ガレリア・イスカ通信

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2017年 08月 08日

奈良美智のマルティプル(?)「Yoshitomo Nara Gummi Girl」(2006)

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前回の記事の中で触れた奈良美智(Yoshitomo Nara, 1959-)氏が2006年にデザインした「グミガール(Gummi Girl)」を、今は種々雑多な物入れとして使っている古い箪笥の中から取り出してきた。お土産として貰った筈なのだが、連れ合いが所有権を主張し始めているため、中立地帯である箪笥に入れてある。「グミガール」の髪の色は栞にある茶と青の他、赤、緑、黄土の計5色が用意されていたのだが、連れ合いが選んだのは茶色だった。その子には「マローネ(Malone)」という名が付いているようなのだが、記号以上の興味はない。販売広告などには、グミを食べ終わった後は、アートグッズや小物入れとして使えると提案されている。確かにそうやって使っているうちに、傷んだり、飽きたりして、少しづつ数が減っていくのだが、こと「グミガール」に関しては、前にも書いたが、現在も生産継続中なので、一体どれくらいの数(エッシャーの“キャンディ缶”は6800個、村上隆のSUPERFLATMUSEUM、所謂“食玩”は3000個~数万個)になるのか見当もつかない。無くなって初めて、見えなかった、あるいは別の視点から見た意味(=価値)が浮き彫りになってくるものである。そういう観点からすると、この先も長期に渡って箪笥の肥やしになる可能性が高い。
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●作家:Yoshitomo Nara(1959-)
●種類:Multiple
●サイズ:160x165x75mm(Multiple), 169x169x77mm(Box)
●題名:Gummi Girl - Malone
●技法:Painted Plastic
●製造:S and O(Sweets and Objects), Omotesando Hilles, Tokyo
●制作年:2006
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                          「グミガール」の栞(表)
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# by galleria-iska | 2017-08-08 20:04 | その他 | Comments(0)
2017年 08月 02日

奈良美智展の案内「Yoshitomo Nara for better or worse」(2017)

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                         2017年新作「Midnight Truth」

少し前のことであるが、連れ合いが、現在愛知県豊田市の豊田市美術館で開催中の展覧会「奈良美智 for better or worse - Works 1987-2017」の案内を頂いてきた。案内は四つ折りで、海外の画廊が展覧会の際に使うメイラー(Mailer)によく見られる、開くとポスターになるようにデザインされている。制作中(?)の新作「Midnight Truth」が置かれたスタジオを撮影したのは森本美絵(Mie Morimoto, 1974-)という若手写真家で、彼女は制作中の奈良美智(Yoshitomo Nara, 1959-)氏とその制作風景を撮影した写真集も出しているとのこと。奈良氏の作品は注目の現代美術作家ということで、テレビや雑誌で見にすることはあるが、絵画作品(タブロー)は未だ目にしたことがない。田舎に住んでいると、都会に出て行かないかぎり、画廊でのリアルタイムの経験というものは先ず無く、数年のタイムラグが必ず付いて回る。奈良氏の作品についても、東京あたりで突然火が付いことは全く知らず、しばらく経って、知り合いの画商が見せてくれた、奈良氏の作品を特徴付ける、愛らしく可愛い仕草のキャラクターとは真逆の、悪い子ぶってこちらを釣り目で睨みつける女の子を描いた小さなドローイングによって、ようやくその存在を知ったのである。たったそれだけのことで、後はあずかり知らぬ世界での出来事のように時が流れ、やがて世界でも注目される現代美術の作家となって再び現れた。当然のことながら、絵画作品は全く手の届かないところに行ってしまい、唯一の接点と言えるのは、東京の森美術館に行った連れ合いが、お土産として買ってきてくれた「グミガール」だけである。自分としてはこの「グミガール」の容器を、遠くは1963年にオランダの版画家エッシャー(Maurits Cornelis Escher, 1898-1972)がデザインして作られた製缶メーカー、フェルブリファ社の創立75周年を記念するブリキ製のキャンディ缶「Icosaëder(Verblifa Tin Can)」(註1)、近くは村上隆の“食玩”(こちらは未だ、オタク文化の象徴的存在であるフィギュアの呪縛から解き放たれておらず、美術界からのアプローチには疑問が呈されるかもしれない)に通じる、一種のマルティプルと見ていたのだが、作家が変わればその意図も変わるのか、「グミガール」は今も生産が続けられ、キャラクターグッズとしての商品価値の方が優先されてしまっているように見える。エッシャーのキャンディ缶がクリスティーズ等のオークションにマルティプルとして登場するにも35年の時を要したことを考えると、「グミガール」の容器も、その第一義的な意味が剥ぎ取られるまでには、まだまだ多くの時間を要すことになりそうである。それまで生きているとは思えないが。

