, 9 September, 2014 - 2 February 2015)で開催され、現在はスペインはビルバオのグッゲンハイム美術館(Guggenheim Museum Bilbao, 27 February - 11 June 2015)に巡回している展覧会を日本に持ってくるらしい。むべなるかな。

以前、1964年にニキの初個展を開催したロンドンのハノーヴァー画廊(Hanover Gallery, Lodon, 1947-1973)が二度目の個展を開催した1968年に出版した、ニキの三冊目となるアーティストブック『Niki de Saint Phalle』を取り上げたことがあるが、最近、その個展の招待状を手に入れることが出来た。画像では判りずらいが、蛍光性のインクの発色が鮮やかである。それによると、会期は1968年10月2日から11月1日となっている。ニキの個展に続き、11月5日には共に行動していたスイス生まれの彫刻家ジャン・ティンゲリー(Jean Tinguely, 1925-1991)の個展(註1)のオープニングが予告されているのだが、ティンゲリーの年譜によると、この個展の会期は、1968年12月5日から1969年1月5日となっており、招待状とは一ヶ月のずれがある。恐らく誤植であろう。一方、ニキの方は、この後、あまり時を置かずしてデュッセルドルフにあるライラント・ヴェストファーレン地方・芸術協会(Kunstverein für die Rheinlande und Westfalen)でも個展(会期は1968年11月19日-1969年1月1日)を開いており、アーティストブック所収の“ハンドバックを持ってお出掛けするナナ”の図像を用いた告知用のポスターを制作している。

1968年といえば、学生たちの体制に対する異議申し立てが頂点を迎える年であるが、ニキは宗教やイデオロギーを背景とする社会制度に組み込まれた女性という社会的役割を、ここで取り上げたような“ナナ”という図像によって軽々と飛び越えて行った。つまり今日で云うところのジェンダーという認識の根幹にあたる部分を“ナナ”という図像(あるいは彫像)によって体現したということになるだろうか。

招待状は、ニキが1965年のパリのイオラス画廊(Galerie Alexander Iolas, Paris)で披露した“ナナ(Nanas)”をモチーフにデザインされており、ニキはそのナナに、漫画の吹き出し使って、オープニングの案内《Come and see the Nanas of Niki de Saint Phalle at the Hanover Gallery on October 2nd at 3 p.m.》を語らせている。それを補うように外からの声で《Open unitl 1st November』とある。水着(?)姿のナナが軽やかに飛び跳ねる姿を描いたこの図像は、この個展より半年ほど前の5月18日から7月6日かけて、ハノーヴァー画廊を設立したエリカ・ブラウゼン(Erica Brausen, 1908-1992)が1961年にギンペル兄弟(Gimpel fils)とともにチューリッヒに開いたギンペル・ハノーヴァー画廊(Gimpel & Hanover Galerie, Zurich)(註2)での個展「Niki de Saint Phalle」の招待状に使われたものであり、その後もポスターや版画に繰り返して使われていくこととなる。

1960年代、ポップアートのウォーホルやリキテンスタインを初めとする多くの現代美術の作家たちは、個展のプロモーションのために、自ら招待状やポスター、図録のデザインを行なっているが、ニキも1965年のパリのイオラス画廊での個展の際に、イオラスの提案を取り入れ、個展の招待状やポスターのデザインや、自身の文章を用いたアーティストブックの制作に関わり、その姿勢はその後も継続されていく。

招待状の印刷はアーティストブック『Niki de Saint Phalle』の印刷を手掛けたミラノのセルジオ・トシ(Sergio Tosi, Milan)が行なっているものと思われる。ミラノに印刷所を持つセルジオ・トシは、1960年代後半からパリのイオラス画廊やロンドンのハノーヴァー画廊の図録の印刷を請け負う傍ら、自らも出版人となり、現代美術に関する図録や挿絵本などの出版を手掛けている。代表的なものとしては、アンドレ・ブルトン、ポール・エリュアール、ローズ・セラヴィ(=マルセル・デュシャン)の文章にマン・レイの13点の挿絵を添えた『Les treize cliché vierges』(1968年)(註3)やティンゲリーの16点組のポートフォリオ『La Vittoria Beaux-Arts』(1970年)が挙げられる。

●作家:Niki de Saint Phalle(1930-2002)
●種類:Invitation
●サイズ:167x129mm
●技法:Silkscreen
●印刷:Sergio Tosi, Mikan
●発行:Hanover Gallery, London
●制作年:1968

