ガレリア・イスカ通信

galleriska.exblog.jp
ブログトップ

<   2017年 02月 ( 2 )   > この月の画像一覧


2017年 02月 27日

ホルスト・ヤンセン ポスター展図録「Horst Janssen Plakate」(1983)

  
a0155815_20304048.jpg
                                       
以前このブログで触れたことがあるが、日本におけるホルスト・ヤンセンのポスターに関する展覧会は、1983年に宮崎県都城市の市立美術館で開かれた「Horst Janssen Plakate - ホルスト・ヤンセン ポスター展」(主催:都城市教育委員会、大阪ドイツ文化センター、宮崎大学映像を考える会)が、今のところ唯一のものであるようだ。展示内容について美術館に問い合わせてみたところ、図録は作られておらず、具体的な資料は残っていないとのことであった。ところが、最近になって、共同主催者の大阪ドイツ文化センター(Goethe-Institut Osaka, Osaka)が独自に図録を発行していたことを知った。その図録がこれである。展覧会に出品されたポスターは主に1978年代以降のオフセット印刷によるものであるが、表紙に使われたのは、ヤンセンが1960年代後半に集中して制作した亜鉛版エッチングによるポスターの制作現場であるハンブルクの印刷所、ハンス・クリスティアンズ(Hans Christians, Hamburg)で撮られた写真である。印刷所の職人(?)が掲げ持っているのは、刷り上ったばかりの、1966年にドイツ南西部に位置するバーデン=ヴュルテンベルク州の州都であるシュトゥットガルト(=シュツットガルト)のヴェルテンベルグ芸術協会(Württembergischer Kunstverein Stuttgart )で開催されたヤンセンの回顧展の告知用ポスター「Württembergischer Kunstverein Stuttgart 」(註1)。この写真を使ったポスターだったか何かの作品集の表紙を見た覚えがあるのだが、肝心のメモの在り処が思い出せず、出典は特定できない。

●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Catalogue
●サイズ:250x265mm
●技法:Offset
●発行:Goethe-Institut Osaka, Osaka
●制作年:1983            

一方、ドイツでは、それより一年早く、1982年、表現主義から現代美術までの版画作品を数多く収蔵するシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州の港湾都市リューベックのクンストハウス・リューベック(Kunsthaus Lübeck)で、1978年以降のオフセット印刷によるポスター66点からなる展覧会「66 Sechsundsechzig Janssen plakate/66 Horst Janssen Posters」が開催されている。その際、美術館の中にあるルシファー出版(Lucifer Verlag im Kunsthaus Lübeck)から同展の図録「66 Sechsundsechzig Janssen plakate」が刊行され、翌1983年には、増補改訂版として、70点のポスターを収録した総目録「Werkverzeichnis der Plakate 1978-1983」が同社から刊行されている。宮崎大学の教官のコレクションをもとに行なわれたポスター展は、その入手経路は定かではないが、大阪ドイツ文化センター発行の図録に掲載された作品の制作年(1978年~1981年)を見ても分かるように、この展覧会や総目録に沿ったものであったと言って間違いないだろう。そのルシファー出版の図録を受け継ぐ形で1985年、ヤンセン専門の出版社として1984年に設立されたハンブルクのザンクト・ゲルトルーデ出版(Verlag St.Gertrude GmbH, Hamburg)が、同社と共同出版したのが、1973年から1985年までのポスターを収録した販売カタログを兼ねたポスターカタログ「Katalog lieferbarer Janssen-Plakate und -Schmuckblätter」である。その後新しく制作されたポスターを加えた増補版が、1988年、1996年、そして2000年に刊行されている(註2)。

1978年以前のポスターについては、ヤンセンが1957年から1970年代初頭にかけて制作した、リトグラフ、亜鉛版エッチング、シルクスクリーンによる初期のポスターを含むオリジナル・ポスターの回顧展「Horst Janssen Plakate 1957-1978」が1978年、ヤンセンが幼少期を過ごしたオルデンブルクの市立美術館(Stadmuseum Oldenburg)で開催されており、その際、1957年から1978年までのポスターの総目録「Horst Janssen Plakate 1957-1978 Werkverzeichnis」を付した図録が刊行されている。従って、ルシファー出版が刊行した総目録はこの図録の続編ということになる。この展覧会においてようやくヤンセンの初期のポスターの全貌が明らかになったのであるが、時すでに遅しではないが、今や重要なコレクターズ・アイテムとなった1960年代のポップ・アートのポスターと同様、安価で販売されたヤンセンの初期のポスターは既に絶版になっており、容易に入手出来なくなっていた。私自身も1980年代の中頃、オルデンブルク市立美術館での回顧展の図録をもとに、ヤンセンの契約画廊として1957年から数多くの展覧会の告知用ポスターを発行したハンブルクのブロックシュテット画廊(Gelerie Brockstedt, Hamburg)をはじめ、何軒かの画廊に在庫を確認したのだが、どこからも良い返答は得られなかった。