そんな繰言はさておき、連れ合いはどうしても豊田市美術館の展覧会場に足を運びたい様子である。ただ、入場料はもちろん、田舎から都会に出るにはそれなりの費用が掛かる。そのやり繰りをどうするか、思案に暮れる毎日である。NHKの日曜朝の番組で特集でも組んでくれないかと、淡い期待を抱いているのだが。そういえば、以前、山梨県にあるキース・ヘリング美術館からお誘いを受けたが、旅費等に掛かる費用を工面することが出来ず、未だに訪れていない。貧者は-自己責任と言われればそれまでだが-そうやって文化から疎外されていくのであろう。

●作家:Yoshitomo Nara(1959-)
●種類:Leaflet
●サイズ:297x210mm(594x420mm)
●技法:Offset
●写真:Mie Morimoto(1974-)
●発行:Toyota Municipal Museum of Art, Toyota
●制作年:2017
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註:

1.エッシャーのキャンディ缶
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●作家:Maurits Cornelis Escher(1898-1972)
●題名:Icosaëder(Icosahedron)
●サイズ:140x140x140mm
●技法:Printed tin box with embossed relief
●限定:6800 + 300 were produced to replace any defects
●発行:Verblifa(De Vereenigde Blikfabrieken), Krommenie
●制作年:1963

オークションハウスでの落札値:
1998年:Christie's Amsterdam.......US $456(€ 395, Dfl.865)
2012年:Christie's Amsterdam.......US$7,907(€ 6,000)
2013年:Venduehuis Den Hagg......US$1,060(€800)
2014年:New Art Editions..............US$1,425(€ 1,075)
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# by galleria-iska | 2017-08-02 20:24 | ポスター/メイラー | Comments(0)
2017年 07月 30日

勝原伸也の創作木版画「Anthology」(1987)

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明日7月31日は、一昨年亡くなった大兄、木版画家の勝原伸也(Katsuhara Shinya,1951-2015)の二度目の命日で、世間でいうところの三回忌にあたる。故人宅にお伺いすることができないので、大兄が東京銀座の兜屋画廊(Gallery Kabutoya, Tokyo)の依頼で手掛けた最初の創作木版画を眺めつつ、あらためてご冥福をお祈りしたい。

「アンソロジー(Anthology)」という題を付けられたこの作品は、今から丁度30年前の1987年に制作された、木版画家としての勝原の出発点となった記念すべき作品である。題材の原典を何処に求めたのかは分からないが、生き物と花との四つの物語をひとつの画面に散りばめた“詞華集”となっている。それぞれが季節を表しているとするならば、四季を描いたものとなるのだが、その辺のところを端的に読み取ることが出来ないもどかしさがある。漆黒の闇の中に浮かび上がる“文様”としてのモチーフは蒔絵を彷彿させ、絵画というよりは、装飾性の高い、工芸的な表現となっている。

●作家:Katsuhara Shinya(1951-2015)
●種類:Original print
●題名:Anthology
●サイズ:360x250mm(image)
●技法:Woodblock print
●限定:150
●版元:Gallery Kabutoya, Tokyo
●制作年:1987

