ガレリア・イスカ通信

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2017年 12月 08日

ヴィクトル・ブローネルの個展図録「Le Point Cardinal」(1963)

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以前、ユダヤ系ルーマニア人の画家ヴィクトル・ブローネル(Victor Brauner, 1903-1966)が1963年の4月から5月にかけてパリのル・ポワン・カルディナル画廊(Galerie le Point Cardinal, Paris)で行った個展の招待状(註1)を取り上げたことがあるが、今回はその図録である。表紙には招待状と同じイメージが使われている。描かれているのは、生と死、あるいは人間の生の二つの相である“覚醒”と“眠り”を表す頭部を上下に組み合わせたもので、フロイトの精神分析の根幹となる無意識と深く関わる夢を重要視したシュルレアリスムとの関連性も見て取れるかもしれない。自身をモデルに描いたとされる頭部は金色に塗られ、日本の蒔絵にも似た表情を見せており、漆黒の闇の中で光を反射し輝く。現実世界と眠りによって引き起こされる夢の中の世界は、意識と無意識とによって区分されるが、夢は現実世界でのストレスを補償する作用を持つとされている。現在は仮想現実というインターネットの空間が、夢の代わりを行っているところがあり、無意識的に自我を守ろうとするため、他者に対して驚くほど攻撃的になるケースが一種の社会問題ともなっているようである。

出品作品は、ブローネルが1961年から翌62年にかけて制作した近作を展示するもので、様式的には、デ・キリコ、サルバドール・ダリやルネ・マグリットを思わせる不条理な世界やデベイズマンと呼ばれる事物に有り得ない組み合わせを写実的描いた、所謂シュルレアリスムの典型とも言える作品とは異なり、晩年に現れる、少年時代に興味を抱いた動物学に端を発するであろう人間と他の生物との関係性を表すような、プリミティヴな傾向の絵画作品全44点からなる。図録の巻頭を飾るのはフランスのシュルレアリスムの詩人ルネ・シャール(René Char,1907-1988)が1938年に書いた詩『種子の顔(Visage de Semence)』で、この図録が初出となる。

招待状と図録の他に、マン・レイスト氏の云うところの、“展覧会の三種の神器”を構成する告知用ポスター(註2)、さらには限定60部のシルクスクリーンの版画作品「Autoportrait(自画像)」も同時に制作されており、それらにはエンボス加工が施されている。図録はそれほど高価ではなく、3千円~5千円(古書店価格)で入手可能。オリジナルデザインの告知用ポスターは未だ入手していないが、ヨーロッパでは人気があるようで、5万円前後と、まあまあ(?)の値が付いている。当然のことながら、版画作品はそれよりも高く、オークションでも15万円以上で落札されているので、画廊での購入価格はそれ以上になるであろう。

●作家:Victor Brauner(1903-1966)
●種類:Catalogue
●サイズ:186x140mm
●技法:Silkscreen
●発行:Galerie Le Point Cardinal, Paris
●印刷:Imprimerie Union, Paris
●制作年:1963
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註:

1.
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個展の招待状(三つ折り)
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図版:個展の告知用ポスター。エンボス加工を施された頭部の不思議な文様に注目していただきたい。技法:Silkscreen with embossing(Sérigraphie en couleurs avec gaufrage), サイズ:665x500mm, 印刷:Imp. Union, Paris, 発行:Galerie le Point Cardinal, Paris
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# by galleria-iska | 2017-12-08 13:24 | 図録類 | Comments(2)
2017年 11月 28日

アンディ・ウォーホルのカバーアート「Rats & Star: Soul Vacation」(1983)