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図版:チューリッヒにあるギンペル・ハノーヴァー画廊(Gimpel & Hanover Galerie, Zurich, 1963-1983)で同じ年の5月18日から7月6日にかけれ行われたニキの個展「Niki de Saint Phalle」の招待状。このイメージをそのまま使ったポスターも制作されている。

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●作家:Niki de Saint Phalle(1930-2002)
●種類:Artist's book
●題名:Nki de Saint Phalle
●サイズ:208x165mm
●技法:Silkscreen
●発行:Hanover Gallery, London
●印刷:Sergio Tosi, Milan
●制作年:1968
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註:

1.ティンゲリーも自身の個展に際し、ニキと同じようにアーティストブックを制作している。このアーティストブックについては別の機会に取り上げるつもりである。
2.ティンゲリーは1966年にこの画廊で最初の個展を開いている。
3.クリシェ・ヴィエルジェはマン・レイがクリシェ・ヴェール(ガラス版画)の音に似せて作った一種の言葉遊びかもしれない。
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by galleria-iska | 2015-03-03 21:36 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)
2014年 12月 10日

フリードリヒ・メクセペル版画回顧展の招待状「Meckseper Print Retrospective」(1990)

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1990年はドイツの画家兼版画家フリードリヒ・メクセペル(Friedrich Meckseper, 1936-)にとって実り多い年だったと言えるかもしれない。この年、メクセペルは、“土佐和紙”の生産で知られる高知県で、“土佐和紙”と版画文化の発展を願って開催された第1回高知国際版画トリエンナーレ展(The First Kochi International Triennial Exhibition of Prints) にエッチング作品「講堂(Auditorium, 1987)」を出品、準大賞(The 1st Prize)を受賞し、スイスはジュネーヴのパトリック・クラメール画廊(Galerie Patrick Cramer, Geneva)から受賞作を表紙に用いたエッチングのカタログ・レゾネ『フリードリヒ・メクセペル - エッチング1956-1990(Fridrich Meckseper - Radierungen 1956-1990)』を出版している。そしてその年の12月には、カタログ・レゾネの出版に関連して、ニューヨーク市の契約画廊フィッチ=フェブレル画廊(Fitch-Febvrel Gallery)で版画の回顧展を開催、内覧会に出席している。これはその招待状である。表紙は1974年に制作された「時計(Uhr)」という作品。

個人的なことを言えば、メクセペルという作家は田舎暮らしの自分には縁遠い作家のひとりで、版画専門誌の『版画藝術』に掲載される記事や広告でしか作品を知ることができなかった。1980年代に入ってドイツ人作家の人気に翳りが見え始めた頃、東京の某書店の展示コーナーであったように記憶するが、ようやく実物を目にすることができた。が、まだまだ手が届く価格ではなかった。

版画家になる前に機関車の技師になろうとしていたメクセペルは、内燃機関に並々ならぬ関心を持っていたようで、1974年には1913年製の本物の蒸気機関車を購入しており、後に一人乗りの蒸気船を製造している。それはエッチングを始めて間もない1956年に蒸気船、翌1957年には蒸気機関車をモチーフとする作品にも反映されているが、一時的なものに終わっている。代わりに立ち上る煙-漫画の吹き出しのようにも見えるが、画面に何かしらのインシデントが発生しており、時間軸が動いていることを観る者に告げている-への関心が1960年代から1970年代にかけて制作された作品に幾つも見られる。

●作家:Friedrich Meckseper(1936-)
●種類:Invitation
●サイズ:133x165mm(133x331mm)
●技法:Offset
●発行:Fitch-Febvrel Gallery, New York
●制作年:1990
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Galerie Patrick Cramer, Geneva, Switzerland, 1990. Hard Cover. Limited edition of 1500 copies. Folio - 317x233mm, 292 pages, Catalogue raisonné of 283 works. 297 reproductions with 189 in color.
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Cat.No.248 Audiprium, 1987.
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by galleria-iska | 2014-12-10 20:51 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)
2014年 08月 07日

ベルナール・ビュッフェの招待状「Galerie Matignon」(1981)

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フランスの具象画家ジャン・ジャンセム(Jean Jansem, 1919-2013)夫妻がパリ8区のマティ二ヨン通り(Avenue Matignon)に開いたマティ二ヨン画廊(Galerie Matignon)は、今は娘のフローラ・ジャンセムに運営が任されているが、1980年2月にベルナール・ビュッフェ(Bernard Buffet, 1928-1999)のリトグラフのレゾネ刊行記念の展覧会「Lithographies l'oeuvre complete」を開催している。同じマティ二ヨン通りには、ビュッフェの版元のひとつで、1977年から専属画廊となったガルニエ画廊(Maurice Garnier, 1900-2014)もあるのだが、ビュッフェの展覧会歴の無いマティ二ヨン画廊が会場になったのは、作家、画廊、出版社の権利関係からだろうか、ちょっと不思議な気もする。マティ二ヨン画廊には一度訪れたことがある。その時は展覧会は開かれておらず、ジャンセムの大きなキャンバスが数点壁に掛けられていたように記憶する。

