ガレリア・イスカ通信

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2014年 03月 18日

キース・ヘリングのアーティスト・ブック「Keith Haring」(1982)

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キース・ヘリング(Keith Haring, 1958-1990)は1982年、ニューヨークのトニー・シャフラジ(Tony Shafrazi Gallery, New York)で個展を開催し一躍脚光を浴びる存在となるが、その前年に "Beards Fund"という基金からの資金援助を受け、1980年から1981年にかけて制作したモノクロのドローイングをまとめたブックレット・タイプのドローイング集を"Appearences Press"名義で出版している。ヘリングはそこでその後の主要なイメージとなる人、犬、空飛ぶ円盤、ピラミッドなどを、現代社会における性や暴力、テクノロジーの有様と絡めながら、漫画的な構成を用いて描いているのだが、全体を通して見ると、ヘリングの宗教的認識、もしくは宗教観を示すような何らかの啓示的内容を含んだ物語に仕立てられているように見える。

今手元にあるものは1982年に刊行された第二版で、現代美術の版元で1981年にヘリングが参加したグループ展を開催したブルック・アレクサンダー画廊(Brooke Alexander, Inc., New York)が資金協力に加わっている。ヘリングの年譜には、1981年の自主出版のものについては記載がなく、第二版が刊行された最初の作品集『Drawings: Keith Haring– Appearances Press』として紹介されている。

●作家:Keith Haring(1958-1990)
●種類:Artists' book
●題名:Keith Haring(2nd edition)
●サイズ:140x110mm
●技法:Offset
●発行:Appearances Press, New York
●制作年:1982

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第二版のタイトルページ
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初版のタイトルページ(部分)







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by galleria-iska | 2014-03-18 18:56 | キース・へリング関係 | Comments(0)
2014年 03月 17日

ジャック=アンリ・ラルティーグの写真集「Les Femmes aux Cigarettes」(1980)

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煙草を吸うお姉さんは好きですか? 学生の頃、年に何度か大枚を叩いて、ジャズマニアの友人たちと海外のジャズプレイヤーの来日公演を聴きに出掛けた。ジャズクラブでの演奏ではないので会場は勿論禁煙。休憩時間になると皆一斉にロビーに出て煙草を吸い始めるのだが、そこに来ているお姉さんたちが、日頃目にする女子学生とは比べものにならない美人ばかりで、大人の女性とはこういうものかと、しばし映像を観るような感覚で見入ってしまった。彼女たちは大抵音楽関係の殿方と連れ立って来ており、本当にジャズが好きかどうかは分からず、見得張りの殿方のお飾り的な存在だったかもしれないが、その彼女たちがこぞって煙草に火を付け、ためらいもなく鼻からスゥーと煙を吐き出す姿に目を瞠ると同時に、同じ空間に居ながらも、益々こちら側とあちら側という二つの世界の隔たりを感じてしまった。ジャズといえば、煙草はもちろん、酒やコーヒーも付き物で、それらは詩や文学、演劇や映画にとっても欠かすことの出来ない小道具となっている。そのどれもやらない自分は、人生の悦楽の大部を経験せず、実にのっぺりした人生を歩んで来てしまったのかもしれない。

若い女性が煙草を薫らせる姿を捉えた写真というと、アメリカ出身の写真家ウィリアム・クライン(William Klein, 1928-)による二枚のファッショナブルな写真「Quelques Femmes au Hasard」(1974 & 1978)が思い出されるが、女性の喫煙は、男のそれが仕事と深く結びついているのとは異なり、挑発的であったり、幻惑的であったり、また妖艶さを漂わせたりと、ある種のセックスアピールのようにも映る。本題に移ろう。アールデコ華やかなりし1927年(註1)、紙巻煙草を吸い始めた女性の姿は男性の目には奇妙で不思議な光景として映ったようである。フランスの裕福な家庭に生まれ、8歳のころから自分のカメラで写真を撮り出した偉大なアマチュア写真家ジャック=アンリ・ラルティーグ(Jacques-Henri Lartigue, 1894–1986)もその一人で、彼はその年、数ヶ月に渡って、流行の最先端にいた人気の踊り子や女優たちを楽屋裏に訪ね、彼女たちの煙草を吸う姿を撮影した。この小型サイズの写真集は、ラルティーグがそれから半世紀経った1980年に、自ら撮影した写真96点を選んで出版したもの。御年86歳の時のことである。写真集には、楽屋という十分な光量が得られない場所での低感度フィルムを使っての撮影のためであろう、ピントが甘く手ぶれの写真がいくつも見られるが、その方が却って、ピントの合った写真にはない、幻想的な画像となって、煙草を燻らせる女性の謎めいた雰囲気を引き出しているように思える。

