ガレリア・イスカ通信

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2017年 04月 28日

20世紀誌(第44号)「XXe siècle XLIV: Panorama 75」(1975)

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●種類:Art Magazine
●題名:XXe siécle Panorama 75 - Nouvelle sèrie XXXVIIe Année - No44 - Juin 1975
●サイズ:320x 250mm
●印刷:Imprimerie Amilcare Pizzi S.P.A., Milan
●発行:Société Internationale d'Art XXe Siècle, Paris
●制作年:1975

今月初めだったと思うが、何気に新聞を捲っていたら、アメリカのポップアートの画家ジェームズ・ローゼンクイスト(James Rosenquist, 1933-2017)が去る3月31日にニューヨーク市の自宅で亡くなったという小さな死亡記事が目に飛び込んできた。享年83歳。最近、活動を耳にしないと思っていたのだが、闘病生活を送っていたとのこと。またひとり、ポップアートの巨星が落ちた。ローゼンクイストは版画家としても数多くの作品を残しているが、彼の作品との最初の出会は、1964年にベルンのコンフェルト画廊から限定2000部で出版された画家で詩人のウォレス・ティン(Walasse Ting (丁雄泉), 1929–2010)が手掛けた詩画集「1¢Life」(1964年)の挿絵として描かれたリトグラフ「New Oxy」(Cat.no.2)(註1)であった。まだ抽象表現主義風の筆致が残る荒削りな画面は、その後の彼のスタイルとなっていく様々なモチーフと文字をコラージュのように組み合わせたものであったが、その混沌とした画面には-そこが凡人の凡人たる所以であるが-あまり魅力を感じなかった。しかし、その翌年の1965年にニューヨーク市のレオ・キャステリ画廊で行なわれた最初の個展の際に制作された、絵画作品「F-111」をもとにした案内状(メイラー・ポスター)「F-111 (Castelli Gallery Poster)」(註2)には驚いた。ロイ・リキテンスタイン場合もそうだったのだが、すっかりポップ・アートに変貌していたからである。個人的には1967年にアスペン・イースター・ジャズ・フェスティヴァル(Aspen Easter Jazz Festival)の広報用に制作されたポスターが好きで、未だ手元に置いているのだが、他のものは手放してしまったため、フランスで発行されていた美術専門誌「20世紀(XXe siècle)」所収のオリジナル・リトグラフ「Auto Tire, Dinner Traiangle」を、哀悼の意を込めて取り上げたい。このリトグラフは、アメリカの版画工房ではなく、パリのムルロー工房で刷られている点が興味を引く。ムルロー工房の刷りは彩度が低く抑えられているのが特徴なのだが、この作品の刷りでは-別刷りの限定38部のものと色調が異なる可能性もあるが-色抜けが良く、ムルロー工房のものとは思えない。

●作家:James Rosenquist(1933-2017)
●種類:Print
●題名:Auto Tire, Dinner Traiangle
●サイズ:312x240mm
●技法:Lithograph
●印刷:Fernand Mourlot Imp., Paris
●発行:Société Internationale d'Art XXe Siècle, Paris
●制作年:1975
●目録番号:95
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註:

1.
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ローゼンクイストの版画の総目録:「Rosenquist - Time dust. James Rosenquist complete graphics: 1962-1992」
Glenn Constance, published by Rizzoli International Publishing, Inc.,New York, 1993. 25x26cm, 179pp, 300 col. This book includes a catalogue raisonne of the artist's 229 prints (150 colorplates) and an extensive bibliography. このカタログはタイトルに「Time Dust」とあるように、1992年に制作されたエポック・メイキングな巨大な版画作品「Time Dust」(2.1メートルx10.6メートル)とローゼンクイストの全版画の公開を目的とする、ロングビーチのカルフォルニア州立大学美術館の企画による巡回展「Time Dust」の図録として刊行されたもの。表紙には作品の一部が使われている。
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「Time Dust」全図
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ローゼンクイストのオリジナル・リトグラフ「Auto Tire, Dinner Traiangle」に関する記載。

2.
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図版:F-111 (Castelli Gallery Poster), 737x588mm(Image:708x559mm), offset lithograph in colors, 1965 published by Leo Castelli Gallery, New York. 以前、ネットでテキストの入ったものを見たように記憶しているのだが、ひょっとすると失われた画像データの中に入っていたかもしれない。
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# by galleria-iska | 2017-04-28 21:59 | その他 | Comments(0)
2017年 04月 24日

カリン・シェケシーの写真「Nude」(1993)