浮世絵の復元(というより解釈と言ったほうが的を得ているかと思う)という職人的な立ち位置は、創作とは隣り合わせのようにも映るのだが、その方向性が全く異なっている。しかるに、何故創作版画をやらないのか、という無邪気でありながら無思慮な問いは、彼を大いに苦しめたかもしれない。この作品に於いて初めて創作という領域に踏み込んだわけであるが、無名性を旨とする職人的立場と木版画家としての自己のアイデンティティを確立することとのアンビヴァレンツな状況の中で苦悩したことは想像に難くない。勝原が本格的に創作活動に向かうには、もう暫く時間を要することとなる。

一方、勝原は同じ年、自身の代表作のひとつに数えられる復元を行っている。それは以前取り上げた広島県三原市での展覧会のポスターに使われた歌川国芳の大錦三枚続き「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」である。勝原はなんと半年余りをこの作品の復元に掛けている。彫りに5ヶ月を要したというこの作品に於いて、勝原は刷りに独自の解釈を施している(註1)。



註:

1.「木版師 勝原伸也の世界-浮世絵は蘇る(Shinya Katsuhara, The Ukiyo-e Craftman)」1993年、平凡社(Heibonsha Limited Publishers, Tokyo)。237~242頁参照
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# by galleria-iska | 2017-07-30 18:22 | その他 | Comments(0)
2017年 07月 12日

キース・ヘリングのTシャツ「Pop Shop Tokyo」(1987)

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久し振りにキース・ヘリング(Keith Haring, 1958-1990)関係の“もの”を取り上げてみたい。と言うか、長年仕舞いっ放しになっていたので、状態をチェックするためにビニール袋から取り出してみたというのが本当のところである。

周知のとおり、1986年にニューヨーク市マンハッタン区ダウンタウンにあるソーホー(SoHo)にポップ・ショップ(Pop Shop)(註1)をオープンさせたキース・ヘリングは翌1987年、姉妹店として東京・南青山にポップ・ショップ・東京(Pop Shop Tokyo)をオープン。ニューヨーク店のアイコンと同様、ポップ・ショップ・東京のロゴを盛り込んだアイコンをデザインしている。それは購入した商品を入れてくれる無料の紙袋(註2)の他、販売用のビニール製のショッピング・バッグ(註3)やTシャツにもプリントされた。ポップ・ショップには連日多くのファンが押し寄せ、賑わったようだが、偽物が大量に出回ったことが影響し、翌年には閉店を余儀なくされたと聞く。加えて、この年、エイズと診断されたことも少なからず影響を与えているのかもしれない。

いつの時代(潮流)にも乗り遅れてばかりの自分が訪れた時には、既に商品数も少なくなっており、Tシャツ(5千円)は残り一枚だったように記憶する。このTシャツはその時購入したものではなく、ずっと後になってから手に入れたものであるが、未使用だったので、30年近く経った今でも鮮やかな発色を保っている。反面、心配な点もある。と言うのは、タグ(画像参照)には、ポップ・ショップのロゴではなく、ヘリングのレタリングが使われているのだが、その縫い付けが雑で、サイズを示す“F”の取り付け位置もいい加減なのである。

●作家:Keith Haring(1958-1990)
●種類:T-Shirt
●イメージサイズ:293x265mm
●技法:Silkscreen
●発行:Keith Haring for the Pop Shop Tokyo
●制作年:1987
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ポップ・ショップ・東京のアイコンとして多くの人の目に触れることを意図したこの図像、地の部分は、銀糸を用いて織られた生地に想を得たのだろうか、銀ラメ(Silver gliter)仕様となっており、光を反射して輝く様は、アナクロニズムとも取れなくもないが、原色で色付けされた、どこかトーテムポールを思わせる非言語的コミュニケーション手段であるシンボリックで記号性を帯びた図と結合し、グロテスクな様式美を見せつつ、ヘリング独自の、創作活動を通してより大きなレベルでの関係性の構築を図る役割を果たしているのである。
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                          タグの部分                    

註:

1.ヘリングはポップ・ショップのオープンについて、次のように語っている(原文をそのまま引用):
“The Pop Shop makes my work accessible. It’s about participation on a big level.” “The use of commercial projects has enabled me to reach millions of people whom I would not have reached by remaining an unknown artist. I assumed, after all, that the point of making art was to communicate and contribute to culture.”