●作家:Jacques-Henri Lartigue(1894-1986)
●種類:Photograph
●題名:Les Femme aux Cigarettes
●著者:Jacques-Henri Lartigue
●サイズ:164x164mm
●技法:Offset
●発行:The Viking Press, New York
●制作年:1980
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雑誌『ライフ(LIFE)』のカメラマン、ヘンリー・グロスキンスキー(Henry Groskinsky, 1934-)によるラルディーグの肖像写真
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註:
1.この年のアメリカでは、ジャズエイジという言葉に表されるようにジャズが時代の音楽となり、享楽と消費という都市文化が大きく発展する中、世界初のトーキーと言われている『ジャズ・シンガー』(The Jazz Singer)が公開され、人気を博した。
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by galleria-iska | 2014-03-17 20:51 | その他 | Comments(0)
2014年 03月 09日

アルベール・デュブーのメニュー「Au Mouton de Panurge」(1955)

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素人の味覚に迎合した昨今の表層的な美食(グルメ)ブームはさておき、それを美学にまで高めることはそれなりの素養と哲学を要する。無趣味で浅学非才の自分には縁遠い世界であるが、それに対して食を欲望として捉える言葉がグルマンというらしい。集合的にはグルメはグルマンに含まれるのであろうか。自分のグルマン的経験と言えば、子供の頃にもうこれ以上食べることが出来ないというまでカレーライスを食べ続けたことぐらいであろうか。食べるのを止めた途端、呼吸困難となり、死の恐怖とともに、食べ過ぎて死ぬこともあるのだと悟った。1974年に日本でも公開されたフランス・イタリア合作の喜劇映画「最後の晩餐(La Grande Bouffe)」(1973)を公開当時、邦題に釣られて観に行ったことがある。実際は池袋の三番館で観たサテリコンの酒池肉林にも一脈通じる食欲と性欲、それにスカトロジーを交え繰り広げられる、退屈な生活と満たされない欲望に疲れた中年男四人の自殺劇を描いた作品であった。映画通ではない自分はマルチェロ・マストロヤンニ以外の配役(ウーゴ・トニャッティ、ミシェル・ピッコリ、フィリップ・ノワレ、アンドレア・フェレオル)は知らず、却って演技を超えた生々しさを感じた。そして本当に登場人物たちは食べるだけ食べて死んでいった。因みに監督・脚本は「ひきしお」のマルコ・フェレーリ、撮影はマリオ・ヴルピアーニ、音楽はフランス映画音楽界の巨匠で、「ひきしお」の音楽も担当したフィリップ・サルド。この作品は1973年の第26回カンヌ映画祭に出品され、スキャンダルを巻き起こしたものの、国際批評家連盟賞を受賞している。

美食と大食を兼ね備えた主人公が登場する物語の元祖と言えば、フランス・ルネサンス期の人文主義者で作家、医師でもあったフランソワ・ラブレー(François Rabelais, 1483?-1553))が著した中世の騎士道物語のパロディー『ガルガンチュワ物語』と『パンタグリュエル物語』である。その『パンタグリュル物語』第四之書の第八章に登場する、パンタグリュルの従者パニュルジュが自分を侮った商人の自慢する羊を買い取って海に投げ込むと、他の羊達がぞろぞろ後を追って海へ飛び込んで溺れ死ぬというエピソードに依拠する、"Mouton de Panurge” (パニュルジュの羊=訳も分からず付き従うの意) という諺的言葉に由来する店名で1949年パリに創業したレストラン「Au Mouton de Panurge」(1977年焼失)には、ラブレーと(生まれ故郷の)ラ・ドヴィニエール友の会の美食家本部(siège gastronomique officiel de l'Association des amis de Rabelais et de La Devinière/Official gourmet headquarters of the Association of Friends of Rabelais and La Deviniere.)が置かれていた。

これはその1955年1月24日のメニューとして発行されたもので、レストランの壁画を担当したフランスの人気漫画家で挿絵画家のアルベール・デュブー(Albert Dubout, 1905-1976)が挿絵を手掛けており、壁画をもとにした表紙絵には中世の出で立ちで酒宴を繰り広げる巨人で大食漢のパンタグリュル一行が面白可笑しく描かれている。この構図自体は、1937年にデュブーが挿絵を担当した『パンタグリュル物語』の挿絵にもとづいているようである。

●作家:Albert Dubout(1905-1976)
●種類:Menu
●サイズ:252162mm(252x325mm)
●技法:Line block(?)+stencil(pochoir)
●発行:Michel de Bray, Paris
●印刷:Lucien Caillé
●制作年:1955
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レストランを訪れた各界の名士たちの署名(刷り込み):この年フランス・アカデミー会員になったジャン・コクトーや彼の愛人とされるジャン・マレーを始め、オーソン・ウエルズ、マルティーネ・キャロル、エロール・フリン、リタ・ヘイワース、スージー・ドゥレール、エドウィジュ・フィエール、、クラーク・ゲーブルといった映画・演劇界の著名人や歌手のエディット・ピアフ、作家のピエール・マック・オルラン、医師のアルベルト・シュヴァイツァー博士らの名も見える。
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by galleria-iska | 2014-03-09 18:21 | その他 | Comments(0)