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紙に直接文字を書くことが減ったことも原因のひとつとしてあるかもしれないが、記憶がこんがらがる事が増えている。自分はこれで間違いないと思っていることが、それとは別の事柄と引っ付いて、新しい事実として脳にインプットされてしまっているから厄介である。思い込みというやつであるが、妄想癖がそれに拍車を掛けているようだ。自分の言うことが信用し難くなっている。

テクノロジーの進化により銀量の減った銀塩写真の物質性が失われていったように、カラー写真も印画紙の生産がデジタル用のものに置き換えられていく中で-それはある意味概念の言語化の過程と似ているのかもしれないのだが-何かが確実に失われていくに違いない。我々が未だアナログ的な行為として愉しんでいる食べるという行為も、生命の維持という本質的な意味に還元するならば、宇宙飛行士が摂っていた宇宙食を更に進化させ、生命維持のための栄養分の補給と満腹感を得るための何らかのカプセル(サプリメントとしてあるものの応用)の摂取と仮想現実との組み合わせによって、和食であれ洋食であれ、プログラミングされた料理を堪能することが出来るようになるのではないだろうか。そうすれば食料生産のための途方もない労力が必要なくなるとともに、人類を飢餓から解放することが可能となるかもしれない、と書いたところで、2022年の世界を描いた1973年公開のアメリカ映画「ソイレント・グリーン(Soylent Green)」を思い出してしまった。快楽に虚しさを覚え、苦痛に希望を見出す。昨今の社会情勢を見ていると、人類は再びカタストロフを求めているのかもしれない。

女性のヌード写真において独自の表現スタイルを築いたドイツの写真家カリン・シェケシー(Karin Székessy,1938-)さんから頂いた(?)小判サイズのカラー写真(C-Print)。プレゼン用に焼いたものかもしれない。小道具にロープを使った写真のうちのひとつであるが、題名は不明である。いわゆる緊縛写真を意図したものではなく、動きを与えたモデルを低速シャッターで撮ることでブレを生じさせ、カラー写真ではあるが、濃紺のトーンによるモノクローム調に仕上げることで、幻想的な表情を創り出している。

●作家:Karin Székessy(1938-)
●種類:Photograph
●サイズ:156x111mm(Image:146x101mm)
●技法:Chromogenic color print(C-Print)
●紙質:Kodak Professional Paper
●制作年:1993
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                            印画紙の裏側


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                   マーカーペンによる署名と年記
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# by galleria-iska | 2017-04-24 20:30 | その他 | Comments(0)
2017年 03月 31日

ニキ・ド・サンファルの彫刻「Inflatable Rhinoceros」(1999)

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虫歯の治療が一段落し、食事に難儀しなくてもよくなった。すると、どういうわけか今度は連れ合いに歯痛が発生、毎日、シーハー、シーハーと辛そうにしている。欠伸は移るというが、歯痛もそうなのだろうか???

閑話休題、以前、アメリカの1980年代を代表するポップ・アートの作家キース・へリング(Keith Haring, 1958-1990)が自ら開いたポップ・ショップのために制作したプラスティックのオブジェ「Inflatable Baby」を取り上げたことがあるが、今回は、1968年から既にこのタイプの彫刻の制作を行なっている、スイスの彫刻家、画家ジャン・ティンゲリー(Jean Tinguely, 1925- 1991)の影響を受け、彫刻作品も数多く手掛けたフランスの画家、彫刻家ニキ・ド・サンファル(Niki de Saint Phalle, 1930-2002)の作品を取り上げてみたい。1999年、フランスの大手出版社のひとつ、フラマリオン書店(Flammarion, Paris)のグッズやオブジェ等の限定物の出版を手掛ける《Flammarion 4》依頼で制作した「動物シリーズ」のうちの『サイ(Rhinocéros)』は、ポリ塩化ビニルプラスチック= PVC plastic(polyvinyl chloride plastic)を素材として使い、空気(などの気体)を入れて膨らませる彫刻(Inflatable Sculpture)である。ニキはこの彫刻をデザインする前年、同じモチーフによるシルクスリーンの版画作品(注1)を制作している。彫刻ではニキ作品の特徴であるカラフルな色彩に彩られた面とフランス20世紀のアンフォルメルの画家、彫刻家ジャン・デュビュッフェ(Jean Dubuffet, 1901- 1985)を彷彿させるモノクロームの面とに分けられているのだが、版画作品では、彫刻の両側面が交じり合ったような画面構成となっている。彫刻の二つの側面はそれぞれ、道化師の化粧や衣装に見られるような、明と暗、陰と陽といった相反する二つ性質を表しているかのように見えるが、見る側は常にどちらか一方しか見ることができないというジレンマを抱えることになる。ただし、そこに何か教訓めいたものを読み取る必要はないであろう。この彫刻でニキは、版画作品を出発点とし、その二つの異なる構成要素を、サイの体躯を使った二つの画面構成へと発展させている。