ヤンセンの初期のポスターに関しては、その作風が北斎によって導かれた「自然との対話」から生み出されたものとはかけ離れていることもあるのかもしれないが、回顧展以降も評価は大きく変わることはなかったようである。その取り扱いは、画廊ではなく、一部のポスター専門画廊やヤンセンの画集などを扱っている書店に限られていたのだが、2000年にオルデンブルグにホルスト・ヤンセン美術館(Horst Janssen Museum, Oldenburg)が開館し、ポスターがヤンセン固有の表現領域として認知されるようになると、それまで眠っていた個人コレクションが、ネットオークションやパブリック・オークションにも登場するようになった。その結果、ヤンセンの版画作品を扱う画廊もその存在を無視出来なくなり、今では版画と同列に扱うところが増えてきている。今日のインターネットの普及による情報の共有は反面、ある種の共同幻想に支えられていた複製芸術である版画全般の評価の崩壊を招いたという負の側面もあるのだが、逆に、それが既成の芸術的価値の中での評価とは異なる、複製化時代を経てデジタル時代における創造性の伝播という意味を、さらに押し広げ、もうひとつの価値観というのを形成していく可能性も生まれている。周知のように、ヤンセンのポスター制作は、通常のポスターの役割を借りてはいるものの、単なる情報伝達のためのメディアに止まることなく、いやむしろ、それはヤンセンにおいて、ポスターというメディアそのものが創造的行為の場として借用されており、ポスターそれ自体の役割を無意味化する企みが込められていたと見ることが出来るかもしれないのである。19世紀以前の作家に負うところが多いヤンセンであるが、そのような姿勢はまさに現代美術の文脈に沿ったものであると言えようか。

それに対し、我が国の状況はと言うと、オルデンブルク市立美術館での展覧会から既に40年近く経つが、先のポスター展以降、ヤンセンのオリジナル作品としてのポスターに関する包括的な紹介は未だに行なわれていない。我が国にも、ヤンセンの1978年以降のポスターを紹介したクンストハウス・リューベックと同じように、版画作品の収集や調査研究を専門に行なっている某版画美術館があるが、その関心はもっぱら1970年以降の、契約画廊のブロックシュテット主導(?)による画廊向けに制作された、所謂シリアスな作品に向かっており、ヤンセンのポスター、ことに現代美術の大きな変革期であった1950年代後半から1970年代初頭にかけての創作活動(註3)に対する正当な評価はなされていない、というのが現状である。
   

a0155815_20450960.jpg
a0155815_20453374.jpg
a0155815_17553182.jpg

ヤンセンのポスターに関するテキスト(筆者不明)
a0155815_17584071.jpg

裏表紙に付けられた自叙年譜
a0155815_20464347.jpg



註:

1:
a0155815_22380566.jpg
●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Poster(Plakat)
●題名:Württembergischer Kunstverein Stuttgart
●サイズ:847x594mm
●技法:Strichätzung(Zinkätzung)
●限定:1000(500/white paper, 500/brown paper)
●刷り:Hans Christians, Hamburg
●制作年:1966
●目録番号:Meyer-Schomann 19

2.1999年に、上記の図録を集約する形で、ヤンセンの1957年から1994年までの全ポスター213点を収録した総目録「Horst Janssen Das Plakat」が、ハンブルクのザンクト・ゲルトルーデ出版(Verlag St. Gertrude, GmbH, Hamburg)から刊行された。
a0155815_13062616.jpg
Horst Janssen Das Plakat(Eine Auswahl aus den Jahren 1957 bis 1994. Entwürfe - Vorzeichnungen - Variationen) by Helga und Erich Meyer-Schomann, 359x268x43mm, 316 pages, 463 mostly color plates. A selection of Horst Janssen's posters on various subjects but all tied to an artistic or creative activity between 1957 to 1994 - 213 mostly full-page color reproductions with brief descriptions.