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商業デザインナーとしてのアンディ・ウォーホル(Andy Warhol, 1928-1987)の仕事の中で、レコードのカバーアートについては、民族音楽、クラシック、ジャズ、ロック, R&Bと広範囲に渡っており、プレポップ(1949年~1961年)の時代のみならず、ポップアーティストとして名を成した後も継続して依頼を引き受けているのだが、近年まで殆んど省みられることはなかった。その再評価に一役買っているのがインターネットであり、誰もが参加できるネットオークションという場の提供が、世界各地に点在する情報をもとにしたコレクションの形成を可能にしたのである。インターネットはまた、それまで個別にしか知られていなかった現代美術家によるカバーアートの存在に気付かせ、アートへの関心を複合的に高める働きを見せている。ウォーホルのカバーアートに関しても、こうした状況の中で新たな収集家を生み出しており、その成果(註1)が形となって現れたのが、2008年にカナダのケベック州にあるモントリオール美術館(The Montreal Museum of Fine Arts)で開催されたウォーホルがカバーアートを手掛けたレコードアルバムを含む展覧会「Warhol Live: Music and Dance in Andy Warho's Work」であり、その際、キュレーターで、カナダのモントリオールにあるケベック大学(The University of Quebec in Montreal)の教授、またウォーホルのポスターやイラストレーションの収集家としても知られるカナダ人のポール・マレシャル(Paul Maréchal)による総目録(Catalogue raisonné)「Andy Warhol: The Record Covers, 1949-1987」(註2)が刊行されたのである。それによってウォーホルの手掛けたカバーアート、特にウォーホル独特の“ブロッテド・ライン(滲み線)”を用いたプレポップの時代のものへの関心が一気に高まり、新たな発見も相次いだ結果、2015年には先の総目録の改訂版として原寸大のアルバムカバーを載せた「Andy Warhol: The Complete Commissioned Record Covers」(註3)が刊行された。因みにウォーホルの最初のカバーアートの仕事はピッツバーグにあるカーネギー工科大学の美術科を卒業しニューヨーク市に出た1949年の「Carlos Chávez: A Program of Mexican Music」である。

現在、以下のサイトでウォーホルがカバーアートを手掛けたものと、没後に彼の作品をカバーアートに用いたSP盤, LP盤, EP盤、全146点(Andy Warhol's record cover art)を解説付きで見ることが出来る:

https://rateyourmusic.com/list/rockdoc/andy_warhols_record_cover_art/6/

今回取り上げるのは、ウォーホルのカバーアートの中で唯一の日本人アーティストのアルバム「Rats & Star: Soul Vacation」(Epic/Sony 28・3H-100)である。1983年にウォーホルが撮影した写真を基にデザインされたもので、レコードカバーの裏表がひとつの連続したイメージとなっている点が特徴である。しかし現状では、海外と比べアート作品としてのカバーアートに関心を持つ収集家は少なく、単に中古レコードとして流通しているため、価格は数百円から千円前後と割安である。ウォーホルの版上サイン入りのプロモーション用ポスター(註4)も同時に作られているが、そちらは数千円といったところ。

●作家:Andy Warhol(1928-1987)
●種類:Cover art
●タイトル:Rats & Star: Soul Vacation
●レーベル:Epic/Sony(28・3H-100)
●サイズ:315x315mm
●技法:Offset
●発売元:Epic/Sony Records Inc., Tokyo
●制作年:1983
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註:

1.ウォーホルのレコードのカバーアートに関する展覧会としては、ウォーホルの生誕80年の2008年7月にスウェーデン北部のペーテオにあるピーテオ美術館(Piteå Museum)での65種類のカバーアートによる展覧会が最初のもの。その展覧会の2ヶ月後にモントリオール美術館でウォーホルと音楽とダンスに関する作品展「Warhol Live: Music and Dance in Andy Warho's Work」が行われたのである。更に2014年6月から2015年3月にかけて、ミシガン州のブルームフィールド・ヒルズにあるクランブルック美術館の現代美術とデザイン部門のキュレーター、ローラ・モット(Laura Mott)によって企画された展覧会「Warhol-designed album covers Warhol on Vinyl: The Record Covers, 1949 – 1987+」があるが、いずれの展覧会も個人収集家のコレクションが核となっている。このような身近にあったものがアートとして認識され、作家の芸術活動の一環として捉えられていくのも、芸術の複製化の時代にあっては、当然の成り行きと言えるのかもしれないが、その中でインターネットが収集家に新しい視野をもたらしたことは注目すべきである。エフェメラに関して言えば、既に様々な形で情報発信を行い、マン・レイに関する新しい知見をもたらしているマン・レイスト氏に倣い、単なる受容者である立場から、個人ならではの特色あるコレクションを形成し、その価値の発信者として行動に移る時なのかもしれない。実際、ネット上には既に数多くのコレクションが紹介されているが、それらは個々の点の集まりに過ぎず、それらを有機的に結び付けるためにネットワーク化する必要がある。そのためには先ず、私の知らないところで既に構築されているのかもしれないが、コレクションへのアクセスを容易にするダイレクトリーの作成が求められる。それによって新たな発見や知見がもたらされれば、さらに多くの理解者や収集家を生み出すサイクルが生まれることになるのではないだろうか。その先にはネット上の仮想美術館の創設というものがあるのかもしれない。
2.
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図版:Paul Maréchal: Andy Warhol: The Record Covers, 1949-1987, 2008, The Montreal Museum of Fine Arts/Prestel Verlag, 236 pages lists 50 album covers with over 100 illustrations. Hardback, 310x310mm.
3.
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図版:Paul Maréchal: Andy Warhol: The Complete Commissioned Record Covers, 2015, Prestel Verlag, 264 pages lists 106 album covers with 287 colour illustrations. Revised edition. Hardback 305x305mm.
4.
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図版:プロモーション用のポスター、サイズ:572x840mm、技法:オフセット、版上サイン入り、発行:株式会社Epicソニー、東京。
このポスターを共有するロンドンにあるテイト・ギャラリー(Tate Gallery, London)とスコットトランドのエディンバラにあるスコットランド国立美術館(National Galleries of Scotland)では、このポスターに次のような解説を付けている。以下引用:

This poster features the front and back designs for Rats & Star’s album ‘Soul Vacation’. The eighties Japanese pop group’s name originates in the belief that it is possible to be a ‘rat’, coming from a less prosperous background, and still become a star: a notion close to Warhol’s heart as the son of working-class immigrants. In the design by Warhol from 1983, he draws on this idea of advancement and progression with the left side appearing incomplete, showing the working process or beginnings of creating a screenprint. The right side then shows the finished portraits of the men as stars. He incorporates blocks of colour beneath a black print over which he has layered printed hand-drawn elements.

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# by galleria-iska | 2017-11-28 18:10 | その他 | Comments(0)
2017年 11月 25日

杉本博司の写真集「Time Exposed」(1995)

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一見、無表情にも見える写真であるが、それは生の時間を切り取る従来型の写真ではなく、作家が対象に対して抱く感情を明快なコンセプトを基に、8x10の大型のビューカメラ(8x10 View Camera)で無作為的に撮影した結果であり、我々の写真に対する概念を覆すこととなった。そこに一貫して流れているのは、対象との物理的な距離や関係性ではなく、見る側に時間(停止した時間、流れている時間、動いている時間)の存在を強く意識させるということである。それらの作品は世界的に評価され、今や日本を代表する現代美術の作家となった杉本博司(Hiroshi Sugimoto, 1948-)氏は1948年、戦後の第一次ベビーブーム、いわゆる団塊の世代の真っ只中に生まれた。立教大学の経済学部を卒業後、世界各地を旅行、アメリカのカリフォルニア州パサデナにある美術大学(Art Center College of Design)で写真を学ぶ。生活費を得るために始めた古美術の販売で目を養い、その豊富な知識を活かした作品も数多く制作している。特徴的なのは、その写真が従来の写真の分野ではなく、影響を受けた現代美術の文脈の中で捉えられている点であろう。初期の代表作を集めたこの写真集は、現代美術の展覧会を企画・開催しているスイスのバーセルにある美術館クンストハレ・バーセル(Kunsthalle Basel)で1995年に行われた展覧会「Hiroshi Sugimoto Time Exposed」に合わせてドイツの出版社(Edition Hansjörg Mayer, Stuttgart)から刊行された図録と同時にロンドンの美術出版社テームズ・アンド・ハドソン(Thames and Hudson, London)から刊行されたもの。出版から3年後の1998年にアメリカの写真集を専門とする古書店から購入したのだが、そのころはまだ写真集のブームが来る前で、出版価格よりもずっと安く手に入れることが出来た。ただし、大手出版社が手掛けたことで発行部数が多かったのか、ブームになっても比較的緩やかな値上がりであった。現在の古書価格は百ドルから数百ドルといったところ。

