ガレリア・イスカ通信

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2015年 01月 31日

ホルスト・ヤンセンの折り本「Die Schweinekopfsülze(2)」(1969)

日本では一般に長編小説『ブリキの太鼓』の作者として知られるドイツの詩人、小説家、劇作家のギュンター・グラス(Günter Grass, 1927-)は、彫刻家、版画家としても名を成しており、日本でも手の込んだ造りの写真集の出版で知られるゲッティンゲンのシュタイデル出版からグラスの銅版画とリトグラフの版画目録『Günter Grass - In Kupfer, auf Stein)』(Catalogue raisonne of the etchings and lithographs of Gunter Grass publisged by Steidl Verlag, Göttingen, 1986)が出版された1986に神奈川県立近代美術館でグラスの版画展『ギュンター・グラス版画展(Graphische werke von Günter Grass)』が開催されている(註1)。

グラスは1929年生まれのホルスト・ヤンセン(Horst Janssen, 1929-1995)よりも二才年上で、ヤンセンのライバルであったパウル・ヴンダーリッヒ(Paul Wunderlich, 1927-2010)と同い年である。年譜によると、グラスは1927年、都市国家、自由都市ダンツィヒに生まれ、10代後半に軍隊と捕虜生活を体験している。1947から翌48年にかけてデュッセルドルフで石工としての見習いを終えた後、1948年から1952年にかけて国立デュッセルドルフ美術大学(Kunstakademie Düsseldorf )で版画と彫刻を学び、1953年から1956年まで国立ベルリン美術大学(Hochschule der Künste Berlin)で彫刻を学んでいる。1956年から翌57年にかけてシュツットガルトとベルリンで彫刻と版画の最初の個展を開催する一方で、詩人として出発。1958年に短編や詩、戯曲を「47年グループ」で発表し評価を受け、1959年に発表した最初の長編小説『ブリキの太鼓』で大成功を収める。

そのグラスとヤンセンの共作としてハンブルクのメルリン出版から発表されたのがこの『豚の頭の肉ジェリー(Die Schweinekopfsülze)』という折り本形式の挿絵本で、メルリン出版の創業者であるアンドレアス・J.マイヤーから饗応を受けたホルスト・ヤンセンが、その感謝の気持ちを表わすために、ヤンセンが色鉛筆で絵を描き、友人のグラスが、「豚の頭の肉ジェリー」という料理を主題に、その料理法を散文詩に綴ったものである。2005年から2006年にかけて日本各地を巡回した『ホルスト・ヤンセン展-北斎への眼差し』にも出品されたこの折り本は前に一度取り上げているが、今回、運良くヤンセンとグラスが署名を入れたものを手に入れることができたので、紹介したいと思う。画像はこちら:

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●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●著者:Günter Grass(1927-)
●題名:Die Schweinekopfsülze
●種類:Leporello(Faltbuch=foldable booklet)
●サイズ:401x135mm(401x538mm)
●技法:Faksimile(Facsimile)
●発行:Merlin Verlag, Hamburg
●制作年:1969(24.1、69)



註:

1.
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図版:日本でも公開された映画「世界一美しい本を作る男―シュタイデルとの旅―』」で紹介されたゲッティンゲンのシュタイデル出版から1986年に出版されたグラスの銅版画とリトグラフの版画目録『Günter Grass - In Kupfer, auf Stein)』(Catalogue raisonne of the etchings and lithographs of Gunter Grass publisged by Steidl Verlag, Göttingen, 1986)
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図版:同じ年に神奈川県立近代美術館でグラスの版画展『ギュンター・グラス版画展(Graphische werke von Günter Grass)』の図録。

グラスの銅版画(エッチング)については1979年に2000部限定で、1972年から1979年かけて制作された146点の作品目録『Günter Grass-Werkverzeichnis der Radierungen』(Galerie Andre-Anselm Dreher, Berlin. 1979)が刊行されており、これが最初の版画目録であろう。シュタイデル出版は2007年に再びグラフの銅版画とリトグラフの版画目録を二分冊『Günter Grass. Catalogue Raisonné. Die Radierungen. Bd. 1』と『Günter Grass. Catalogue Raisonné. Die Lithographien. Bd. 2』で出版している。
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by galleria-iska | 2015-01-31 13:23 | ホルスト・ヤンセン関係 | Comments(0)
2015年 01月 21日

ジョルジュ・ルオーのポスター「Kunsthaus Zürich」(1948)

