ガレリア・イスカ通信

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2015年 03月 20日

(第8回)シュルレアリスム国際展の図録「Eros」(1959)

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アンドレ・ブルトン(André Breton, 1896-1966)とマルセル・デュシャン(Marcel Duchamp, 1887-1968)によって企画・構成され、1947年にパリのマーグ画廊(Galerie Maeght, Paris)で開催された『第6回シュルレアリスム国際展(Le Surréalisme en 1947: Exposition Internationale du Surréalisme) 』の図録(限定999部)の意表を付いた造りは記憶に残るものであった。表紙はマルセル・デュシャンのオブジェ(註1)で、シュルレアリスムの起源となったとされるギヨーム・アポリネールの演劇『ティレジアスの乳房(Les Mamelles de Tirésias)』(1917年)を想起させる、黒いベルヴェットの布の上に置かれた女性の乳房を模ったもの。裏表紙には、“触ってください(Prière de Toucher)”という冗談めいた言葉が記されたラベルが貼られており、図録の読者に直感的ならざる作品への触覚を誘っている。つまりデュシャンはこのオブジェで、シュルレアリスムの起源に言及しつつ、シュルレアリスムの反道徳的な姿勢を示す重要なテーマであるエロティシズムへの関心を表明しているのである。一方、普及版にはマン・レイが撮影したこのオブジェの写真が用いられている。この展覧会のポスター「Exposition Internationale du Surréalisme 1947」をデザインしたのは、マーグ画廊の契約作家で、図録の口絵を手掛けたジョアン・ミロ(Joan Miró, 1893-1983)で、ミロがデザインした最初のリトポスターとして興味深い。

1959年12月15日から1960年2月20日にかけてパリのダニエル・コルディエ画廊(Galerie Daniel Cordier, Paris)で行なわれた『Exposition Internationale du Surréalisme』(第8回シュルレアリスム国際展)もアンドレ・ブルトンとマルセル・デュシャンによって企画・構成された。これはその図録である。この時のテーマは「E.R.O.S.」(Exposition inteRnatiOnale du Surréamisme)で、図録にはマルセル・デュシャンがこの年に制作した"With My Tongue In My Cheek"やハンス・ベルメール(Hans Bellmer, 1902-1975)の解説によるドイツの異色画家フリードリヒ・シュレーダー・ゾンネンシュターン(Friedrich Schröder-Sonnenstern、1892-1982)の幻想的でエロティックな作品やベルメールの人形、ピエール・モリニエ(Pierre Molinier, 1900-1976)の写真などが掲載されている。コルディエ画廊刊行のこの図録は、ベルクグリューン画廊のそれと同様、当時の流行を取り入れ、細長い縦長のフォーマットで作られている。

●種類:Exhibtion catalogue(註2)
●題名:Exposition internationale du Surrealisme: "EROS"1959-1960
●著者:André Breton, Hans Bellmer, Man Ray, Jean Arp, etc.
●サイズ:300x125mm
●技法:Offset
●発行:Galerie Daniel Cordier, Paris
●制作年:1959
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註:

1.デュシャンはイタリアからアメリカに移住したシュルレアリスムの画家で彫刻家のエンリコ・ドナチ(Enrico Donati, 1909-2008)と協力して、オブジェのデザインと制作を行なった。作品目録:Arturo Schwarz, The Complete Works of Marcel Duchamp, New York, 1997, no. 523, illustration of another example p. 788

2.図録と同時に限定200部のデラックス版が作られており、図録の表紙写真にあるように、緑色の郵便箱の形のオブジェ(Boite Alerte:286x181x64mm)の中には、展覧会の図録の他, 様々なオブジェ:
●エロティックな9通の信書(註3)
●絹のストッキング
●マルセル・デュシャンの電報「Je purules lachaises purules」《Marcel Duchamp/Rrose Selavy (Schwarz, literature 145)》
●イギリス出身の詩人ジョイス・マンスール(Joyce Mansour, 1928-1984)吹き込みの"L'ivresse religieuse des grandes villes(A)" とフランスの詩人ベンジャマン・ペレ(Benjamin Péret, 1899-1959)吹き込みの" La Brebis galante(B)"が収録された45回転のレコード
●ハンス・ベルメール(Hans Bellmer, 1902-1975), サルヴァドール・ダリ(Salvador Dalí, 1904-1989)アシール・ゴーキー(Arshile Gorky, 1904-1948 ), ジョアン・ミロ(Joan Miró, 1893-1983)マックス・ワルター・スヴァンベルク(Svanberg, 1902-1994) クロヴィス・トルイユ(Camille Clovis Trouille, 1889-1975 )の作品を使った6点の絵葉書:
が異なる種類の封筒に収められている。