写真集には最初のシリーズ『ジオラマ(Dioramas)』を始めとし、幾つかのシリーズが収録されているが、中でも、ブライス・マーデン(Brice Marden, 1938-)のミニマリズム色の濃いモノクロームの作品を彷彿させる、『海景(Seascapes)』シリーズの中の、画面を水平線で、杉本氏の云うところの“人類の始まりの記憶”である海と空とに二等分した「昼の海の景色」が好きで、価格もまだ数千ドルと手が出せないところまでは行っていない頃、その気になって入手を試みたが、サザビースなどのオークションではいつもこちらの思っている価格を超えてしまい、結局、手元に引き寄せることが出来ずに終わってしまった。今では限定25部のシートサイズが476x578mm(18¾ x 22¾ in)+ マウント:508x610mm(20 x 24 in)のもので数万ドル、限定5部のシートサイズが一メートルを超える大きなものになると、数十万ドルと、目もくらむような価格で落札されている。

●作家:Hiroshi Sugimoto(1948-)
●種類:Photo Book
●題名:Hiroshi Sugimoto Time Exposed
●著者:Thomas Kellein(1955-).Translation by David Britt
●サイズ:250x303mm
●技法:Offset
●印刷:Staib+Mayer, Stuttgart
●発行:Thames and Hudson, London
●制作年:1995
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                図版:[Interior Theaters]:Castro Sanfrancisco, 1992
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                図版:[Day Seascapes]:Indian Ocean, Bali, 1991
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# by galleria-iska | 2017-11-25 14:08 | 図録類 | Comments(0)
2017年 11月 22日

カリン・シェケシーのカラー写真「Nude」

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晩秋を向かえた今、洛陽が如く華やかに色付いた木々の葉は落ち、深い死の眠りにつく。そんな死と眠りの幻想(夢)をテーマとするような作品を取り上げてみようかと思う。お断りしておかなくてはいけないのは、被写界深度がそれほど深くない写真を解像力の低いコンパクト・デジカメで撮影しているので、ぼんやりした画像になってしまったことである。ドイツの写真家で、夫の画家で版画家のパウル・ヴンダーリッヒ(Paul Wunderlich, 1927-2010)に霊感を与え続けたカリン・シェケシー(Karin Székessy,1939-)によるヌード写真のひとつで、制作年は定かではないが、1970年代後半ではないかと思う。ヴンダーリッヒのアトリエを使って撮影されたこの写真、最初、椅子にもたれかかるモデルが、エデンの園に起源を持ついちじくの葉でその秘部を隠そうとする場面を意図したものかと思っていたのだが、その形状を良く観察してみると、いちじくの葉ではなく、プラタナスの葉であるらしいことが判かり、図像学的な意味を求めようとしていた目論見は砕かれた。だが、そこには、死の気配と官能とが入り混じる夢幻的とも言える空間を見出すことができるし、モデルの長く伸びた肢体はマニエリスムの絵画に見るような一種退廃した匂いを漂わせている。何故この作品に挽かれたのかと云うと、ルネサンスの偉大なる巨匠のひとり、ミケランジェロ(Michelangelo Buonarroti, 1475-1564)が、盛期ルネサンスの芸術家を援助したローマ教皇ユリウス2世の廟墓のために1513年に制作を始めた未完成の彫刻作品「瀕死の奴隷」の姿と重なって見えたからである。ミケランジェロの彫刻では、眠りの底ににある奴隷の姿とも、瀕死の奴隷が魂の解放を前に身悶えするような恍惚感に浸る姿との解釈もある、そのマニエリスムの萌芽と言われる裸体のフォルムが写真のモデルのポーズと記憶の中で結びついたからである。これは偶然の一致であろうか、それとも写真家がミケランジェロの彫刻から霊感を受けたのであろうか。死、あるいは眠りと結びついた恍惚と官能は、甘美な陶酔への危険な入り口。

この写真は、カリン・シェケシーの友人で写真家の伊藤美露(Miro Ito, 1959-)氏が編集を行ったヨーロッパ在住の8人の女性写真家によるヌード写真集「ヨーロッパ 官能のヴィジョン」(1995年)(註1)に所収されている。

