ガレリア・イスカ通信

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2012年 12月 24日

ニキ・ド・サンファルのアーティスト・ブック「Niki de Saint Phalle」(1968)

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時節がらクリスマス、あるいは来年の干支に因んだ(?)ものでもないかと思っていたところ、こんなものがあった。ニキ・ド・サンファル(Niki de Saint Phalle, 1930-2002)が1968年にロンドンのハノーヴァー画廊(Hanover Gallery, 1947-1973)で開催した個展に合わせて刊行した、自身三作目となるアーティスト・ブックである。

北ドイツの都市の名前を連想させるるハノーヴァー画廊は、1947年にドイツ出身のエリカ・ブラウゼン(Erica Brausen, 1908-1992)(註:1)によってロンドンに設立された現代美術を専門とする画廊で、20世紀のアイルランドを代表する画家フランシス・ベーコン(Francis Bacon, 1909-1992)の最初の契約画廊として、1949年に最初の個展を開催、1950年代末まではパトロン的存在でもあった。ハノーヴァー画廊は特に彫刻の紹介に力を注ぎ、イギリスの彫刻家レッグ・バトラー( Reg Butler.)やエドゥアルド・パオロッツィ(Eduardo Paolozzi, 1924-2005)を始め、アルベルト・ジャコメッティ(,Alberto Giacometti, 1901-1966)、マリノ・マリーニ(Marino Marini, 1901-1980)などの個展を開催する一方、デュシャン、エルンスト、マン・レイ、マグリットといったシュルレアリストの個展や作品展も開催している。そのハノーヴァー画廊が、1965年から1968年にかけてパリとニューヨークでニキ・ド・サンファル(Niki de Saint Phalle, 1930-2002)の個展を開催していたイオラス画廊の協力を得て、1968年10月2日から11月1日までの日程で、ロンドンでの初めての個展を開催する。それに合わせて刊行されたのがこのアーティスト・ブックで、テキストは一切無く、黒地を背景に、ニキの代表的なモチーフがシルクスクリーンによる鮮やかな色彩で印刷されている。印刷を行なったのは、ミラノに工房を持ち、1960年代後半から70年代初頭にかけて、イオラス画廊やハノーヴァー画廊の図録の印刷を手掛けたセルジオ・トシ(Sergio Tosi)(註:2)である。

●作家:Niki de Saint Phalle(1930-2002)
●種類:Artist's book
●題名:Nki de Saint Phalle
●サイズ:208x165mm
●技法:Silkscreen
●発行:Hanover Gallery, London
●印刷:Sergio Tosi, Milan
●制作年:1968
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註:
1.年譜などによると、エリカ・ブラウゼンは1908年、ドイツの中西部の都市デュッセルドルフ(Düsseldorf)に生まれる。1930年代にナチが勃興すると、パリに向うためにドイツを去る。パリの書店で働きながら現代美術の展示を行なう。そのとき友人となったミロに連れられ、地中海西部のバレアレス諸島中の最大の島、マヨルカ島(Mallorca)に行き、そこで作家や芸術家で賑うバルを経営する。スペイン市民戦争中は、友人のユダヤ人や社会主義者たちの脱出を助けるためにアメリカ海軍と連絡を取り合い、自らも漁船に乗って逃れる。そして第二次世界大戦が始まったとき、一文無しでロンドンに辿り着く。ロンドンで旧友たちと再会、小規模や展覧会を企画するが、ドイツ人として働くことは困難で、同性愛者との結婚によって身分の保証を得、ロンドンで名声を得ていたリドファン画廊(Redfern Gallery)で画商としての一歩を踏み出す。1946年にアメリカの富豪の銀行家で画廊のオーナーであるアーサー・ジェフレス(Arthur Jeffress)出会い、彼から資金援助を受け、1948年、自らの画廊を開く。

2:同じ年の6月から8月にかけて開催されたマグリットの彫刻展の図録として刊行された折り本形式の「The Eight Sculptures of Magritte」の印刷もセルジオ・トシが行なっている。
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by galleria-iska | 2012-12-24 18:13 | 図録類 | Comments(0)
2012年 12月 20日

デイヴィッド・ホックニー回顧展図録「David Hockney A Retrospective」(1988)

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これは1988年から1989年にかけてロサンゼルス郡立美術館(Los Angeles County Museum of Art)、テイト・ギャラリー(Tate Gallery)、メトロポリタン美術館(Metropolitan Museum of Art)を巡回したデイヴィッド・ホックニー(David Hockney, 1938-)の回顧展の図録(註1)であるが、ここで注目したいのは、図録の内容ではなく、巻末に付けられた目次にも記載されていないホックニーのオリジナル・プリントである。この図録のカバーのそで(Front flap)に載せられた紹介文に目をやった人はいるだろうか。以下引用:
「A particular feature of this book is the 24-page section of original prints, specially made by Hockney himself as an integral part of the book - a bonus for the reader and a collector's item for the future 」
このオリジナル・プリントは、ホックニーがこの図録のために、1986年にカラー・コピー機(Canon P.C.25, Canon N.P.3525, Kodak Ektaprint 225F)を用いて制作した“ホーム・メイドプリント(Home made print)”(註2)の手法で特別に制作したもので、タイトルページと自身の解説を含む、24ページからなる歴としたオリジナル作品で、リトグラフで印刷されている。その出来栄えは、単なる図録のおまけというものではなく、一連の“ホーム・メイド・プリント”と比べても全く遜色ない。この部分だけ取り外し、好みの装丁を施して製本すれば、ホックニーのオリジナル版画集、あるいはアーティスト・ブックとして愉しむことも可能である。