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既に絶版となっているこの彫刻の収納袋には、《このオブジェは浮き輪でも玩具でもなく、2歳未満の子供には与えないように》との注意書きが記されているのだが、比較的安価であったため、芸術作品として接した購入者は少なかったのではないだろうか。反対に、子供にとっては格好の遊び道具であり、それ故、多くのものが傷み、失われてしまったと思われる。裏を返せば、制作者や販売者はそれを見越して制作数を決めていたのかもしれない。ただその前提として、マルティプル・アートの概念に則って、一部の愛好者向けに小部数を高価で販売するよりも、より多くの人の目に触れさせることで、その認知度を高めようとする意図があったと思われる。そして安価な物であればあるだけ、時間の経過とともにその稀少性が自然と高まっていくことは十分予測可能である。そしてその思惑(!?)は見事的中、稀少性が結果としてオリジナル作品としての評価を押し上げるベクトルとして働いている。先に挙げたヘリングのプラスティックのオブジェ「Inflatable Baby」と同様、当初、玩具扱いだったものが今やパリのドルオー(Paris Drouot) やクリスティーズ(Christie's)のオークションにも登場しているのだから、大したものである。尤も、高価な逸品にのみ興味を抱く大コレクターには無縁の存在なのかもしれないが。

●作家:Niki de Saint Phalle(1930-2002)
●種類:Inflatable Sculpture(Sculpture gonflable)
●題名:Rhinoceros(Rhinocéros)
●技法:Silkscreen on PVC plastic(Sérigraphie sur plastique PVC)
●サイズ:680x1070mm
●発行:Flammarion 4, Paris
●制作年:1999
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                          ニキの版上サイン


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註:

1.
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図版:Niki de Saint Phalle 「Rhinocéros」Silkscreen in colors, 1998, Edition:100, Size:430 x 560mm
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# by galleria-iska | 2017-03-31 20:49 | その他 | Comments(0)
2017年 03月 21日

ホルスト・ヤンセンのノートカード「Verlag St.Gertrude」

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昨年暮れから5年(!)あまり治療を我慢していた虫歯が悪化し、満足に食事がとれなくなってしまった。残った歯を使ってなんとか食べようとするも、うまく咀嚼できず、味気のない食事を続けていたのだが、激しい痛みを伴うようになり、水分で流し込むしかなくなってしまった。そうなってようやく歯科医院の戸を開いたのだが、予約制ということで、それからまた一週間、毎日激痛と闘う羽目に。一噛み毎に一時間ぐらい痛みに堪えなくてはならず、痛みと空腹で何もする気がなくなってしまった。一週間後にようやく応急処置として虫歯に詰め物をしてもらい、僅かづつではあるが、食事がとれるようになった。先ずは、めでたしめでたしと。

ホルスト・ヤンセン(Horst Janssen, 1929-1995)専門の出版社として1984年にヤンセンの住むハンブルクに設立されたザンクト・ゲルトルーデ出版(Verlag St.Gertrude GmbH, Hamburg)は、これまでに200冊近いヤンセンの作品集や多数のオフセット印刷よるポスターを刊行してきた。2006年には画廊も併設し、ヤンセン以外にも、ディーター・ロート(Dieter Roth, 1930-1998) ユルゲン・ブロートヴォルフ(Jürgen Brodwolf,1932-) アーノルフ・ライナー(Arnulf Rainer, 1929-)といったユニークな表現方法で知られるドイツ圏の現代作家の作品を紹介している。 このノート・カードは随分前に出版社からいただいたのだが、記念にと、ずっと使わずにとってあった。出版社が入るゴールドバッハ通り(Goldbachstraße)沿いの建物とその前を行く人々の様子を即興的に描いた素描(1987年3月1日の日付入り)が使われており、同社発行の販売カタログやホームページにも使われていることから、自社の広告用に制作を依頼したものかと思われる。

●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Note card
●サイズ:148x210mm
●技法:Offset
●発行:Verlag St.Gertrude GmbH, Hamburg
●制作年:1987
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# by galleria-iska | 2017-03-21 15:23 | ホルスト・ヤンセン関係 | Comments(0)
2017年 02月 27日