2.ヤンセンが1960年代後半に始めた亜鉛版エッチングやシルクスクリーンによるポスターに見られる平面性を強く意識したスタイルは、現代美術におけるイリュージョンの排除と平面性の追及という命題に対するヤンセンなりの応答と見て取ることができるかもしれない。


                                                                   


[PR]

by galleria-iska | 2017-02-27 22:16 | ホルスト・ヤンセン関係 | Comments(0)
2017年 02月 03日

ジョアン・ミロのポスター「Poster for the exhibition 'Joan Miró' Tokyo-Kyoto」(1966)

a0155815_17463625.jpg

ビートルズが来日した1966年、現在はフィルム・センターとなっている東京・京橋の国立近代美術館とその京都分館で、20世紀スペインの画家、彫刻家、版画家のジョアン・ミロ(Joan Miró, 1893-1983)の大回顧展「ミロ展:ユーモアと夢とよろこびと」(註1)が開催された。これはその展覧会のポスターとして制作されたものであるが、実際に告知用ポスターとして採用されたものは、ミロが展覧会のために制作したグアッシュによる作品を用いたオフセット印刷のポスターである。ミロは当初、日本国内でリトグラフ・ポスターの制作が行えると思っていたようなのだが、その当時日本にはムルロー工房にあるような機械刷りのための設備がなかったため、グアッシュによる原画を制作したのである。今から10年ぐらい前に、実際に掲示されたものを手に入れたことがあるが、コレクターに譲ってしまったため、今は手元にない。また記録用にと保存しておいた画像も、PCのOSが壊れた際に消失してしまった。

日本を代表するグラフィック・デザイナーのひとり、原弘(Hiromu Hara, 1903-1986)が文字入れを行ったこのポスター、現在、幻のポスターとしてコレクターズ・アイテムとなっており、数年前に、ニューヨーク市のポスター・オークション会社から出品されたことがあったが、なかなかの評価であった。現在、東京国立近代美術館の他に、ポスター収集に力を入れている武蔵野美術大学の美術館・図書館が所蔵しているので、興味のある方はそちらに問い合わせてみて欲しい。

今回取り上げる方のポスターは、ミロの好意で制作されたもので、ミロの契約画廊であったパリのマーグ画廊Galerie Maeght, Paris)のリトグラフ工房(Arte Adrien Maeght, Paris)で印刷されている。文字の部分は日本国内でシルクスクリーン印刷で入れられているためであろうか、印刷所名《(Imprimerie)Arte Paris》の記載がない。出版は毎日新聞社(Mainichi Newspapers, Tokyo)である。ポスターの他に、35部限定で、ミロの署名入りの版画ヴァージョンも作られている。

私事であるが、撮影に使っている200万画素のコンパクトカメラは、今や骨董品とも言えるもので、解像度が低く、特に赤い背景の上に刷られた文字は地に溶け込んでしまい、判読できなくなってしまう。連れ合いが持っている1200万画素のコンパクトカメラを借りることも出来るのだ、自力(?)で購入するつもりでいるので、もう何年も(!)、やせ我慢を続けている次第。

●作家:Joan Miró(1893-1983)
●種類:Poster
●サイズ:395x575mm
●技法:Lithograph(Image)+Silkscreen(Text)
●発行:The Mainichi Newspapers, Tokyo
●印刷:Arte Adrien Maeght, Paris
●制作年:1966(?)
●目録番号:Mourlot 504a,(poster catalogue raisonné): 「Malmö Konsthall, Joan Miró - posters - affischer, Malmö 1993」31
a0155815_17471282.jpg
a0155815_17473343.jpg

a0155815_1748726.jpg
図版:ポスターの原画を制作中のミロを捉えた写真をダストカバーに用いたフランスの美術専門誌『二十世紀(XXe siècle)』のミロ特集号「Hommage à Joan Miró」(1972)
a0155815_17481866.jpg
図版:(左)ポスターと同時に制作された限定35部の版画ヴァージョン(原画に呼応している)、(右)ポスター


註:

1.「ミロ展:ユーモアと夢とよろこびと」(会期・会場・主催: 1966年8月26日-10月9日 国立近代美術館 10月20日-11月30日 国立近代美術館京都分館、国立近代美術館、毎日新聞社)

図録「ミロ展」:ミロ展カタログ編集委員会, 国立近代美術館, 毎日新聞社編/毎日新聞社/1966年/256x240mm
[PR]

by galleria-iska | 2017-02-03 19:06 | ポスター/メイラー | Comments(0)