ガレリア・イスカ通信

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2014年 07月 31日

長谷川潔のアクアチント「Anémones et fleurs des champs dans un verre à facettes 」(1944~45)

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メゾチント(マニエール・ノワール)を復活させ、ビュランの名手でもあった長谷川潔(Kiyoshi Hasegawa, 1891-1980)は、アクアチントでも代表作とも言える傑作をものにしている。そのひとつが、第二次世界大戦終結直後の1945年10月にフランス西部の都市アンジェのジャック=プチ出版(Éditions Jacques-Petit, Angers)から290部限定で出版された版画集『銅版画(Le Gravure sur Cuivre)』所収の「花:切子ガラスに挿したアネモネと草花(Fleurs:Anémones et fleurs des champs dans un verre à facettes )」である。1991年に京都国立近代美術館の収蔵品目録[III]として刊行された『長谷川潔』所収の年譜によると、
1945年(昭和20年)-54歳、フランス現代作家5名とともに各自異なる技法による銅版画を制作し、国立図書館版画部のアデマル(Jean Adhémar)の紹介文を付した限定版画集『銅版画("Le Gravure sur Cuivre")』第1巻がアンジェ(Angers)のジャック・プチ(Jacques Petit)書房から出版されたが、独伊敗戦の結果同胞とともにパリの中央監獄及びドランシイの収容所(Camp de Drancy)に次々に収監され、版画集も収容所で署名する。病弱の身体で苦難を味わうが、フランス知人有力者の尽力により約1ヵ月後無事出所する。7月に帰宅後も、ある期間警察に出頭、絶えず看視される生活を続け、心身ともに疲労しほとんど制作を停止する。
とある。第二次世界大戦の最中に企画されたこの版画集、6人の作家がそれぞれ得意とする銅版画の技法を活かした表現-長谷川潔のレース模様をそのまま銅版に写し取ったかのような背景表現は未だに謎に包まれているという-を行なっているのだが、ナチス・ドイツの収奪と戦禍によって経済が疲弊したフランスにおいて、いったいどれほどの部数が売れたのであろうか。

●作家:Kiyoshi Hasegawa (1891-1980)
●種類:Print
●サイズ:250x185mm
●フォーマット:380x280mm
●ポートフォリオ:391x290mm
●題名:Fleurs(Anémones et fleurs des champs dans un verre à facettes)
●技法:Aquatint
●紙質:Marais
●限定:290(註1)
●発行:Editions Jacques-Petit, Angers
●制作年:1944~45
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                 長谷川潔の版上サイン

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版画集『銅版画(Le Gravure sur Cuivre)』の書影。この版画集は、オリジナル版画入りの豪華限定本のシリーズの第1巻として刊行されたもので、ロベール・カミ、ルネ・コッテ、アルベール・デカリス、ロベール・ジャニソン、長谷川潔、ポール・ルマニによる6点の銅版画が収められている。銅版画の印刷は"Le Blanc" と "Delahaye"で行なわれた。当事パリの国立図書館版画部のキュレーターであったジャン・アデマールが銅版画の技法と作家の紹介を行なっている。作家名、作品名、技法は以下のとおり:

1. ロベール・カミ(Robert Cami)........................"Nu", pointe sèche
2. ルネ・コッテ(Rene Cottet).........................."Cyprès de la Villa Adriana", eau-forte
3. アルベール・デカリス(Albert Decaris).............."Apollon et Marsyas", burin
4. ロベール・ジャニソン(Robert Jeannisson)........."La Madela", eau-forte et burin
5. 長谷川潔(Kiyoshi Hasegawa)....................."Fleurs", aquatinte
6. ポール・ルマニ(Paul Lemagny)....................."Moissonneurs", burin

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註:

1.290部の内、最初の50部には決定段階の刷りとリーヴ紙に刷られ作家が署名を入れた第一段階(premier état=first state)の刷りが入っている。長谷川潔の作品について言えば、第一段階には版上サインが入っていない。
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by galleria-iska | 2014-07-31 20:08 | その他 | Comments(0)
2014年 07月 17日

菅井汲のリトグラフ「L'Homme」 & 「La Femme」(1960)

第二次世界戦後のパリを拠点に活動を行なった「新エコール・ド・パリ」呼ばれる抽象系の作家の花形として、1950年代には既に一定の評価を得ていた菅井汲(Kumi Sugai, 1919-1996)は1960年、それまでにリトグラフ工房で習得した制作技術に磨きを掛けるためであろうか、自前のプレス機をパリのアトリエに設置、自身のための作品作りを行なう。菅井はこの年、自らが版元となって8点のリトグラフと1点のエッチングを制作しているのだが、その内7点までがフォーマットが約320x220mmの小品である。