ビュッフェが開会式のためにデザインしたのがこの招待状。様式化されたテーブルの上に置かれた花瓶や鉢植えの花は今も人気のある画題で、この招待状もつい最近ヨーロッパのネットオークションで二万円余りで落札されている。ビュッフェの招待状のうち、リトグラフで制作されたものについては、彼の刷り師であったムルロー工房のシャルル・ソルリエ(Charles Sorlier)によって印刷されており、招待状とは別刷りで画家が署名を入れた版画ヴァージョンも存在している。

ビュッフェと言えば、荒廃した戦後の虚無感の中で、自らの痛みを告発するかのような、時代の不条理を切り裂く刺々しく鋭い描線で一世を風靡した画家であるが、1950年代は色彩よりもフォルムに重点が置かれ、冷たく静的な画面を特徴とする。1960年代に入ると抽象表現主義風の大げさな身振りが加わり、我々が思うところのビュッフェのイメージが出来上がり、1970年代を通してビュッフェのスタイルとして広く知れ渡り、パリの画壇でも押しも押されぬ立場になる一方、時代の証人として役割は終わり、マンネリとの批判の中で、一時そのスタイルを破棄したこともあったようだが、1980年代になると、その画風に再び変化が現れる。見ようによっては現代美術における平面性に多少なりとも接近しているのかもしれない、塗り絵のような薄っぺらな画面が登場する。技法の果てにあるマンネリは、ある種の洗練さや成熟度を醸し出す一方で、改革的であろうとする創造行為を停滞させる澱みのようなものである。自ら作りだした様式が時代精神を色濃く反映したものであるが故に、逆にその時代に縛られてしったビュッフェの悲劇を我々は目撃することとなる。

ビュッフェのリトグラフのレゾネ『Bernard Buffet Lithographe』(註1)について言えば、確か1980年の中頃までは300フラン(約7500円。1F=25円で換算)で購入できたが、バブルの到来ともに、日本国内での価格は天井知らずとなり、一時期20万円を超えるまでになった。今は価格も落ち着き、3万円前後といったところであろうか。

●作家:Bernard Buffet(1928-1999)
●種類:Invitation
●サイズ:198x155mm(198x310mm)
●技法:Lithograph
●紙質:Arches
●印刷:Atelier Mourlot, Paris
●制作年:1980
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註:

1.『Bernard Buffet Lithographe』は刷り師のシャルル・ソルリエによって編まれたビュッフェのリトグラフのレゾネ第一巻。ビュッフェが1952年から1979年にかけて制作した325点のリトグラフを収録している。235ページ、仏語。
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by galleria-iska | 2014-08-07 18:13 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)
2014年 07月 01日

アレックス・カッツ展の招待状「Robert Miller Gallery」(1981~1994)

現代美術の大御所のひとりとなったアメリカの具象画家アレックス・カッツ((Alex Katz, 1927-)は生粋のニューヨーカーで、映画のクローズアップあるいは浮世絵の“大首絵”からヒントを得たのだろうか、顔を大写しで捉えた肖像画で知られるが、彼の1980年代から1990年にかけての契約画廊のひとつであったニューヨーク市のロバート・ミラー画廊で開催された個展(註1)の招待状が幾つか手元にある。日本におけるアレックス・カッツの知名度は1988年に渋谷のシードホール(The Seed Hall)(註2)で行なわれた個展で広まったと思うが、その時作られたアダ夫人の顔の大写しの作品を用いた告知用のポスターが印象に残っている。カッツは版画家としても有名で、友人の木版画家から、彼が1980年代の初めにニューヨークの版画スタジオでアメリカ人作家の制作を手伝っていたとき、カッツが作業の様子をよく見に来ていて、木版画の技法について熱心に尋ねてきた、という話を聞いたことがある。実際、木版画制作の誘いもあったようなのだが、断ったようなことを言っていた。

●作家:Alex Katz(1927-)
●種類:Inviation
●サイズ:Various
●技法:Offset
●発行:Robert Miller Gallery, New York
●制作年:1981~1994