しかしながら、このホックニーの善意の目論見は、“ホーム・メイド・プリント”がかなりの高額で流通しているのにも拘らず、また発行部数が大量(59000部)であるという点を差し引いたとしても、現時点では正当な評価を得ているとは言えない。古書店では他の一般的なホックニーの図録や画集と同じ扱いを受けており、オリジナル・プリントの評価が全く加えられていないように思われるし、ネット・オークションでも数千円も出せば購入することができる。果たせるかな、それらの案内でオリジナル・プリントに言及しているもは皆無であり、どうみても図版の一部としか見ていないようである。そしてこのことは日本国内だけの話ではなく、アメリカやイギリスでも全く同じである。やはりそこには“時間の壁”が大きく立ちはだかっているのかもしれない。

●作家:David Hockney(1937-)
●種類:Catalogue with a section of the 24 pages of original prints
●題名:Commercial printing is an artist's medium
●図録:286x270mm
●サイズ:280x260mm(280x520mm)
●技法:Lithograph
●限定:59000
●発行:Los Angeles County Museum of Art & Thames & Hudson, Los Angeles & London
●印刷:Gardner Lithographics, Los Angeles
●制作年:1988
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註:
1.
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この図録の日本語版が同年、リブロポートから「ホックニー画集―ひとつの回顧」(ロナルド・B. キタイ著、西野 嘉章訳、定価12000円 )として刊行されている。

2.
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ホックニーのホーム・メイド・プリントのカタログ・レゾネ「David Hockney:Home Made Prints」Self-published in conjunction with a 1986 exhibition at New York's Andre Emmerich Gallery. Ptinted in Switzerland by Waser Druck, Zurich, 280x219mm
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by galleria-iska | 2012-12-20 20:48 | 図録類 | Comments(0)
2012年 12月 16日

ニキ・ド・サンファルのアーティスト・ブック「Niki Nanas」(1966)

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以前ポスターを取り上げたことがある1965年のパリのイオラス画廊(Galerie Alexandre Iolas)での展示に続き、1966年にニューヨーク市のイオラス画廊(Alexander Iolas Gallery)で“ナナ”をテーマに開催された個展に合わせ刊行されたニキ・ド・サンファル(Niki de Saint Phalle, 1930-2002)のアーティスト・ブック(Artist's book)。表紙はニキのオリジナル・デザインでリトグラフで制作されている。中にはニキが四体の“ナナ”彫刻の下絵として制作した別刷りのオリジナル・リトグラフ四葉が差し込まれているが、これらのリトグラフは、”ナナ”をモチーフにした最初期の版画作品であり、“ナナ”制作のコンセプトを示すものとして興味深い。表紙とリトグラフの制作はパリのムルロー工房。テキストはニキとジャン・ティンゲリーの友人で、レンブラントやフェルメールから現代美術までの著作がある美術評論家のピエール・デカルグ(Pierre Descargues, ?-2012)。

●作家:Niki de Saint Phalle(1930-2002)
●種類:Artist's book
●題名:Nki Nanas
●著者:Pierre Descargues
●サイズ:215x169mm(Lithographs:210x164mm)
●技法:Lithograph
●発行:Alexander Iolas Gallery, New York
●印刷:Mourlot
●制作年:1966
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                  『Samuela』
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                  『jane』
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                  『Rosy』
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                  『Black Clarice』
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by galleria-iska | 2012-12-16 18:33 | その他 | Comments(0)
2012年 12月 11日

菅井汲の版画集「Dessins 1957-1960」(1961)

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版画家としての菅井汲(Kumi Sugai, 1919-1996)の出発点は、1955年に自身の油絵をもとに制作したリトグラフ「赤い鬼(Diable Rouge)」であるが、短期間のうちにリトグラフの手法を身に付けた菅井が、当時ヨーロッパを席巻したアンフォルメルの流れの中で最初に試みたのは、カリグラフィックな側面を持つ抽象でありながらも、“漢字”の表意性に想を得たかに思える性的な形象によって、今も日本の農村部に残る人間の根源的な生の姿を表象するものであった。そのことは、表現者としての自己を確立する上で不可欠な日本人としてのアイデンティティと深く結びついており、菅井のデザイナーとしての経験とも無縁ではないように思える。

