ガレリア・イスカ通信

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2013年 07月 20日

デイヴィッド・ホックニーの公演プログラム「UBU ROI」(1966)

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1962年にロンドンの王立美術大学を首席で卒業したデイヴィッド・ホックニー(David Hockney, 1937-)は、早くも四年後の1966年に、ロンドン王立劇場(The Royal Court Theatre)からシュルレアリスムの演劇や美術に多大なインスピレーションを与えたアルフレッド・ジャリ(Alfred Jarry, 1873-1907)の戯曲「ユビュ王(Ubu Roi, 1896)」(註1)のための舞台装置と衣装のデザインを依頼されている。アカデミックな表現に囚われない自由な具象表現の可能性を模索しつつ、国際的な版画展での受賞を機に、版画家としても頭角を現し始めていたホックニーは、この年、エッチングによる最初の連作「放蕩者のなりゆき(The Rake's Progress)」(1961年~1963年制作)に続く二作目のエッチングの連作「カヴァフィの14編の詩のための挿絵」の制作に取り掛かっており、「ユビュ王」とこの仕事を、ロサンゼルスとロンドンを行き来しながら、同時進行で進めている。「ユビュ王」はホックニーが本格的に舞台美術に取り組んだ最初の試みであり、ホックニーはそのことについて、1976年に出版された自伝的画集「David Hockney by David Hockney」の中で次ぎのように語っている:以下引用
《Ubu Roi was the first of two things I've designed for the stage - the second was Stravinsky's The Rake's Progress, in 1975. I was aked by the director of Ubu Roi, Ian Cuthberson, if I'd design it. I knew Alfred Jarry a little bit; I'd even read the play before, but I didn't really remember too much about it. So I agreed to do it when I read it again. You can invent lots of things because Jarry gives lots of instructions: Don't bother about scenery, just put a sign up saying 'Polish Army'; and that really appealed to me. And some of the sets are just like that. The Polish Army was just two people, and we tied a banner round them, and it just said 'Polish Army'. It was fun doing it. Campared to The Rake's Progress later, it was much simpler, a simpler concept.

When I was asked to do it, I remember I put up a little resistance, saying I didn't think I could. After all, in paintings before that I had been interested in what you might call theatrical devices, and I thought that in the theatre, the home of theatrical devices, they'd be different, the wouldn't have quite the same meaning as they do in painting, they wouldn't be contradictory - a theatrical device in the theatre is what you'd expect to find. So I agreed to do it without knowing how to do it. I made drawings. I took each and make a drawing of it. They worked from those.

The concept was basically very simple: little painted backdrops, much smaller than the stage. They were like big paintings, about twelve feet by eight feet. They dropped down with big ropes on them, like a joke toy theatre, and on one of them there was a big rope falling down the side on the the stage. I said why have you put that there? And they said It's in the drawing. And in the drawing I'd drawn a line ike that and then corrected it to draw the straight edge. My god, they're just so literal, I could believe it. But then I realized that's how scene painters work; they just copy exactly what you do. It was very enjoyable, working on the play. I did the custumes. It was a thing where you could invent all kinds of things. For instance, for the parade ground, when the characters come on, they each carried a big letter, and they put them down on the stage, and it spelt 'Parade Ground'. This was consistent with Alfred Jarry saying Don't bother about scenery. 》from "David Hockney by David Hockney"edited by Nikos Stangos, published by Thames and Hudson, 1976, PP 103

これはロンドン王立劇場での公演プログラムで、ホックニーはエッチングの画面を彷彿させる表紙のデザインとタイトルページ用の挿絵を一点制作している。

●作家:David Hockney(1937-)
●種類:Program
●サイズ:221x141mm
●技法:Letterpress
●発行:The Royal Court Theatre
●印刷:G.J.Parris Ltd., London
●制作年:1966
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1992年から1993年にかけて日本各地を巡回した「ホックニーのオペラ展」の図録
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年譜より


註:
1.
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1940年代に出版された「ユビュ王」の書影
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by galleria-iska | 2013-07-20 13:27 | その他 | Comments(0)
2013年 07月 09日

パウル・ヴンダーリッヒのリトグラフ「Geflügelter Augenzahn」(1983)

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今回取り上げるのは、ヴンダーリッヒが1983年に制作したリトグラフ「Geflügelter Augenzahn(羽を付けた犬歯、もしくは糸切り歯)」。この作品はヴンダーリッヒがオッフェンバッハの版元フォルカー・フーバー出版のオーナー、フォルカー・フーバー氏に献呈したもので、同氏から譲っていただいたものである。この作品を特徴付けるのは、なんと言っても、江戸時代にはベロ藍と呼ばれ、北斎の「富嶽三十六景」に効果的に用いられたプルシアンブルー(紺青)による深みのある画面空間であり、その中に七色に彩られた羽や純白の歯が幻想的に浮かび上がり、妖気さえ漂わせる。限定は210部と決して少なくはないが、早くに絶版となり、ドイツ国内でも滅多に(?)現れないようである。