ホルスト・ヤンセン ポスター展図録「Horst Janssen Plakate」(1983)

  
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以前このブログで触れたことがあるが、日本におけるホルスト・ヤンセンのポスターに関する展覧会は、1983年に宮崎県都城市の市立美術館で開かれた「Horst Janssen Plakate - ホルスト・ヤンセン ポスター展」(主催:都城市教育委員会、大阪ドイツ文化センター、宮崎大学映像を考える会)が、今のところ唯一のものであるようだ。展示内容について美術館に問い合わせてみたところ、図録は作られておらず、具体的な資料は残っていないとのことであった。ところが、最近になって、共同主催者の大阪ドイツ文化センター(Goethe-Institut Osaka, Osaka)が独自に図録を発行していたことを知った。その図録がこれである。展覧会に出品されたポスターは主に1978年代以降のオフセット印刷によるものであるが、表紙に使われたのは、ヤンセンが1960年代後半に集中して制作した亜鉛版エッチングによるポスターの制作現場であるハンブルクの印刷所、ハンス・クリスティアンズ(Hans Christians, Hamburg)で撮られた写真である。印刷所の職人(?)が掲げ持っているのは、刷り上ったばかりの、1966年にドイツ南西部に位置するバーデン=ヴュルテンベルク州の州都であるシュトゥットガルト(=シュツットガルト)のヴェルテンベルグ芸術協会(Württembergischer Kunstverein Stuttgart )で開催されたヤンセンの回顧展の告知用ポスター「Württembergischer Kunstverein Stuttgart 」(註1)。この写真を使ったポスターだったか何かの作品集の表紙を見た覚えがあるのだが、肝心のメモの在り処が思い出せず、出典は特定できない。

●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Catalogue
●サイズ:250x265mm
●技法:Offset
●発行:Goethe-Institut Osaka, Osaka
●制作年:1983            

一方、ドイツでは、それより一年早く、1982年、表現主義から現代美術までの版画作品を数多く収蔵するシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州の港湾都市リューベックのクンストハウス・リューベック(Kunsthaus Lübeck)で、1978年以降のオフセット印刷によるポスター66点からなる展覧会「66 Sechsundsechzig Janssen plakate/66 Horst Janssen Posters」が開催されている。その際、美術館の中にあるルシファー出版(Lucifer Verlag im Kunsthaus Lübeck)から同展の図録「66 Sechsundsechzig Janssen plakate」が刊行され、翌1983年には、増補改訂版として、70点のポスターを収録した総目録「Werkverzeichnis der Plakate 1978-1983」が同社から刊行されている。宮崎大学の教官のコレクションをもとに行なわれたポスター展は、その入手経路は定かではないが、大阪ドイツ文化センター発行の図録に掲載された作品の制作年(1978年~1981年)を見ても分かるように、この展覧会や総目録に沿ったものであったと言って間違いないだろう。そのルシファー出版の図録を受け継ぐ形で1985年、ヤンセン専門の出版社として1984年に設立されたハンブルクのザンクト・ゲルトルーデ出版(Verlag St.Gertrude GmbH, Hamburg)が、同社と共同出版したのが、1973年から1985年までのポスターを収録した販売カタログを兼ねたポスターカタログ「Katalog lieferbarer Janssen-Plakate und -Schmuckblätter」である。その後新しく制作されたポスターを加えた増補版が、1988年、1996年、そして2000年に刊行されている(註2)。

1978年以前のポスターについては、ヤンセンが1957年から1970年代初頭にかけて制作した、リトグラフ、亜鉛版エッチング、シルクスクリーンによる初期のポスターを含むオリジナル・ポスターの回顧展「Horst Janssen Plakate 1957-1978」が1978年、ヤンセンが幼少期を過ごしたオルデンブルクの市立美術館(Stadmuseum Oldenburg)で開催されており、その際、1957年から1978年までのポスターの総目録「Horst Janssen Plakate 1957-1978 Werkverzeichnis」を付した図録が刊行されている。従って、ルシファー出版が刊行した総目録はこの図録の続編ということになる。この展覧会においてようやくヤンセンの初期のポスターの全貌が明らかになったのであるが、時すでに遅しではないが、今や重要なコレクターズ・アイテムとなった1960年代のポップ・アートのポスターと同様、安価で販売されたヤンセンの初期のポスターは既に絶版になっており、容易に入手出来なくなっていた。私自身も1980年代の中頃、オルデンブルク市立美術館での回顧展の図録をもとに、ヤンセンの契約画廊として1957年から数多くの展覧会の告知用ポスターを発行したハンブルクのブロックシュテット画廊(Gelerie Brockstedt, Hamburg)をはじめ、何軒かの画廊に在庫を確認したのだが、どこからも良い返答は得られなかった。