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二十世紀最大の宗教画家と称されるジョルジュ・ルオー(Georges Rouault, 1871-1958)は1948年、持ち前の頑固さと完璧主義者故に、315点の未完成作を専属契約を交わした画商アンブロワーズ・ヴォラール(Ambroise Vollard、1866-1939)のもとから取り戻し、ボイラーに放り込み焼却してしまう。この時の様子がフィルムに残されている。その年、スイスのチューリッヒ美術館(Kunsthaus Zürich)は4月から6月にかけてルオーの大回顧展が開催。ルオーは展覧会に際し、自ら告知用ポスターをデザイン、恩師モローを初めとする画家や作家の思い出を記した『回想録(Souvenirs Intimes)』(1926年刊)に挿絵のひとつとして制作したリトグラフ『自画像 I(Autoportrait I)』(註1)をもとにした自画像(というよりも版画作品そのものであるが)を墨で描き、その下に次ぎのように記している《Zurich - 1948 d'après l'ancienne lithographie - G. Rouault -》。
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オフセット印刷とリトグラフを併用したポスターの印刷を行なったのは、1950年代にスイスの観光ポスターの印刷を数多く手掛けたチューリッヒの印刷所〈J.C. Müller AG〉である。ルオーは展覧会のためにチューリッヒまで出向き、ポスターの原画を制作したと思われるが、リトポスターの制作には行き着かなかったようである。パントル・グラビュール(画家兼版画家)と呼ばれる作家の多くは、自らの油彩や水彩による絵画作品を版画、特にリトグラフの構図として用いることがしばしばあるが、ルオーはここでは逆に自身のリトグラフを、まるで版画作品の下絵(エスキース)のようなデッサンとして描いている。ルオー自身にリトポスター制作の意図があったとすれば、墨で描かれたそのデッサンはルオーがリトグラフの制作の際に用いる転写紙を使い、石版に転写するつもりのものであったかもしれない。しかしながらルオーのリトグラフ制作は何度も加筆とグラッタージュを繰り返すことから、短い時間でそれをリトグラフとして完成させることは困難であり、墨の濃淡による強いコントラストとデリケートな諧調を見せるデッサンをそのまま活かしてポスターを制作する方向に変更されたと考えられなくもない。そしてそのデッサンの表情をそのまま再現するためにオフセット印刷が用いられたのかもしれない。もうひとつリトポスター制作の意図を窺わせるのが、ポスターの下部に配置された展覧会情報の文字入れである。一見、タイポグラフィーのようにも見えるのだが、実はリト用クレヨンによるものではないかと思われる手書きのレタリングで、実際、リトグラフで印刷されている。

これまでルオーのリトポスターは生前に作られたものを含めて何点か見ているが、いずれもルオーの絵画や版画作品の複製であった。今回のものはオフセット印刷とは言え、ルオーのオリジナルデザインであり、ひょっとすると唯一のものであるかもしれない。

●作家:Georges Rouault(1871-1958)
●種類:Poster
●サイズ:100x70cm
●技法:Offset+lithograph
●印刷:J.C. Müller AG, Zürich
●発行:Kunsthaus Zürich
●制作年:1948

ポスターのイメージを用いた展覧会の図録も作られている。
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図版:展覧会の図録:「GEORGES ROUAULT」(April-June 1948) Texts by M. Morel, R. Wehrli, W. Wartmann. 55, (9)pp., 24 plates. Published by Kunsthaus Zürich, 1948.

註:

1.
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図版:ポスターのもとになったルオーのリトグラフ『自画像(Autoportrait)』1926年制作。ルオーはリトグラフによる自画像を三点描いており、『回想録』所収のもの(Autoportrait I)と同じ年に刊行されたジョルジュ・シャランソルの『ジョルジュ・ルオー、人と作品(Georges Rouault, l'homme et l'œuvre)』(Éditions des Quatre Chemins, Paris, 1926)の豪華版に付けられたもの(Autoportrait II)との混同を避けるために、便宜的にローマ数字が打たれている場合がある。

参考文献:

フランソワ・シャポン、イザベル・ルオー[柳宗玄、高野禎子訳]『ルオー全版画]岩波書店、1979年
気谷誠、増子美穂『ジョルジュ・ルオー 悪の華/回想録』展図録。松下電工汐留ミュージアム、東京、2005年
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by galleria-iska | 2015-01-21 21:22 | ポスター/メイラー | Comments(0)
2015年 01月 05日

菅井汲のポスター「Galerie Creuzevault」(1958)

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1958年11月にパリのクルズヴォー画廊(Galerie Creuzevault, Paris)で開催された菅井汲(Sugai Kumi, 1919-1996)の絵画展の告知用に制作されたオリジナル・リトグラフポスター。ポスターと同時に限定75部の版画作品「冬(L'Hiver)」も制作されている。ポスターと版画の印刷は1923年創業のパリのデジョベール工房(ピカソの初期のリトグラフの刷りを行ったエドモン・デジョベール(Edmond Desjobert, ?-1953)が設立、エドモンの死後、その息子ジャック(Jacques Desjobert)が引き継いだ )である。1960年刊行の版画集「デッサン(Dessins 1957-1960)」所収の一点(1957年作)に近しいフォルムを使い、強い筆致で描かれた画面は、1957菅井と同い年のピエール・スーラージュ(Pierre Soulages, 1919-)の1950年代のそれを想起させるが、菅井が付けた題名との関連性を見つけるのは容易ではない。

バブル時代に一度、クルズヴォー画廊(その頃は娘のコレットが画廊を引き継いでいた)に菅井汲のリトグラフが未だ残っているか問い合わせたことがある。菅井が1971年に制作した「森(Foret)」が二枚残っているとのことだったので注文を出したのだが、パリまで現金を持って取りに来いとの返事に唖然とした。とは言え、好みの作品のひとつであったので、知り合いの画廊に頼んで購入してもらい、日本まで送ってもらった。一枚を知人に譲ったことは覚えているが、後の一枚をどうしたか思い出せない。

●作家:菅井 汲(Sugai Kumi, 1919-1996)
●種類:Poster
●サイズ:674x501mm
●技法:Lithograph
●発行:Galerie Creuzevault, Paris
●印刷:Imprimerie Edmond et Jacques Desjobert, Paris
●制作年:1958
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by galleria-iska | 2015-01-05 13:27 | ポスター/メイラー | Comments(0)