●作家:Karin Székessy(1938-)
●種類:Color photograph
●題名:Nude
●サイズ:412x267mm(Format:509x 407mm)
●技法:Type-C print on Kodak professional paper.
●発行:Karin Székessy, Hamburg
●制作年:Late 1970s
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図版:ミケランジェロ(Michelangelo Buonarroti, 1475-1564)が1513年から1515年にかけて制作した彫刻「瀕死の奴隷(Dying Slave)」。高さ215cm


註:


1.写真家の伊藤美露(Miro Ito, 1959-)氏が編集を行った写真集「ヨーロッパ 官能のヴィジョン-欧州溌女流写真家8人による〈エロスの饗宴〉(European Vision of Sensuality by 8 Women Photographers)」の書影はこちら。
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# by galleria-iska | 2017-11-22 18:56 | その他 | Comments(0)
2017年 11月 12日

永井一正ポスター展のチラシ「Himeji City Museum of Art」(2017)

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今日は少し冷たい風が妙に心地よく感じる秋晴れの一日となった。久し振りに文化施設に出向いた後、付設の茶室を訪れ、抹茶を頂いた。目的は本日11月12日に開催初日を迎える日本を代表するグラフィック・デザイナーのひとり、永井一正(Kazumasa Nagai, 1929-)氏の初期から最新作までのポスター500点を展観する展覧会『永井一正 ポスター展』のチラシだ。会場は永井氏が青春時代を過ごした兵庫県姫路市にある姫路市立美術館(Himeji City Museum of Art, Himeji)。《国宝》姫路城近くに建つこの美術館には永井氏から既に200点のポスターが寄贈されており、それに300点を加えた500点が一堂に会するとのこと。チラシとともに、ポスター、チケット、図録のデザインを永井氏本人が出掛けている。永井氏がライフワークとする“生命(Life)シリーズ”の流れに沿って、姫路市を象徴する“姫路城”、別名“白鷺城”を図案化したもので、究極にまで簡素化した中に日本的な美意識とデザインの力強さを感じる美しい作品となっている。しかし、ただ美しいだけではないように思われる。白鷺と小さな鯱(シャチホコ)の対比は、自然の大きさを強調しているようであり、死と生が表裏一体である自然界の摂理を表しているようにも見える。また刷りに関しても、通常のオフセットではなく、シルクスクリーンを思わせるインパクトのある仕上がりとなっており、是非手に入れたいと思い、出掛けた次第。

以前、姫路城近くに住んでいる方とコンサート待ちのために立ち寄った喫茶店で偶然お会いしたことがあるが、国宝と言えども、日常の中に溶け込んでしまうと、何の意識もしなくなり、感動もない、とのことであった。人間はその肥大化した脳が故に、繰り返される日々の暮らしに飽き足らず、非日常的な世界や空間を演出したりせねば、目の前にある美に気付かず、果ては生きていることの意味さえも見失ってしまう。それは動物のように生き延びるための厳しい日常の営みとはかけ離れてしまってた人間の、命の根源に対する意識の希薄さに他ならない。永井氏はそうした人間の肥大し暴走する欲望の在り方を省み、地球が生命の星であることの奇跡、そして美とは命の輝きそのものであるということを改めて問い直そうとしているのかもしれない。

●作家:Kazumasa Nagai(1929-)
●種類:Flyer
●サイズ:297x210mm
●技法:Silkscreen(?)
●発行:Himeji City Museum of Art, Himeji
●印刷:Yamada Photo Process Co., Ltd, Toyama
●制作年:2017
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フォロンのカレンダー、1994年制作。チラシを見ているうちに、直接的な関係はないと思うのだが、ベルギー出身の画家で彫刻家のジャン=ミシェル・フォロン(Jean-Michel Folon, 1934-2005)がイタリアの天然ガス供給公社スナム(Snam)と鷺をシンボルマークとするローカル航空会社エアー・ワン(Air One)のためにデザインした1995年のカレンダーの表紙絵を思い出した。四角四面の都市よりも自然と共存できる田園を好むフォロンの場合も、鷺の全身を描かず、その特徴的な嘴を強調するデザインを行っており、両者の間に何かしらシンパシーのようなものが感じられる。
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# by galleria-iska | 2017-11-12 18:56 | 案内状/招待状関係 | Comments(0)