ヤンセンの初期のポスターに関しては、その作風が北斎によって導かれた「自然との対話」から生み出されたものとはかけ離れていることもあるのかもしれないが、回顧展以降も評価は大きく変わることはなかったようである。その取り扱いは、画廊ではなく、一部のポスター専門画廊やヤンセンの画集などを扱っている書店に限られていたのだが、2000年にオルデンブルグにホルスト・ヤンセン美術館(Horst Janssen Museum, Oldenburg)が開館し、ポスターがヤンセン固有の表現領域として認知されるようになると、それまで眠っていた個人コレクションが、ネットオークションやパブリック・オークションにも登場するようになった。その結果、ヤンセンの版画作品を扱う画廊もその存在を無視出来なくなり、今では版画と同列に扱うところが増えてきている。今日のインターネットの普及による情報の共有は反面、ある種の共同幻想に支えられていた複製芸術である版画全般の評価の崩壊を招いたという負の側面もあるのだが、逆に、それが既成の芸術的価値の中での評価とは異なる、複製化時代を経てデジタル時代における創造性の伝播という意味を、さらに押し広げ、もうひとつの価値観というのを形成していく可能性も生まれている。周知のように、ヤンセンのポスター制作は、通常のポスターの役割を借りてはいるものの、単なる情報伝達のためのメディアに止まることなく、いやむしろ、それはヤンセンにおいて、ポスターというメディアそのものが創造的行為の場として借用されており、ポスターそれ自体の役割を無意味化する企みが込められていたと見ることが出来るかもしれないのである。19世紀以前の作家に負うところが多いヤンセンであるが、そのような姿勢はまさに現代美術の文脈に沿ったものであると言えようか。

それに対し、我が国の状況はと言うと、オルデンブルク市立美術館での展覧会から既に40年近く経つが、先のポスター展以降、ヤンセンのオリジナル作品としてのポスターに関する包括的な紹介は未だに行なわれていない。我が国にも、ヤンセンの1978年以降のポスターを紹介したクンストハウス・リューベックと同じように、版画作品の収集や調査研究を専門に行なっている某版画美術館があるが、その関心はもっぱら1970年以降の、契約画廊のブロックシュテット主導(?)による画廊向けに制作された、所謂シリアスな作品に向かっており、ヤンセンのポスター、ことに現代美術の大きな変革期であった1950年代後半から1970年代初頭にかけての創作活動(註3)に対する正当な評価はなされていない、というのが現状である。
   

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ヤンセンのポスターに関するテキスト(筆者不明)
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裏表紙に付けられた自叙年譜
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註:

1:
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●作家:Horst Janssen(1929-1995)
●種類:Poster(Plakat)
●題名:Württembergischer Kunstverein Stuttgart
●サイズ:847x594mm
●技法:Strichätzung(Zinkätzung)
●限定:1000(500/white paper, 500/brown paper)
●刷り:Hans Christians, Hamburg
●制作年:1966
●目録番号:Meyer-Schomann 19

2.1999年に、上記の図録を集約する形で、ヤンセンの1957年から1994年までの全ポスター213点を収録した総目録「Horst Janssen Das Plakat」が、ハンブルクのザンクト・ゲルトルーデ出版(Verlag St. Gertrude, GmbH, Hamburg)から刊行された。
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Horst Janssen Das Plakat(Eine Auswahl aus den Jahren 1957 bis 1994. Entwürfe - Vorzeichnungen - Variationen) by Helga und Erich Meyer-Schomann, 359x268x43mm, 316 pages, 463 mostly color plates. A selection of Horst Janssen's posters on various subjects but all tied to an artistic or creative activity between 1957 to 1994 - 213 mostly full-page color reproductions with brief descriptions.

2.ヤンセンが1960年代後半に始めた亜鉛版エッチングやシルクスクリーンによるポスターに見られる平面性を強く意識したスタイルは、現代美術におけるイリュージョンの排除と平面性の追及という命題に対するヤンセンなりの応答と見て取ることができるかもしれない。


                                                                   


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# by galleria-iska | 2017-02-27 22:16 | ホルスト・ヤンセン関係 | Comments(0)