さらにフランスの画家アドリアン・ダックス(Adrien Dax, 1913-1979)、スペインの画家ジョアン・ミロ(Joan Miró, 1893-1983)、スウエーデン出身の画家マックス・ワルター・スヴァンベルク(Max Walter Svanberg, 1902-1994)、チェコ出身の画家でイラストレーターのトワイヤン(Toyen, 本名マリー・チェルミーノヴァ:Marie Cerminova 1902-1980)のサイン・ナンバー入りのリトグラフ、詩人で画家のジャック・ル・マレシャル(Jacques Le Maréchal, 1928-)のサイン・ナンバー入りのエッチングが入っている。

3.1. Robert Benayoum, enveloppe rose “ à n'ouvrir sous aucun prétexte ” contenant Le Corridor, plaquette illustrée en quatre volets. - 2. Micheline Bounoure, enveloppe jaune “ Sois ardent en forêt ” contenant deux compositions originales en couleurs symétriques obtenues par pliage. - 3. Alain Joubert, enveloppe vert pâle contenant La Perle fine, texte imprimé sur quatre feuillets. - 4. Enveloppe rouge “ Avez-vous pensé à donner un peu de sang ” contenant une plaquette imprimée : La Pointe. - 5. (R. Benayoum), enveloppe blanche “ Strictement personnel ” contenant une autorisation de rééditer un texte caviardé. - 6. Octavio Paz, aérogramme “ Huis clos ” contenant Edemira B. imprimé sur deux feuilles et deux photographies. - 7. Enveloppe transparente “ avis de souffrance ” contenant une plaquette anonyme Lettres d'un sadique. - 8. André Pieyre de Mandiargues, enveloppe orange “ usage externe ” contenant une plaquette La Marée, texte érotique. - 9. Enveloppe blanche à fenêtre contenant un bas noir de femme marqué Haut par Mimi Parent.
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by galleria-iska | 2015-03-20 17:38 | 図録類 | Comments(0)
2015年 03月 16日

ジャン・ティンゲリーの図録「Hanover Gallery, London」(1968)

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人工的な動力源を持つ彫刻、キネティック・アートという新しい表現法を美術界にもたらしたスイスの彫刻家ジャン・ティンゲリー(Jean Tinguely, 1925-2002)の彫刻を実際に目にしたのは、ポンピドゥー・センターに近くのストラヴィンスキー広場の噴水(Fontaine Stravinsky)に設置された「自動人形の噴水(La Fontaine des automates) 」というニキ・ド・サンファルと共同制作したものが最初で最後である。混乱と破壊をテーマにしたような、黒一色に塗られ、不気味に反復する動きを見せるティンゲリーの彫刻は、ダダ的な精神を根に持つが、その絶え間なく反復する意味の無い運動は、現代という社会構造に組み込まれ、機械のように動くことを強要される人間と物質文明の有り様を映し出しているようにも見える。それとは対照的に、有機的なフォルムとにごりのない純粋な色彩に彩られたニキの彫刻は、まさに生の一瞬の輝きを垣間見せてくれる。