モチーフとなっているのは犬歯であるが、ドイツ語で上顎の二本の犬歯を意味する《Augenzahn》という言葉は、“目”を意味する《augen》と歯を意味する《Zahn》から成っており、それは、上顎の犬歯が目の下に位置し、その神経が目とつながっていると考えられていたことに由来するらしい。ヴンダーリッヒはそのことを示すために、流麗なフォルムで描かれた犬歯の頭部に、こちらをじっと見据える目を描き入れている。また上方には、糸を仄めかす一本の線が何かの輪郭に沿うように描き込まれている。この作品の画面は二重構造になっており、内側の画面の縁取り(フレーム)になっている古びて傷んだ紙を思わせる意匠は、ヴンダーリッヒが1950年代末から60年代の前半に制作したリトグラフに遡ることが出来る。それはベルギー出身の画家で彫刻家のジャン=ミッシェル・フォロン(Jean-Michel Folon, 1934-2005)の水彩画との共通性が見られ、フォーマットの内側にもう一つ別のフレームを設定することで、騙し絵的な視覚作用をもたらし、非現実世界への扉を開く。それによって我々の精神は現実世界の軛から解放され、作家のヴィジョンにリアリティーを見い出すのである。フォロンの場合は縁が切り揃えられていない水彩画用紙の形状を用いており、ヴンダーリッヒは縁が焼け焦げたような紙とか縁が磨かれていない石版画用の石灰石の形状から想を得たフレームを用いている。この作品ではその手法を復活させており、さらにフレームの外側にも描画を加えている。

この作品の前身とも言える作品が1980年に制作されている。それはマルチプル作品のデザインを作品化した「Entwurf eines Porzellangefäßes in Forum eines Zahnes/Design of a porcelain vessel in the form of a tooth 」(C.R.619)というリトグラフであるが、そのモチーフを特異とする構図の中に取り入れたものが、この作品である。

●作家:Paul Wunderlich(1927-2010)
●種類:Lithograph + rainbow printing(Irisdruck)
●題名:Geflügelter Augenzahn
●サイズ:758x560mm
●限定:210 + 10 e.a.
●紙質:B.F.K. Rives
●発行:Edition Volker Huber, Offenbach am Main
●印刷:Matthieu Dielsdorf, Zürich
●制作年:1983
●目録番号:C.R.697
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オッフェンバッハの版元フォルカー・フーバー(Volker Huber)氏への献辞
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ヴンダーリッヒの署名
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図版:スイスの版画工房(Matthieu Dielsdorf)で同作品を制作するヴンダーリッヒ。1987年に60歳を記念してシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州立美術館(Schleswig-Holsteinisches Landesmuseum)で開催された展覧会「Paul Wunderlich Graphik und Multiples 1948-1987」の図録掲載の写真
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図版:作品の詳細:図録収録の版画目録(Werkverzeichnis der Druckgraphik 1983 bis 1987)より






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by galleria-iska | 2013-07-09 21:12 | その他 | Comments(0)
2013年 07月 07日

パウル・ヴンダーリッヒのリトグラフ「Portraits für Harenberg」(1985)

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1973年にドルトムントで創業した出版社ハーレンベルク(Harenberg Kommunikation, Dortmund )は1985年、同社の人気シリーズであるポケットサイズの叢書《Die bibliophilen Taschenbücher 》の第470巻として、パウル・ヴンダーリッヒ(Paul Wunderlich, 1927-2010)の画集「Paul Wunderlich: Metamorphosen」(註1)を刊行した際、ヴンダーリッヒの署名入りのリトグラフ一葉を附した四種類の豪華版(a,b,c,d,各250部)も同時に刊行、ヴンダーリッヒは豪華版用に四点のリトグラフ《Portrait I~IV》を制作している。その四点のリトグラフを一枚の用紙に刷り込み、署名を入れたのがこの作品「Portraits für Harenberg」なのだが、実際は未裁断のものと考えるのが正しいようである。

ヴンダーリッヒは1972年にパリのベルクグリューン画廊(Galerie Berggruen, Paris)で行なった個展の際にも、図録の表紙のために四点のリトグラフを一枚の石板を使って制作しており、その四点のリトグラフを一枚の用紙に刷ったものに署名し作品「Katalogumschlag」として発表している。この作品「Portraits für Harenberg」では、遊び心も交えながら、エアーブラシで描画された四点の肖像画のまわりにエスキースやメモのようなものを描き加えることで、ひとつの“作品”としての成立を図っている。そしてスイス製のツァーカル紙(ZERKALL-BÜTTEN )を用いて摺刷されたものの中から、作家手持ち用として25部に署名を入れたのである。豪華版用のものは、画面下に署名を入れるスペースだけを残し、残り三辺は境界線に沿って切り離され、描き加えた部分は破棄された。

リトグラフの刷りは、ヴンダーリッヒが1984年から利用するようになった、スイスはベルン州の都市トゥーン(Thun)に工房を構え、自身も版画家であり画家としても活動している刷り師のエルンスト・ハンケ(Ernst Hanke, 1945-)が行なっている。ハンケはヴンダーリッヒの版画目録第二巻「Paul Wunderlich: Werkverzeichnis der Druckgraphik 2:1984-2004」(Edition Volker Huber, 2005)の編者でもある。

●作家:Paul Wunderlich(1927-2010)
●種類:Lithograph
●題名:Portraits für Harenberg
●サイズ:637x488mm
●限定:25 e.a.
●紙質:ZERKALL-BÜTTEN / ZERKALL MOULD MADE
●印刷:Ernst Hanke, Thun
●制作年:1985
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ヴンダーリッヒの自画像かと思われる。


註:
1.Paul Wunderlich: Metamorphosen. Ein Querschnitt durch das Werk. Kommentiert von Hans Holländer(Die bibliophilen Taschenbücher ; Nr. 470) Harenberg Kommunikation, Dortmund , 1985
同じ年、妻で写真家のカリン・シェケシー(Karin Székessy, 1938-) の写真集もこの出版社から刊行されている。
Karin Székessy: Mädchen im Atelier Mit einem Nachwort von Max Bense(Die bibliophilen Taschenbücher ; Nr. 465) Harenberg Kommunikation, Dortmund , 1985
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by galleria-iska | 2013-07-07 13:55 | その他 | Comments(2)