2、
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                            ポップ・ショップ・東京の紙袋

3.
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                             ポップ・ショップ・東京のビニール製のショッピング・バッグ
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# by galleria-iska | 2017-07-12 19:56 | キース・へリング関係 | Comments(0)
2017年 06月 29日

ロバート・マザーウェルの展覧会図録「Robert Motherwell Collages」(1960)

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この図録は、アメリカの抽象表現主義の画家で版画家のロバート・マザーウェル(Robert Motherwell, 1915-1991)が1961年、パリのベルクグリューン画廊(Berggruen & Cie, Paris)で、1958年から1960年にかけて制作したコラージュ作品による個展を開催した際に、画廊の34番目の図録(Collection Berggruen No.34)として刊行されたもの。前回取り上げたパウル・クレーの図録と同様、新しいオーナーの下、2012年に出版活動を再開したパリのカイエ・ダール(Cahiers d'Art, Paris)の旧資料の一部である。綴じがタイトで図版等の撮影が出来ないのだが、名刷り師と謳われたダニエル・ジャコメ(Daniel Jacomet, 1894-1966)の工房(Ateliers de Daniel Jacomet, Paris, 1910~1965)で、明快で均一な色面を特徴とするポショワール(Pochoir=Stencil)の技法で刷られた図版は、時にシルクスクリーンと間違われることもあるが、機械刷りの複製とは異なる不思議な表情を見せてくれる。

ポショワールはアール・デコ時代に高級モード誌のファッション・プレートに好んで使われた技法であるが、工房は違うが、1947年に制作した挿絵本「Jazz」の印刷にステンシルを用いたアンリ・マチス(Henri Matisse, 1869-1954)の息子のひとりで、1931年にアメリカのニューヨーク市に画廊(Pierre Matisse Gallery, New York, 1931-1989)を開き、ヨーロッパの現代美術を紹介したピエール・マチス(Pierre Matisse, 1900-1989)が発行した展覧会図録の図版の印刷にもジャコメによる精度の高いポショワールが使われており、決して時代遅れの技法ではなかった。ただ、機械刷りが全盛になる中、熟練した高い技術と手間を必要とするこの技法は急速に廃れていったのである。

●作家:Robert Motherwell(1915-1991)
●種類:Catalogue(Collection Berggruen No.34)
●サイズ:220x116mm
●技法:Pochoir
●印刷:Ateliers de Daniel Jacomet, Paris
●発行:Berggruen & Cie, Paris
●制作年:1961
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ロバート・マザーウェルの版画作品の総目録(レゾネ):「The Painter and The Printer:Robert Motherwell's graphics 1943-1980」by Stephanie Terenzio, Dorothy C. Belknap, published by The American Federation of Arts, New York in1980
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個展に合わせ、コラージュ作品のひとつ「Capriccio」を版画に仕立てにしたものが200部限定でベルクグリューン画廊から出版された。いわゆるエスタンプと呼ばれるものである。マザーウェルが本格的に版画制作を始めるのはこの年からで、1958年(~1971年)に結婚した同じく抽象表現主義の画家で版画家のヘレン・フランケンサーラー(Heren Frankenthaler, 1928-2011)の提案で、二人一緒にロシア系ユダヤ人の刷り師タチアナ・グロスマン(Tatyana Grosman, 1904-1982)が1957年に設立したリトグラフの版画工房(The Universal Limited Art Editions (ULAE), a lithographic workshop in West Islip, Long Island, New York)に通い、実はマザーウェルは1959年からグロスマンからの版画制作の誘いを受けていた、最初のリトグラフ「Poet I」と「Poet II」を制作している。フランケンサーラー自身も最初の版画作品「First Stone」を制作しているが、マザーウェルのモノトーンの重苦しい表情に対し、彼女の作品は伸びやかで、色彩も豊かに呼応している。
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# by galleria-iska | 2017-06-29 19:51 | 図録類 | Comments(0)