ここで取り上げるのはその内の2点で、「男(L'Homme)」と「女(La Femme)」という、菅井が1957年に既に一度制作したことのある主題であるが、1957年のものと比べると、絵画的な具象性が弱まり、能書的な抽象化が進んでいる。菅井は1950年半ば過ぎから、男性器や女性器を、日本の書の筆触を想起させる抽象表現主義風の手法を用い、情念のようなものを孕みつつも、記号化された形象として数多く描いている(註1)。菅井をこのような主題に向わせた理由は、内々では語られていたのであろうが、議論の俎上に上ることはあまりなく、またエロティシスムを無意識や夢と同様、運動の出発点として捉えていたシュルレアリスムとの関係性についも、同年出版された版画集「デッサン(Dessins 1957-1960)の序文を執筆したシュルレアリスムの作家アンドレ・ピエール・マンディアルグ(André Pieyre de Mandiargues, 1909-1991)とのつながりにおいて論ずる余地は多分にあると思われるのだが。そのシュルレアリスムの活動拠点である国際都市パリにおいては、旧い観念からの脱却を目指すためのスキャンダラスとも言える創造行為が称揚されていたことは1959年に開催された「シュルレアリスム国際展」のテーマが“エロス”であったことからも窺い知ることができる。菅井はシュルレアリスムのそのような観点に着目し、一義的な意味が剥ぎ取られた、性的な表意性が背景に退いた後に残る純粋な形態に見る者の関心を向わせるという方法論によって自らの表現を確立しようとしたのではなかったのだろうか。

二点のリトグラフは同時期に制作されたものではあるが、菅井はそれらを一対の作品として見られぬよう、紙質も限定数も変えている。

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●作家:Kumi Sugai(1919-1996)
●種類:Print
●題名:L'Homme
●サイズ:153x110mm
●フォーマット:315x215mm
●技法:Lithograph
●限定:50
●紙質:B.F.K. Rives
●出版:Kumi Sugai, Paris
●刷り:Kumi Sugai, Paris
●制作年:1960
●目録番号:Hara #50
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●作家:Kumi Sugai(1919-1996)
●種類:Print
●題名:La Femme
●サイズ:153x110mm
●フォーマット:317x217mm
●技法:Lithograph
●限定:75
●紙質:Arches
●出版:Kumi Sugai, Paris
●刷り:Kumi Sugai, Paris
●制作年:1960
●目録番号:Hara #51
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註:

1.菅井の1960年代後半から始まるジオメトリックな方向性を評価していた美術評論家の針生一郎(Ichirō Hariu, 1925-2010)氏はカリグラフィックな様相を見せる画面には批判的であったようで、後に「わたしは絵具を塗りかさねた上をひっかき、黒い大まかな筆触がライト・モチーフを形づくる当時の画面に、炉辺閑話のような日本のフォークロアへの固執と、性的なイメージの暗示を感じて、情緒的な閉鎖性を指摘したことがある。」と現代版画センターの月刊機関紙である「版画センターニューズ」(No.58,1980年6月刊)所収の“現代日本版画家群像 第6回『菅井汲と泉茂』”の中で述べている。
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by galleria-iska | 2014-07-17 13:24 | その他 | Comments(0)
2014年 07月 06日

ジャン・アルプの木版画「Soleil Recerclé」(1966)

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ダダイスムの提唱者のひとりで、シュルレアリスム運動にも深く関わった彫刻家、画家、版画家、詩人のジャン・アルプ(Jean Arp, 1886-1966)の生まれ故郷であるアルザス地方は、古くから交通の要衝として栄え、また豊富な鉱物資源の獲得を巡り、ドイツとフランスとの間で何度も領有権が争われた。現在はフランスの領土となっている。1886年、ドイツ人の子として“街道の街”という意味のアルザス地方の中心都市シュトラースブルク(Straßburg、仏名:ストラスブール)に生まれたアルプの本名はハンス・アルプ(Hans Arp)であるが、1926年にナチス・ドイツに反対してフランス人となり、1940年以降はジャン・アルプと名乗るようになった。アルプは1912年、最初の木版画である「自画像」を表現主義風のスタイルで制作するが、すぐに抽象に向い、その姿勢は亡くなる1966年まで続く。今回取り上げる作品は、シュルレアリスムの作家の詩画集や版画集を手掛けたパリのルイ・ブロデ出版(Louis Broder Éditeur, Paris)から1966年に刊行された詩画集『たがをはめ直された太陽(Soleil Recerclé)』所収の2葉である。十数年前に、ニューヨーク市の美術専門の古書店でばら売りされているのを見つけ、購入したものである。