ティンゲリーとニキは同じ画廊で交互して個展を開いているが、これは、伝説の画廊主エリカ・ブラウゼン(Erica Brausen, 1908-1992)がロンドンに設立したハノーヴァー画廊(Hanover Gallery, London)で、ニキの個展(1968年10月2日-11月1日)の個展から一月余り経ったから一月余経った12月5日から翌年の1月5日にかけて開催されたジャン・ティンゲリー(Jean Tinguely, 1925-1991)の個展の図録として制作された、18枚のパネルからなる折り本(Leporello)形式のアーティストブックである。ティンゲリーはこのタイプの図録を1964年末から翌年の1月にかけて行なわれたパリのイオラス画廊(Galerie Alexandre Iolas, Paris)での個展「Meta(機械) II」で既に試しているが、イオラス画廊でのそれがモノクロで印刷されているのに対し、ハノーヴァー画廊のものは、ニキのカラフルな造本に触発されたのか、彩色された雑誌などの切り抜きが無機的な画面のアクセントとなっている。それらが作品の展示風景を撮った写真やドローイングと組み合わされ、ラウシェンバーグを彷彿させるネオ・ダダ的な雰囲気を持った画面を構成している。印刷はニキのものと同様、ミラノのセルジオ・トシ(Sergio Tosi, Milano)が行なっている。そしてこの図録のコンセプトが、今度はニキが1971年にパリのイオラス画廊で行なった個展「Réalisations & projets d'architectures de Niki de Saint Phalle」の図録に継承されていくのである。

気付かれたと思うが、図録の前半と後半の二ヶ所にニキのモチーフが顔を覗かせている。ひとつはニキのトレードマークとも言える、ハノーヴァー画廊での招待状や図録にも登場するナナで、もう一つは、ナナとともにニキの作品には欠かせない蛇である。ニキの描く蛇は、忌むべき存在としてではなく、妊婦と同じように、豊穣や多産、永遠の生命力の象徴として描かれている。

●作家:Jean Tinguely(Jean Tinguely,1925-1991)
●種類:Catalogue
●サイズ:89x160mm(89x2864mm)
●技法:Silkscreen
●発行:Hanover Gallery, London
●印刷:Sergio Tosi, Milano
●制作年:1968
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by galleria-iska | 2015-03-16 20:42 | 図録類 | Comments(0)
2015年 03月 03日

ニキ・ド・サンファルの招待状「Hanover Gallery London」(1968)

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今日は桃の節句とやらで、女子のお祭りである。ちらし寿司は荷が重いので、ケーキのひとつでも買って帰ろうかと思い、近くのケーキ屋に寄ったのだが、大変な事態が待ち受けていた。うら若き女店員の「列にお並び下さい」という言葉に促され、順番が来るのを待つことにしたのだが、それにしてもすごい混みようで、この国の食欲と経済は女性によって支えられていることを改めて実感した次第。

閑話休題、もうかれこれ一年近くも展覧会なるものに出掛けていないので、何か面白い企画が予定されていないかと展覧会情報を検索していたら、今秋、9月18日から12月14日にかけて、東京・六本木の国立新美術館でニキ・ド・サンファル(Niki de Saint Phalle, 1930-2002)の回顧展が開催されるとの案内が目に入った。日本国内で再評価の動きがあったのだろうかと思ったが、どうもそうではなく、パリのグランパレ(Grand Palais, 9 September, 2014 - 2 February 2015)で開催され、現在はスペインはビルバオのグッゲンハイム美術館(Guggenheim Museum Bilbao, 27 February - 11 June 2015)に巡回している展覧会を日本に持ってくるらしい。むべなるかな。

以前、1964年にニキの初個展を開催したロンドンのハノーヴァー画廊(Hanover Gallery, Lodon, 1947-1973)が二度目の個展を開催した1968年に出版した、ニキの三冊目となるアーティストブック『Niki de Saint Phalle』を取り上げたことがあるが、最近、その個展の招待状を手に入れることが出来た。画像では判りずらいが、蛍光性のインクの発色が鮮やかである。それによると、会期は1968年10月2日から11月1日となっている。ニキの個展に続き、11月5日には共に行動していたスイス生まれの彫刻家ジャン・ティンゲリー(Jean Tinguely, 1925-1991)の個展(註1)のオープニングが予告されているのだが、ティンゲリーの年譜によると、この個展の会期は、1968年12月5日から1969年1月5日となっており、招待状とは一ヶ月のずれがある。恐らく誤植であろう。一方、ニキの方は、この後、あまり時を置かずしてデュッセルドルフにあるライラント・ヴェストファーレン地方・芸術協会(Kunstverein für die Rheinlande und Westfalen)でも個展(会期は1968年11月19日-1969年1月1日)を開いており、アーティストブック所収の“ハンドバックを持ってお出掛けするナナ”の図像を用いた告知用のポスターを制作している。