その菅井がヨーロッパの文脈との出会いによって1957年に制作したのが、フランスの詩人で美術評論家のジャン=クラレンス・ランベール(Jean-Clarence Lambert, 1930- )の詩とのコラボレーション『果てしなく探求(La Quete sans Fin)』であった。出版を行なったは、パリを拠点に制作を行なう現代美術作家にスポットを当てて紹介するポケットサイズ(185x140mm)の画集「ポケット美術館(Le Musée de poche)」(1955-1965)や現代美術に焦点を当てた美術雑誌「OPUS INTERNATIONAL」(1967-1995)の発行元であったパリのジョルジュ・フォール出版(Georges Fall-Éditeur)で、ランベールはこのコラボレーションの発表に翌年に、「ポケット美術館」のシリーズの一冊として、菅井を含むパリで活動する若手の作家16人を取り上げた「若きエコール・ド・パリ 2(La jeune école de Paris, II) 」を執筆している。そして1960年、日本とも馴染み深いシュルレアリスムの作家アンドレ・ピエール・マンディアルグ(André Pieyre de Mandiargues, 1909-1991)が、同じシリーズの中で、菅井汲の最初のモノグラフィーとなる「Sugai」を著わしている。ジョルジュ・フォール出版はその翌年、今度は、菅井のリトグラフの連作版画集として、16葉のリトグラフを収めた「デッサン 1957-1960(Dessins 1957-1960)」を出版、序文をマンディアルグが担当している。この版画集は、菅井の版画目録にも掲載され、2003年にロンドンのサザビーズの版画オークションで2160ポンドで落札されるなどして、菅井の版画集として認知されているが、「デッサン」というタイトルが災いしてか、古書店によっては画集として販売しているところもあり、手元にあるものも、ドイツの古書店からサイン入りの画集として購入したものである。この版画集に収められた作品は、菅井が1950年代後半から60年代の前半に制作した版画作品の着想を描きとめた下絵とも言えるもので、菅井の初期の版画スタイルを概観することができる。

●作家:Sugai Kumi(1919-1996)
●題名:Dessins 1957-1960
●著者:Andre Pieyre de Mandiargues
●サイズ:434x345mm(Folio), 432x342mm(Format)
●技法:Lithograph
●限定:140
●発行:Georges Fall-Editeur, Paris
●印刷:Georges Fall-Editeur, Paris
●制作年:1957~1960
●目録番号:28-43
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二段目、三段目左端の作品は横位置の構図
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目録番号34、限定5部の和紙刷りのものには、刷り込みの署名(SU 1959)とは別に、イメージの真下に鉛筆による署名がある。
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by galleria-iska | 2012-12-11 18:03 | その他 | Comments(0)
2012年 12月 06日

デイヴィッド・ホックニーのポスター「Ashmolean Museum Oxford」(1981)

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前回取り上げたデイヴィッド・ホックニー(David Hockney, 1937-)のポスターの記事に関連して、もう一点ホックニーのポスターを取り上げてみようと思う。このポスターも30年ぐらい前にロンドンのピーターズバーグ・プレス社から取り寄せたもののひとつで、当時はホックニーとオペラとの関係など露ほども知らず、軽妙なタッチで描かれた時代がかった衣装を着た人物たちに、童話にも似た懐かしさを覚えたように思う。それから10年後の1992年から翌年にかけて日本各地を巡回した「ホックニーのオペラ展」を目にし、ホックニーが舞台美術の分野でデザイナーとしての力を発揮したことを知った次第。このポスターは、ホックニーがイギリスのグラインドボーン・フェスティヴァル・オペラ(Glyndebourne Festival Opera)の依頼によって、ウィリアム・ホガースの版画集をもとに、W.H. オーデンとチェスター・コールマンの台本、イゴール・ストラヴィンスキーの音楽による18世紀の放蕩者の転落の描いたオペラ「放蕩息子のなりゆき」のために考案した舞台セットと衣装デザインを展示する展覧会の告知用ポスターである。ポスターには、「放蕩息子のなりゆき」の緞帳のドローイングにミラノのスカラ座のためにステージ部分を描き足したドローイングが使われている。このオペラの舞台美術に関しては、ホックニーが自己の体験をもとに制作、1963年にアレクト出版から出版した同名の連作版画「The Rake's progress」が伏線的な役割を果たしていることは承知の通りである。

●作家:David Hockney(1937-)
●種類:Poster
●サイズ:953x758mm
●題名:An Exhibit Of Costumes, Drawings & Set Designs Ashmolean Museum Oxford
●技法:Offset
●発行:Petersberg Press, London
●制作年:1981
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「ホックニーのオペラ展」図録、1992年、毎日新聞社
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オペラ「放蕩息子のなりゆき」のためのセットデザイン
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「放蕩息子のなりゆき」のための緞帳のデザイン

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by galleria-iska | 2012-12-06 20:05 | ポスター/メイラー | Comments(0)