アルプとルイ・ブロデ出版とのコラボレーションは1956年、設立間もないルイ・ブロデ出版から刊行されたポール・エリュアールの詩集『Un poème dans chaque livre』のための挿絵を一点、モノクロの木版画で手掛けたことに始まる。アルプはその後も詩画集や版画集の制作に参加するが、彼らが残した最大の成果は、アルプ自身の詩集『たがをはめ直された太陽(Le Soleil Recerclé)』であろう。アルプはこの詩集のために20点の木版画を制作している。限定部数は185部で、それとは別に、署名とナンバー入り木版画13点からなる限定60部の版画集も同時に刊行されている。この詩画集の計画時期は定かではないが、アルプは1962年頃から、木版画を制作するに不可欠な、フラットに彩色された紙によるコラージュや同様の彩色を施した木によるレリーフ(図版1,2参照)を制作し、アルプ独特の簡明で有機的な形体による構成を試している。それらを取り上げた展覧会が数年前にニューヨーク市の画廊で行なわれていたことを最近知った。

●作家:Jean Arp(1886-1966)
●種類:Woodcut
●題名:Soleil Recerclé(Page 27)
●サイズ:345x325mm(Format:480x383mm)
●技法:Woodcut
●限定:185(1-150, I-XX, HC)
●発行:Louis Broder Éditeur, Paris
●制作年:1966
●目録番号:Arntz 258(註1)
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●作家:Jean Arp(1886-1966)
●種類:Woodcut
●題名:Soleil Recerclé(Page 43)
●サイズ:270x215mm(Format:480x383mm)
●技法:Woodcut
●限定:185(1-150, I-XX, HC)
●発行:Louis Broder Éditeur, Paris
●制作年:1966
●目録番号:Arntz 262
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図版1:彩色された木によるレリーフ『De continent qui aurait...』1964年~1966年、370x345m
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図版2:彩色された紙によるコラージュ『Gondelor et ses petits...』1962年~1966年、272x213mm




註:

1.アルプの版画作品のカタログ・レゾネは単独では刊行されておらず、ドイツ人の法律家で、20世紀美術の専門家・研究家、またドイツ表現主義のコレクターでもあったヴィルヘルム・フリードリッヒ・アルンツ(Wilhelm Friedrich Arntz (1903-1985) によって編纂され、1974年にドイツの出版社《Verlag Gertrud Arntz-Winter, Haag/Oberbayern》から刊行された『Bibliographie der Werkkataloge zur Kunst des zwanzigsten Jahrhunderts』に他の作家と共に収められている :
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                    『Soleil Recerclé』の図版
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                    同上
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by galleria-iska | 2014-07-06 21:00 | その他 | Comments(0)
2014年 07月 01日

アレックス・カッツ展の招待状「Robert Miller Gallery」(1981~1994)

現代美術の大御所のひとりとなったアメリカの具象画家アレックス・カッツ((Alex Katz, 1927-)は生粋のニューヨーカーで、映画のクローズアップあるいは浮世絵の“大首絵”からヒントを得たのだろうか、顔を大写しで捉えた肖像画で知られるが、彼の1980年代から1990年にかけての契約画廊のひとつであったニューヨーク市のロバート・ミラー画廊で開催された個展(註1)の招待状が幾つか手元にある。日本におけるアレックス・カッツの知名度は1988年に渋谷のシードホール(The Seed Hall)(註2)で行なわれた個展で広まったと思うが、その時作られたアダ夫人の顔の大写しの作品を用いた告知用のポスターが印象に残っている。カッツは版画家としても有名で、友人の木版画家から、彼が1980年代の初めにニューヨークの版画スタジオでアメリカ人作家の制作を手伝っていたとき、カッツが作業の様子をよく見に来ていて、木版画の技法について熱心に尋ねてきた、という話を聞いたことがある。実際、木版画制作の誘いもあったようなのだが、断ったようなことを言っていた。

●作家:Alex Katz(1927-)
●種類:Inviation
●サイズ:Various
●技法:Offset
●発行:Robert Miller Gallery, New York
●制作年:1981~1994

#1:1981年《Alex Katz: From the years 1957 to 1959》, サイズ:200x137mm(200x273mm)
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#2:1984年《Alex Katz: Small paintings from 1950 to the present》, サイズ:153x202mm
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#3:1985年《Alex Katz: An exhibition of recent cutouts》, サイズ:254x202mm(254x606mm)
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#4:1987年《Alex Katz: From the early 60s》, サイズ:145x248mm
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#5:1993年《Alex katz: New cutoutz》, サイズ:243x127mm(243x887mm)
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#6:1994年《Alex Katz: Lamdscapes 1954-1956》, サイズ:178x209mm(355x209mm)
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註:

1.ロバート・ミラー画廊で開催された個展は次の通り:
1979: Cutouts
1981: From the years 1957 to 1959
1984: Small Paintings from 1950 to the present
1985: An exhibition of recent cutouts
1987: From the early 60s
1993: New cutouts
1994: Landscapes 1965-1956
1997: New cutouts

2.渋谷の西武百貨店のシード館10階に設けられた多目的スペースで、1986年から1995年にかけて、現代美術の展覧会、ライヴ・コンサート、演劇、美術系映画の上映などの文化活動を営業企画部の催事として行なった。
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by galleria-iska | 2014-07-01 19:00 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)