#1:1981年《Alex Katz: From the years 1957 to 1959》, サイズ:200x137mm(200x273mm)
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#2:1984年《Alex Katz: Small paintings from 1950 to the present》, サイズ:153x202mm
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#3:1985年《Alex Katz: An exhibition of recent cutouts》, サイズ:254x202mm(254x606mm)
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#4:1987年《Alex Katz: From the early 60s》, サイズ:145x248mm
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#5:1993年《Alex katz: New cutoutz》, サイズ:243x127mm(243x887mm)
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#6:1994年《Alex Katz: Lamdscapes 1954-1956》, サイズ:178x209mm(355x209mm)
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註:

1.ロバート・ミラー画廊で開催された個展は次の通り:
1979: Cutouts
1981: From the years 1957 to 1959
1984: Small Paintings from 1950 to the present
1985: An exhibition of recent cutouts
1987: From the early 60s
1993: New cutouts
1994: Landscapes 1965-1956
1997: New cutouts

2.渋谷の西武百貨店のシード館10階に設けられた多目的スペースで、1986年から1995年にかけて、現代美術の展覧会、ライヴ・コンサート、演劇、美術系映画の上映などの文化活動を営業企画部の催事として行なった。
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by galleria-iska | 2014-07-01 19:00 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)
2014年 01月 08日

レイモン・サヴィニャックの招待状「Musée de L'Affiche」(1978)

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美術評論家のガエタン・ピコン(Geneviève Gaëtan Picon, 1915-1976)のリーダーシップにより実現したポスター美術館(Musée de L'Affiche)(註1)は1978年、ポスターの専門家で美術評論家、そしてコレクターでもあるアラン・ヴェイユ(Alain Weill, 1946-)を館長(1978~1983)に迎え開館した。これはその開館のセレモニーと最初の展覧会「Trois Siècles d'Affiches Françaises」への招待状である。この展覧会に際し、フランス20世紀を代表するポスター作家(Affichiste français)レイモン・サヴィニャック(Raymond Savignac,1907-2002)が告知用ポスターと図録のために色の三原色を用いた原画を制作し、この招待状にも使われているのだが、モチーフとなっている《自己紹介の挨拶をするポスター氏》は、開館を前にして亡くなったガエタン・ピコンへのオマージュではないかと思われる。

●作家:Raymond Savignac(1907-2002)
●種類:Invitation
●サイズ:105x145mm
●技法:Offset
●発行:Musée de L'Affiche, Paris
●制作年:1978
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招待文
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同展の図録。208x250mm、80ページ、図版150点
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タイトルページ

ポスター美術館の開館とそれに伴う展覧会「Trois Siècles d'Affiches Françaises」を報じる新聞記事:
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註:
1.1992年に《広告美術館(Musée de la Publicité )》に改名される。
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by galleria-iska | 2014-01-08 18:51 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)
2013年 12月 04日

フェルナン・レジェの案内状「Galerie Louis Carré」(1954)

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フェルナン・レジェ(Fernand Léger, 1881-1955)と言えば、太い輪郭線による単純なフォルムと明快な色彩を特徴とするスタイルで現代美術にも大きな影響を与えたフランスの画家であるが、そのレジェがムルロー工房を主宰するフェルナン・ムルローを勧めでリトグラフの制作を始めるのは、戦後間もない1947年のことである。リトポスターの制作はそれよりも早く、レジェがナチス・ドイツ軍のフランス侵攻を避けてアメリカに亡命する1940年にパリのルイ・カレ画廊(Galerie Louis Carré)で行なった個展の告知用ポスターをムルロー工房が制作、レジェをリトグラフの制作に向わせる糸口が開かれる。その後、ムルロー工房は1969年までフランスで行なわれたレジェの展覧会の告知用ポスターの殆んどを手掛けることになるのだが、その中でオリジナル・ポスターと言えるのは、レジェが1951年にパリの《Maison de la Pensée Française》で行なった個展の際に建設労働者をモチーフにデザインしたポスターが唯一のものである。その他のものにはガッシュなどの作品が用いられており、告知用のポスターと並行してレジェが署名を入れたエスタンプと呼ばれる複製版画も同時に作られている。ムルロー工房がレジェのポスターを手掛けることになったのは、ムルロー工房は戦前から国立美術館のポスターの制作を一手に引き受けており、その評判が画廊にも届くようになったからである。