1968年といえば、学生たちの体制に対する異議申し立てが頂点を迎える年であるが、ニキは宗教やイデオロギーを背景とする社会制度に組み込まれた女性という社会的役割を、ここで取り上げたような“ナナ”という図像によって軽々と飛び越えて行った。つまり今日で云うところのジェンダーという認識の根幹にあたる部分を“ナナ”という図像(あるいは彫像)によって体現したということになるだろうか。

招待状は、ニキが1965年のパリのイオラス画廊(Galerie Alexander Iolas, Paris)で披露した“ナナ(Nanas)”をモチーフにデザインされており、ニキはそのナナに、漫画の吹き出し使って、オープニングの案内《Come and see the Nanas of Niki de Saint Phalle at the Hanover Gallery on October 2nd at 3 p.m.》を語らせている。それを補うように外からの声で《Open unitl 1st November』とある。水着(?)姿のナナが軽やかに飛び跳ねる姿を描いたこの図像は、この個展より半年ほど前の5月18日から7月6日かけて、ハノーヴァー画廊を設立したエリカ・ブラウゼン(Erica Brausen, 1908-1992)が1961年にギンペル兄弟(Gimpel fils)とともにチューリッヒに開いたギンペル・ハノーヴァー画廊(Gimpel & Hanover Galerie, Zurich)(註2)での個展「Niki de Saint Phalle」の招待状に使われたものであり、その後もポスターや版画に繰り返して使われていくこととなる。

1960年代、ポップアートのウォーホルやリキテンスタインを初めとする多くの現代美術の作家たちは、個展のプロモーションのために、自ら招待状やポスター、図録のデザインを行なっているが、ニキも1965年のパリのイオラス画廊での個展の際に、イオラスの提案を取り入れ、個展の招待状やポスターのデザインや、自身の文章を用いたアーティストブックの制作に関わり、その姿勢はその後も継続されていく。

招待状の印刷はアーティストブック『Niki de Saint Phalle』の印刷を手掛けたミラノのセルジオ・トシ(Sergio Tosi, Milan)が行なっているものと思われる。ミラノに印刷所を持つセルジオ・トシは、1960年代後半からパリのイオラス画廊やロンドンのハノーヴァー画廊の図録の印刷を請け負う傍ら、自らも出版人となり、現代美術に関する図録や挿絵本などの出版を手掛けている。代表的なものとしては、アンドレ・ブルトン、ポール・エリュアール、ローズ・セラヴィ(=マルセル・デュシャン)の文章にマン・レイの13点の挿絵を添えた『Les treize cliché vierges』(1968年)(註3)やティンゲリーの16点組のポートフォリオ『La Vittoria Beaux-Arts』(1970年)が挙げられる。

●作家:Niki de Saint Phalle(1930-2002)
●種類:Invitation
●サイズ:167x129mm
●技法:Silkscreen
●印刷:Sergio Tosi, Mikan
●発行:Hanover Gallery, London
●制作年:1968

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図版:チューリッヒにあるギンペル・ハノーヴァー画廊(Gimpel & Hanover Galerie, Zurich, 1963-1983)で同じ年の5月18日から7月6日にかけれ行われたニキの個展「Niki de Saint Phalle」の招待状。このイメージをそのまま使ったポスターも制作されている。

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●作家:Niki de Saint Phalle(1930-2002)
●種類:Artist's book
●題名:Nki de Saint Phalle
●サイズ:208x165mm
●技法:Silkscreen
●発行:Hanover Gallery, London
●印刷:Sergio Tosi, Milan
●制作年:1968
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註:

1.ティンゲリーも自身の個展に際し、ニキと同じようにアーティストブックを制作している。このアーティストブックについては別の機会に取り上げるつもりである。
2.ティンゲリーは1966年にこの画廊で最初の個展を開いている。
3.クリシェ・ヴィエルジェはマン・レイがクリシェ・ヴェール(ガラス版画)の音に似せて作った一種の言葉遊びかもしれない。
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by galleria-iska | 2015-03-03 21:36 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)