ここで取り上げるのは、レジェが晩年の1954年に契約画廊のルイ・カレ画廊で行なった個展「レジェ作品における風景画(Le Paysage dans l'oeuvre de Léger)」の際に作られた案内状である。表紙のカットはレジェによるもの。案内状に付けられた出品目録によると、この個展には1905年から1953年までに制作された26点の絵画作品が出品されている。ルイ・カレ画廊は、グリス、クレー、マチス、ピカソ、そしてレジェなど二十世紀美術の錚々たる画家の展覧会を企画したルイ・カレ(Louis Carré, 1897-1977)が1938年にパリ8区のメシーヌ通り10番地(10 avenue de Messine, Paris 8)に開いた画廊で、1980年代にはエルヴェ・ディ・ローザ、フランソワ・ボワスロン、ロベルト・コンバスといったフィギュラシオン・リーブルの作家と契約、現在も同じ場所で活動を続けている老舗画廊である。

●作家:Fernand Léger(1881-1955)
●種類:Annoucement
●サイズ:270x190mm(270x380mm)
●技法:Lithograph(?)
●発行:Galerie Louis Carré, Paris
●制作年:1954
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図版:同展の告知用ポスター、制作年:1954、サイズ:580x430mm、印刷:ムルロー工房

参考文献:
図録「ムルロ工房リトグラフ展-リトグラフ50年の歩み」株式会社西武百貨店美術部、1984年
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by galleria-iska | 2013-12-04 18:19 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)
2013年 10月 30日

ベルナール・ビュッフェの招待状「Village Felli:Galerie d'Art」(1981)

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ベルナール・ビュッフェ(Bernard Buffet, 1928-1999)の招待状は、その多くがオリジナルデザインのもので、パリの有名な版画工房ムルローで厚手のアルシュ紙を使って印刷されていることから、ひとつの版画作品とも言えなくもない。またビュッフェ独特の手書きの案内文が、さらにその魅力を高めており、仄かに残るインクの匂いも、視覚や触感とともに、額装されてしまった版画では味わえない嗅覚を刺激し、ビュッフェのファンならずとも食指を動かされる。

この招待状は、1979年にフランス東部の都市ブザンソン(Besançon)に設立されたヴィラージュ・フェリ(Village Felli)画廊が、設立二周年として開催したベルナール・ビュッフェ(Bernard Buffet, 1928-1999)展の初日に行なわれた、フランスの政治家で歴史家のエドガール・フォール(Edgar Faure, 1908-1988)の主宰のヴェルニサージュ(Vernissage)への招待状として発行したものである。招待状にはエドガール・フォールによる祝辞が添えられている。画廊のあるブザンソンはスイスと国境を接するフランス東部のドゥー県 (Doubs)の県庁所在地で、緑豊かな丘陵とドゥー川に囲まれ、自然の要塞に守られるようにして築かれた城塞都市である。『ノートルダム・ド・パリ』や『レ・ミゼラブル』の作者として知られるフランス・ロマン主義の詩人、小説家ヴィクトール=マリー・ユーゴー(Victor-Marie Hugo, 1802-1885)は、共和派でナポレオン軍の軍人であった父の赴任先であったこの地で生を受けている。

招待状に描かれているのはビュッフェの妻のアナベル(Annabelle)で、1980年にビュッフェの専属画廊であるパリのモーリス・ガルニエ画廊(Galerie Maurice Garnier)で開催された裸体(Nus)をテーマとする作品展の招待状として制作されたものを転用しており、年記部分は省かれている。同じ構図で作られた告知用ポスターがあり、こちらもガルニエ画廊で使われたものを転用している。

●作家:Bernard Buffet(1928-1999)
●種類:Invitation
●題名:Annabelle
●技法:Lithograph
●サイズ: 197x151mm(197x302mm)
●印刷:Atelier Mourlot, Paris
●制作年:1981年

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こちらは、1980年にパリのモーリス・ガルにエ画廊で開催されたビュッフェ展の招待状だが、他の招待状とともに知人に譲ってしまったため、今は手元にない。

●作家:Bernard Buffet(1928-1999)
●サイズ:200x155mm(200x310mm)
●題名:Visages Annabelle
●技法:Lithograph
●印刷:Atelier Mourlot, Paris
●目録番号:『Catalogue raisonné Bernard Buffet Lithographe』Vol 2, page 26, référence #338bis
●制作年:1979
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告知用のポスター、650x500mm、限定7000部(内4000部がガルニエ画廊用、3000部がヴィラージュ・フェリ画廊用)




2014年8月6日追記:

1980年2月にガルニエ画廊で開催された「裸体画(Nus)」展の招待状を再度入手することができた。
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●作家:Bernard Buffet(1928-1999)
●種類:Invitation
●サイズ:196x154mm(196x310mm)
●技法:Lithograph
●紙質:Arches
●印刷:Atelier Mourlot, Paris
●制作年:1979
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by galleria-iska | 2013-10-30 12:48 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)